炭疽病の主な症状や原因とは?
野菜を育てていると、葉や果実に黒い斑点が現れたり、部分的に枯れたりすることがあります。この症状は炭疽病の可能性があり、放置すると作物全体に広がり、収穫量の大幅な減少につながることもあります。
炭疽病は、特に高温多湿の環境で発生しやすく、さまざまな野菜に影響を及ぼします。発生しやすい条件や原因を理解し、早めの対策を講じることが重要です。
主な症状
炭疽病は、野菜の葉、茎、果実などに以下のような症状を引き起こします。
◯葉
小さな円形から不整形の黒褐色の斑点が現れ、次第に拡大します。斑点の中央部が淡色化し、周囲が暗色の縁取りを持つことがあります。重症化すると、葉全体が黄変し、枯死することもあります。
◯茎
黒褐色の病斑が生じ、茎が腐敗し、植物全体の萎凋や枯死を招くことがあります。
◯果実
小さなへこみや黒褐色の斑点が発生し、果実の腐敗や落果の原因となります。
原因や発生する条件
炭疽病は、主にColletotrichum属の糸状菌(カビ)によって引き起こされます。この病原菌は、以下の条件下で特に発生しやすくなります。
◯高温多湿
気温が25~30℃で、湿度が高い環境は、菌が繁殖しやすく、発病の大きな要因になります。
◯大雨や水やりのしすぎ
葉や果実が長時間湿った状態が続くと、感染リスクが高まります。
◯密植状態
風通しが悪くなることで、湿度が高くなり、病気の発生を助長します。
発生しやすい作物の例
炭疽病は、多くの野菜に影響を及ぼしますが、家庭菜園でも育てることの多い作物を例に症状を紹介します。
◯トマト
果実に病斑が現れ、進行すると腐敗して落果してしまいます。葉も穴が空き、枯れてしまいます。発病すると品質低下や収量減少の原因となります。
◯キュウリ
葉や果実に斑点が生じ、商品価値が損なわれます。
◯ホウレンソウ
葉に病斑ができ、食味や見た目が悪化します。
◯エダマメ
莢や葉に斑点が発生し、収穫量の減少を招きます。
野菜の炭疽病は、人体への影響なし
炭疽病に感染した野菜を誤って摂取しても、人体に直接的な健康被害を及ぼすことはありません。しかし、感染した部分は食味が劣化し、見た目も悪くなるため、基本的には、炭疽病に感染した野菜は食べない方が無難です。
炭疽病の基本的な防除方法
炭疽病は、一度発生すると短期間で作物全体に広がることがあり、収穫量や品質の低下につながる厄介な病気です。しかし、事前に適切な防除策を講じることで、発生リスクを大幅に抑えることができます。
炭疽病の防除には、大きく分けて三つのポイントがあります。
一つ目は適切な農薬を使用すること。発病初期に効果的な農薬を使えば、被害の拡大を防ぐことができます。
二つ目は栽培環境を管理すること。湿度が高い環境では病原菌が活発になりやすいため、風通しを良くし、適切な水管理を行うことが重要です。
三つ目は耐病性品種を選ぶこと。病気に強い品種を選ぶことで、炭疽病の発生そのものを減らすことができます。
また、効果的な対策も詳しく紹介します。
適切な農薬を使用する
炭疽病を防ぐためには、まず発病初期に適切な農薬を使用することが有効です。病原菌が拡大する前に、効果のある農薬を散布することで、被害を最小限に抑えることができます。
農薬を選ぶ際には、炭疽病に有効な成分を含むものを選び、使用方法を厳守することが大切です。また、定期的に農薬をローテーションしながら使用することで、耐性菌の発生を防ぎ、より効果的な防除を行うことができます。
栽培環境を管理する
栽培環境の管理も、炭疽病の発生を抑える上で欠かせません。この病気は高温多湿の環境で発生しやすいため、畑の風通しを良くし、過剰な湿気を避けることが重要です。株と株の間隔を適度に取り、混み合わないようにすることで、湿気のこもりや病気の広がりを防ぐことができます。
また、水はけの良い土壌を作ることも大切で、畝を高くしたり、排水をスムーズにすることで、根元の過湿を防ぐことができます。さらに、葉や果実に水が長時間残らないよう、朝のうちに根元に直接水を与える方法を取り入れると良いでしょう。
耐病性品種を選ぶ
耐病性品種を選ぶことも、炭疽病対策の一つとして有効です。病気に強い品種を選ぶことで、そもそも炭疽病にかかりにくい環境を作ることができます。特に、トマトやキュウリ、ホウレンソウなどの作物では、耐病性を持つ品種が開発されているため、そういった株を植えることで、発病リスクを軽減できます。
また、同じ場所で同じ作物を栽培し続けると、病原菌が土壌に蓄積しやすくなるため、異なる作物を交互に植える輪作を実践することも予防策として有効です。
その他にできる対策
農作業に使う道具の管理も忘れずに行いましょう。感染した作物に触れた農具を消毒せずに使用すると、病原菌が広がる原因となってしまいます。
作業後はアルコールや農業資材用殺菌剤などを使って消毒し、清潔な状態を保つことが大切です。
また、病気に感染した植物の残渣をそのまま放置せず、畑から取り除いて適切に処分することで、次の栽培シーズンへの影響を防ぐことができます。
炭疽病の予防と対策を野菜別で解説
炭疽病は多くの野菜・果樹などで発生する病気ですが、ここでは、特に家庭菜園で育てる機会の多い、トマト・キュウリ・ホウレンソウ・エダマメについての炭疽病の予防方法と対策を紹介します。それぞれの作物に合った対策を取り入れ、炭疽病の被害を最小限に抑えましょう。
トマト
トマトは高温多湿の環境で炭疽病が発生しやすく、特に梅雨時期や夏場に注意が必要です。葉や果実に黒褐色の斑点が現れ、進行すると果実が腐敗して落果することもあります。
予防のためには、風通しの良い環境を作ることが重要です。支柱を立てて茎や葉が地面に付かないようにし、適度に枝葉を剪定して通気性を確保します。土壌からの病原菌の跳ね上がりを防ぐために、マルチングを施すのも効果的です。
また、定期的に葉の状態を観察し、異常が見られた場合は早めに対処します。発病した場合は、感染した葉や果実を速やかに取り除き、農薬を使用して病気の拡大を防ぐことが大切です。
キュウリ

キュウリの葉の斑点症状 引用:香川県公式ホームページ
キュウリは葉が大きく、湿度が高い環境では炭疽病が発生しやすい作物の一つです。特に、長雨が続く時期には注意が必要です。葉に黒褐色の斑点が現れ、症状が進行すると葉が枯れ落ちることがあります。
予防のためには、適切な株間を確保し、密植を避けることが大切です。支柱やネットを利用して立体栽培を行い、地面にツルが接触しないようにすることで、病気のリスクを軽減できます。
また、水やりは朝方に行い、葉が濡れたままにならないように注意します。発病した場合は、感染した葉をすぐに取り除き、病気が広がらないように管理します。必要に応じて、炭疽病に有効な農薬を散布することで、拡大を防ぐことができます。
ホウレンソウ
ホウレンソウは比較的冷涼な環境を好みますが、多湿な状態が続くと炭疽病が発生しやすくなります。さらに、気温が高くなりすぎると病原菌の繁殖が活発になるため、注意が必要です。葉に小さな褐色の斑点が現れ、やがて大きくなって葉が黄変し、最終的には枯死することもあります。
予防のためには、水はけの良い畑を選び、適切な間隔で播種を行うことが重要です。また、過剰な窒素肥料の使用は葉を必要以上に成長させ、病気に弱くなる原因となるため、施肥のバランスにも気を配る必要があります。
発病した場合は、感染した株を速やかに除去し、周囲への感染を防ぐように管理します。また、農薬を使用する際は、収穫時期に影響を与えないものを選ぶようにすると安心です。
エダマメ
エダマメは、開花期から結荚期にかけて炭疽病が発生しやすく、高温多湿の環境では特に注意が必要です。葉や莢に黒褐色の病斑が現れ、進行すると収穫量の減少につながります。
予防のためには、適切な株間を確保し、風通しの良い環境を維持することが重要です。窒素肥料の過剰な使用は避け、適切な肥培管理を行うことで病害への抵抗力を高めることができます。
発病した場合は感染部分を早めに除去し、病気が広がらないようにします。収穫後は残渣を適切に処理し、次作への影響を防ぐことが大切です。
炭疽病の治療や防除に効果的な農薬
炭疽病の防除に使うことができる農薬は数多くありますが、その中でも見かけることの多いものを紹介します。
STダコニール1000
有効成分TPN(テトラクロロイソフタロニトリル)を含む保護殺菌剤です。野菜、果樹、茶、花き類、水稲など多くの作物の基幹防除薬剤として使用されています。幅広い病害に対して安定した効果を持ち、耐性菌の発生事例が少ないことが特徴です。
GFベンレート水和剤
有効成分ベノミルを含む浸透移行性の殺菌剤で、糸状菌の細胞分裂を阻害することで効果を発揮します。古くから使用されていますが、耐性菌の発生リスクが高いため、使用には注意が必要です。
ジマンダイセン水和剤
有効成分マンゼブを含む予防効果の高い殺菌剤です。耐性菌の発生が少ないことが特徴で、多くの作物の病害に対して使用されています
トップジンM水和剤
有効成分チオファネートメチルを含む浸透移行性の殺菌剤で、糸状菌の細胞分裂を阻害します。広範囲の病害に効果がありますが、耐性菌の発生リスクが高いため、使用には注意が必要です。
シグナムWDG
有効成分ピラクロストロビンとボスカリドの2つを含む殺菌剤で、炭疽病の他、野菜の灰色かび病、菌核病、べと病、すすかび病など、幅広い病害に優れた効果を示します。作物の葉の内部へ浸達するため、残効性、耐雨性に優れ、効き目が長持ちすることが特徴です。
まとめ
炭疽病は多くの野菜に発生しやすく、一度広がると作物全体の生育や収穫量に大きな影響を及ぼします。特に高温多湿の環境では発生リスクが高まるため、早めの対策が重要です。
炭疽病を防ぐためには、日頃からの環境管理が欠かせません。風通しを良くする、適切な水やりを行う、耐病性品種を選ぶといった基本的なことを徹底することで、病気のリスクを大幅に減らすことができます。また、農薬を適切に使用し、必要に応じて異なる農薬をローテーションさせることで、効果的な防除が可能になります。
ぜひ本記事の内容を参考に、炭疽病を予防しながら健康な作物を育てるための工夫を実践してみてください。
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