とびきりおいしいお米を全国に届けたい!
南魚沼産米は、食味の良さが極めて高く評価されている。同地産米の米価は常に全国平均を大きく上回り、米・食味分析鑑定コンクール国際大会の受賞者では、毎年のように同市の米生産者が名を連ねている。今回お話を伺った笠原農園は、そんな「おいしい米」で知られる南魚沼でも、篤農家として知られている。
笠原農園の圃場面積は2025年現在で58ha。そのうち6haは無農薬の有機栽培だ。水田の枚数は400枚にもなる。通年雇用の従業員は10名、農繁期には最大23名を雇用している。米の銘柄は、コシヒカリ、ミルキークイーン、ゆうだい21と、他少々。販売先は95%が個人販売で、その多くは、ふるさと納税が占める。
自家製ボカシ肥料が、とびきりおいしい米作りの秘訣
味への並々ならぬこだわりについて、代表取締役の笠原勝彦(かさはら・かつひこ)さんは次のように語る。
「南魚沼だからと言って、必ずしもおいしい米ができるわけではありません。味を決めるのは、種子、土壌、水、そして栽培技術です。栽培技術のひとつであり、良い土を作ってくれる自家製のボカシ肥料が、当園の米のおいしさの秘訣です。前年度の藁は、6月に田んぼの水温が上昇するにつれて発酵してメタンガスが発生し、稲の生育を阻害します。でも、分解されれば、前年度の藁も良い肥料になります。マイナス材料を、いかに早くプラスに転換させるか、が大切です。それを行ってくるのが、微生物をふんだんに含んだボカシ肥料なのです」
笠原さんは、ボカシ肥料は人間の食事に例えると”おかゆ”である、という。内臓に優しく体に素早く吸収されるからだ。「ボカシ肥料はアミノ酸を豊富に含んでおり、これを稲が素早く吸収する。だからボカシ肥料を使うことで、米に甘味を乗せることができるんですよ」と教えてくれた。このボカシ肥料は、もみ殻の他、米ぬか、魚粕、カニ殻、昆布などを原料として自社で生産。これを全ての圃(ほ)場に投入しているのだ。
無農薬の有機栽培でネックになる雑草対策は「ウィードマン」で効率化する
無農薬の有機栽培米では、田植したら即米ぬかを撒いて表面を発酵させることで、雑草を酸欠にさせて根絶やしにする。
「これにより、田植してから3週間以上、何もしなくて大丈夫です。仕上げとして一度『ウィードマン』を掛けたら、雑草対策は終わりです。昨年は、一度も手取りで田んぼに入りませんでした。『ウィードマン』抜きには、無農薬の有機栽培は、やっていけません」
「ウィードマン」とは、オーレックが販売している水田除草機のこと。米を有機栽培する上でボトルネックとなる雑草対策を、機械に乗ったまま、楽に、確実に、実施できる。笠原さんは、あらゆる除草方法を試した結果、「ウィードマン」にたどり着いたという。
「私は『ウィードマン』が製品化される前、試作の段階から開発に協力してきたので、愛着もあります。『ウィードマン』は条間と株間の両方を除草できますし、小回りが利くのが特に良いね。当地は10a圃場が標準なので、大規模化しようとすると枚数が増え勝ちです。小回りが利くことで、小さな圃場でも効率的な生産が可能になります」
それでも拡大し続ける圃場での生産をこなすには、10a圃場のままでは対処が困難になりつつあるという。
規模を拡大しつつ効率的な生産するには合筆が不可欠
笠原農園が継続的に力を入れているのが、圃場の合筆である。ブルドーザーとバックホー(ユンボ)を購入して、小さな10a圃場を、より大きな圃場へと拡大している。建設機械は高価だから、一度に両方というわけにはいかなかったが、お金を貯めて購入したという。長期的に考えれば、買った方が3割は安くなる、と笠原さんは説明した。
「10a区画5枚を1枚にする、というのが基本になります。これで10a区画の地域の田んぼが50aになります。20a区画の田んぼを2枚を1枚にすることもあります。米生産に掛かる生産費を圃場面積ごとに比較した数字を調べたのですが、10aでは18,000円も掛かるのに、50aだと7,000円にまで落ちる、と記載されていました。1枚の圃場を大きくすることで、これだけ生産コストを下げることができるのです。作業効率がまったく違いますから」
合筆を進めるもう一つの理由は、田んぼの水持ちが悪いから、でもあるという。一部の田んぼでは、水を掛けても一日で10cm減ってしまう。この2枚を1枚にすることで、一日に1cmしか減らなくなる。水がもたないと冷たい水を掛け続けることになり、稲が生育しないだけでなく、除草剤の効果も続かない。収量の観点からも、同地では合筆は不可欠なのだ。
規模拡大に当たって、農地価格が下落傾向にあることが、追い風になっている。米どころといえども、後継者が居ない人が離農するケースが増えている、と笠原さんは説明した。
「農地の価格が下がってきており、近年はようやく手が届くようになりました。15年前は300万/10aが相場でしたが、5年ほど前に80万円/10aになり、今では30~40万円で購入できるようになりました。だから将来を見据えて、毎年買えるだけ買うようにしています」
圃場整備の補助があれば農地の集約化が進み生産性が上がる
笠原さんは将来の展望について、こう先を見据える。
「当地は米どころとして知られていますが、世界的には八海山(八海醸造)の方が有名ではないでしょうか? 日本酒好きなら、八海山を知らない人は居ないでしょう。同社はニューヨークに酒蔵を建てたり、ウイスキーに挑戦したりと、あれだけの地位を確立しながら、今でも新しい挑戦を続けています。私の目標は米農家の八海酒造になること。とびきりおいしい米を作ることを大前提としつつ規模を拡大して、日本中にとびきり美味しい米を届けたいと考えています。そのためのノウハウは身に付けました。ボカシ堆肥を惜しみなく使って、土にお米を作ってもらう、というのが私のやり方です。良い堆肥を作り、微生物ごと田んぼに入れて、微生物一杯の土にする。当社では、全ての田んぼにボカシ肥料を投入しており、化学肥料は使っていません。これにより、誰よりもおいしい米を作ることができます」。
その上で、米作りの行く末について、こう国・地方自治体へ提言する。それを本稿のまとめとしたい。
「米不足が叫ばれる昨今ですが、米を沢山作りたい、という人は少なくないはず。ですから国や地方自治体には、圃場整備の予算を組んで、速やかに使えるようにしてほしいです。そう願っているやる気のある農家が、全国にたくさん居るはずですから」
写真提供:笠原農園