SAWAYAMA FARM栽培への思い
北海道十勝・清水町にある「SAWAYAMA FARM(さわやまファーム)」は、代表の澤山直樹さんと取締役の澤山あずささん夫妻が、38ヘクタールの農地で多様な作物を栽培しながら、環境と調和した農業を追求しています。
農場では慣行栽培、有機栽培(2013年に有機JAS認証を取得)、自然栽培を実践し、小麦、豆を中心に50〜60品目ほどの野菜を生産しています。
今回話を伺ったのは澤山あずささん。高校卒業後、北海道十勝地域のJA木野(木野農業協同組合)に入職。2014年、結婚・妊娠を機に退職して夫・直樹さんの家業であるSAWAYAMA FARMに就農しました。
現在は生産現場だけではなく、在来種の保存を目的とした「シードバンク」や、農業体験を提供する「ナチュラルファームスクール」などの教育プログラムも展開し、次世代への農業・食の知識の継承と地域コミュニティーの活性化を図っています。
そして、2024年からは、畑で米を育てる「陸稲(おかぼ)」の自然栽培も開始。水田を必要としない新しい米作りの形として注目されています。
SAWAYAMA FARMがある十勝地域はコバマツの地元でもあります。食料自給率1200%の十勝地域で米ができたら最強なのでは。きっとコバマツだけではなく、多くの人がそう思っていたはず。
なぜ今から稲作なのか
畑作が中心で、お米の生産率はほぼ0%の北海道十勝地域で、しかも自然栽培。なぜ前例がない挑戦をしようと思ったのでしょうか。あずささんは、「『つくる』から『食べる』までを皆で体験し、食と農を通して人と人がつながる場をつくりたい、という思いがありました。それを、日本人にとって一番身近なお米で実現できたらよいと思いました」と語ります。
初年度は北海道のブランド米きたくりんとななつぼしを育苗した区画と、機械を使った直播(ちょくはん)区画、手作業の区画の計4区画にそれぞれ分けて栽培。結果的に25アール(2,500平方メートル)で700キロ以上の収穫があり、区画によって収量も違ったそうです。
手作業区間は、ナチュラルファームスクールのイベントメンバーを含めて200人以上が播種(はしゅ)、除草、収穫などの作業に携わったそうです。一般の人や学生、中には農家も「陸稲が珍しいから」と手伝いに来たのだとか。その人数を見ても、多くの人が十勝で稲作をすることに興味を持っていることを感じられます。
全て機械でできてしまうところもあえて人の手で行う理由としては、「いろいろな人とこの前例がないことに挑戦ができるから。その方がおもしろいから」と話すあずささん。
消費者と生産者の垣根をなくし、「全ての過程を分かち合おう」というあずささんの思いを感じます。
陸稲2期目で栽培の大変なところ・希望を持てるところ
「今年はコメニティーのメンバーが増えて●●人でやろうとしています」とあずささん。興味を持つ人、関わる人が増えてきていると感じているそうです。
陸稲は初の試みでしたが25アールの面性から、700キロの収量が取れたことで「水田ではなくても栽培ができる」という手ごたえを感じ、さらに面積を拡大していきたいともこと。
また、ほとんどの十勝の農家は畑作中心で、稲作専用の機械を持っていません。しかし、小麦ドリルや豆まきの機械で種もみをまくことができたり、豆用のカルチで草取りができるなど、すでに農家が持っている機械でも代用が可能。つまり、新しく機械を購入しなくても、現在持っている機械だけで始められる可能性が十分にあるそうです。
これは、稲作専用の機械を持っていない生産者も十分に挑戦できる可能性があるのではないでしょうか。
そして、麦の収穫後にまくなど、輪作の作物としても活躍できる可能性があるとも話していました。
農家の関心は高い!?陸稲イベントに農家200 人?
そんなSAWAYAMA FARMの陸稲に挑戦した1年を報告するイベントが2025年2月に十勝の芽室町で開催されました。
報道機関からは「近隣の生産者達は関心がないのでは」と言われていたそうですが、当日は200人を超える生産者が十勝管内外から集まったそうです。
イベント後のアンケートではほとんどの農家が陸稲に対してポジティブな意見を述べており、「自分もやってみたいと思った」「十勝で陸稲ができたらおもしろい」「まずは自家消費用でやってみたい」など、取り組み自体にも前向きな声が大きかったようです。
農家の平均耕作面積40ヘクタールの十勝地域で、ここに参加した農家が陸稲に挑戦したら……。国産の米の供給を支える一つの産地になるのでは!?そんな可能性も感じられます。
気になる食味調査のアンケートも、ほとんどの参加者が「おいしかった」と回答していたそう。
コバマツも報告会に潜入し、試食をいただきました。甘みがあり、とても美味しかったです。食味もバッチリで生産者の熱量もある。可能性しか感じません。
陸稲栽培の今後について
今後については、仮に規模を拡大する場合でも、手作業の工程は大切に残していきたいと考えているそうです。今後は環境に配慮した区画や循環型の区画といった持続可能な農のあり方を極めていきたい。
また、自家採種した種を使いながら少しずつ種を増やしていくことで、土地の風土や気候に順応し、年々たくましく育っていく作物を育てていきたいという思いがあるそうです。今、手元にあるほんの数粒の種から、未来へとつながる万倍の命に育てていくことが、今後の大きな目標だとあずささんは語ってくれました。