徳島で感じた農業ビジネスの可能性
横山:今日はアイ・エス・ネクスト株式会社の酒井さんにお越しいただきました。
酒井:アイ・エス・ネクストの酒井と申します。現在、淡路島と徳島県、大分県で青ネギに特化した生産と販売を行っています。昨年は約2650トンの青ネギを取り扱いました。
横山:今日は「この愛情は、ネギれません」と書かれたTシャツを着ていますね。本邦初公開なのですよね(笑)。
酒井:はい。今日のために着てきました。これは僕たちのネギに対する愛情を表しています。
横山:出身は兵庫県の淡路島ですが、徳島県を選んだ理由を教えていただけますか。
酒井:徳島県の阿波市に拠点を構えています。市の契約農家に年に2、3回訪問していて、そこで「農業に恵まれている地域だけど、後継者が居なくて年々離農者が増え、耕作放棄地が増えてきている」という話を聞きました。ネギは夏の生育に当たって、水がとても重要です。この地域は水に恵まれており、環境はすごく良いです。農地も空いていると聞いていたので、ここで事業を展開をしようと徳島に移住をしました。
横山:青ネギを作り始めたきっかけは。淡路島だとタマネギのイメージはありますけど、青ネギのイメージはあんまり無かったので。
酒井:元々、父親が農業をやっていて、タマネギ・レタス・コメを栽培していました。父が新しいことを模索している時に、神戸の知人から「淡路島に青ネギはないのか」という話がたまたまあったみたいです。それから少しずつ作っていき、ビジネスとして面白いということで青ネギ栽培が始まりました。

アイ・エス・グループのネギ畑にて
農業のイメージが変わったきっかけ
横山:農業に対して当時はどんなイメージを持たれていましたか。
酒井:幼少期に実家の農業を手伝っていました。当時受けたイメージが三つあります。まず、周りを見ても農業者は高齢者ばかり。「農業は高齢者がする仕事」だと思っていました。二つ目は農業をすると休みがない。三つ目がもうからない。毎朝、祖母がJAの市況を見て「今年も全然もうからないな」とずっと言っていたので、そのイメージがありました。
横山:そんなイメージの中でも農業をやろうと思えたきっかけは何だったのでしょうか。
酒井:父から決算書を見せてもらったことがきっかけです。「農業のやり方一つ・考え方一つでこれだけもうかるんだ」という驚きがありました。売り上げはその当時だと7000万くらい。当時は市場が伸びていて、まだまだプレーヤーが少なかったという理由もありますが、利益で2000万くらい出していました。
横山:すごいですね。
さまざまな困難の壁
横山:淡路島から徳島県に行った時、まだそれほど信用は築けていなかったと思うんですが、農地はすぐ借りられたのですか。
酒井:すぐには借りられませんでした。なぜかというと、見知らぬ人に貸したくないとか。市役所に行ってもあんまり相手にされませんでした。僕も当時23歳だったので、年齢的にも「こんな若造が農業できるわけない」と思われたのかもしれないです。農地を借りるのに約半年かかりました。
横山:幼少期には農業のお手伝いはしていたと思いますが、青ネギ栽培の技術なんて当然無いわけですよね。そこはどうやって身に付けていったんですか。
酒井:はじめは父がやっていたものがベースとしてありましたけど、そこに僕は疑問点がありました。土の状態も調べずに肥料もだいたいの量。いわゆる勘での農業にすごく違和感がありました。僕が徳島に行ったタイミングから土壌診断をしたり、メーカーと一緒に試験栽培をしたりしました。僕たちは液体肥料をすごく活用していますが、その活用方法やノウハウをいろいろ教えていただき技術を身に付けていきました。
横山:経営についても聞いていきますが、短期間でかなりの急成長を遂げたと思います。「徳島県でこれくらいのスピード感で経営規模の拡大をしていく」という計画は予定通りに進んだのでしょうか。それとも更に高い計画を立てたのでしょうか。
酒井:予想外でしたね。僕らもこの短期間でここまでいけるとは思っていませんでした。参入した時に「3年で年商1億円を突破する」という目標がありました。なんとか突破できましたが、その次の段階で壁にぶち当たったと僕自身は思います。1年目まで僕はプレイングマネジャーみたいなかたちで、生産のこともしながら経営のこともしていました。1億を超えて次の3億、5億を目指そうとした時に、「もうプレーヤーをしていたら絶対無理だ」と思い、組織で経営をしていくという経営の仕方に振り切りました。ですがそこが大きな落とし穴でした。そもそも経営って何をしたらいいか、マネジメントの知識が全く無かったんです。なので会社が不安定な時期がありました。
学ぶことで困難を乗り越える
横山:その壁を突破できるポイントって、今振り返るとどんなキーワードが出てきますか。
酒井:「学び」でしょうか。徳島県の、ある先輩経営者から「まず理念をつくれ」って言われたんです。「自分自身が進むべき方向性をまずはしっかり定めなさい」と教えてもらい作成しました。そのおかげで自分の判断基準ができて良かったと思います。
横山:酒井さんのオフィスにもミッション・ビジョン・バリューが張られていますね。
酒井:バリューをしっかり体現していたらミッション・ビジョンにはたどり着くので、バリューが大事ですよね。そこを日々の仕事にいかに落とし込んでいくか。そういった取り組みをしています。
横山:ミッション・ビジョン・バリューに基づいた評価制度や人事の昇格制度にも取り組んでいるんでしょうか。
酒井:まだ運用として100%ではないですが、取り組んでいます。評価に対しては全てバリューで設定をしています。
高い目標を持つことの大切さ
横山:酒井さんにとっての全ての判断軸の根幹を教えていただけますか。
酒井:高い目標を設定しておくことがとても大事だと思っています。「できる・できない」で判断せず、まず高い数字を設定しておくこと。それによって思考を変えていかないといけません。目標を達成させるために思考が変化した点が良かったと感じています。
横山:確かに見ている世界・目指さなきゃいけない世界が変わると行動も変わりますからね。
酒井:「選択と集中をしていかないといけない」と強く思ったきっかけでした。
横山:「できる・できない」を一旦置いといて、目標設定をしてみる。そして「選択と集中」ということは、経営者としても事業拡大していく上で重要な要素になってくると思います。改めて私も良い気付きになりました。
(編集協力:三坂輝)