家賃は安い、けれど…
田舎暮らしのメリットとしてまず挙げられるのが「家賃の安さ」です。実際、都市部の賃貸相場と比べると、同じ価格で広々とした一戸建てに住めるケースもあります。住居費は家計の中でも大きなウェイトを占めるので、これは見逃せないポイントです。
しかし、都会人憧れの古民家というのは隙間が多く、夏は虫が侵入し、冬は冷たい風がビュービュー吹き込んできます。快適に暮らすには断熱材を入れる工事や、シロアリ駆除などもろもろの追加費用が必要なことも。また新築の場合、土地代は安くても建築費はほぼ同じか、むしろ辺鄙(へんぴ)な場所だと資材搬入や人件費で高くつくこともあるのでしっかりリサーチしたほうが良いでしょう。近所付き合いのはじめの一歩である自治会費もケチると大変なことになるのでお忘れなく。
お裾分けでも意外と浮かない食費
「田舎は野菜をもらえるから食費が浮くね!」と言われますが、現実はそれほど甘くありません。確かに季節の野菜のお裾分けは大変ありがたいですが、食卓に欠かせない米・肉・魚はもちろん自腹です。総務省の調査によると、都市部と田舎の野菜購入費の差は月に1700円程度。お裾分けは確かに助かるけれど、大きな節約とは言いにくい数字です。
また、地方の小規模スーパーは競争が少なく、都市のような安売り合戦が起こりにくいため、食品も決して安いとは言えません。安価な店舗を求めて街に出ると時間とガソリン代が掛かりますし、宅配サービスを利用すると送料が必要です。
一方で、田舎には飲食店が少ない分、外食などの費用が浮く側面はあります。
車への課金はケタ違い
バスが1時間に1本、最寄りのコンビニが車で30分という世界を想像してください。真の田舎では、車の概念は「一家に1台」ではなく、「大人1人に1台」が標準となってきます。もはや車は単なる移動手段の一つではなく、生活そのものなのです。
しかし、自動車の維持には、車両購入費、ガソリン代、自動車税、車検費用、自賠責に任意保険料、更には駐車場代(通勤で駅周辺に有料で借りる場合もある)が定期的に重くのし掛かってきます。数万円単位の出費はもはや普通なので、都会の「電車賃数百円」が恋しくなります。
光熱費と上下水道費はむしろ割高
都市ガスが無い田舎では、割高なプロパンガスが主流です。そのため我が家では太陽熱温水器・薪・灯油の三段活用でお風呂を沸かしています。それでも冬場は灯油ストーブを使うのも重なって、灯油の消費が激しく財布まで凍りそうです。
更に、かつてエアコン不要が自慢だった田舎も、今では地球温暖化のあおりを受け冷房必須の地域が増加。電気代もじわじわと増えています。
水道代については、人口の多い都市に比べ地方は高くなることが多いです。更に下水道が無い地域では汲み取りや浄化槽の保守点検、清掃費用などが下水道使用料よりも高額になってきます。「田舎のインフラは高い」と思っておいた方が良いでしょう。
通信環境はカネ次第
最近では在宅ワークやオンライン学習の広がりに加え、SNSや動画視聴など日常的な趣味もネット環境に依存するようになりました。もはや通信の快適さが暮らしの満足度を大きく左右すると言っても過言ではありません。特にリモートで働く人にとっては、まさに死活問題と言えるでしょう。しかし、山間部や過疎地域では、光回線が整備されていない、格安SIMが利用できないといった通信インフラの課題が依然として残されています。通信コストを抑えたくても大手キャリアしか電波が無かったり、光回線の業者に「工事の対象外地域です」と言われることも。同じ地域でも電波がある場所とない場所があるので、高い家賃を払ってでも電波のある場所に住まないと仕事ができないという困った事態になりがちです。
見えない教育コスト
教育費に関しても、田舎暮らしで大きく削減できるわけではありません。授業料や習い事、学習塾への支払いは都市部と同様の出費が必要です。習い事の選択肢の少なさから中学卒業までは都市に比べると安くなるケースも多いように感じますが、高校、大学となると都市とほぼ同じと言えるでしょう。むしろ、通学手段の不便さから親が日常的に送迎を担う必要が生じます。こうなると、親の労働時間は削られ、家計にも二重の打撃となります。田舎の教育コストは、見えづらいですが確実に家計に効いてくると言えるでしょう。
都市と地方の収入格差
都会では時給1,200円超も珍しくないですが、田舎では900円台がまだまだ普通です。2024年の最低賃金ではトップの東京と秋田で212円の差があり、月100時間働けば2万円以上違います。
それに加え、田舎は給料の上げ幅が少ないことを認識しておくことは大切だと思います。都会の大企業であれば出世して高給取りという路線もありますが、田舎にあるのは中小個人企業が主です。そのため正社員であっても定年まであまり給料が増えないというケースは決して珍しくはないのです。
結論:「安さ」は一面に過ぎない
総務省統計局の家計調査によると、2024年の大都市における世帯消費支出額は319,337円。一方、町村部などの地方では279,627円と、確かに田舎は大都市に比べ約4万円支出が少ないという結果になっています。これは地方移住を考える人にとっては「やっぱり田舎は安いんだ!」と思える朗報です。しかし、実際に田舎に住んでみて感じるのは、支出は少ないが収入も少ないということ。
何を豊かな暮らしと捉えるかは人それぞれです。移住の動機を「安さ」のみに求めることはリスクを伴います。自身のライフスタイルや価値観を見つめ直し、「何にお金を掛けたいか」「どのような暮らしを目指したいか」を明確にすることが大切でしょう。