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農の知識を生かす「菜園スクール」の始め方【DIY的半農生活Vol.27】

和田 義弥

ライター:

連載企画:DIY的半農生活

農の知識を生かす「菜園スクール」の始め方【DIY的半農生活Vol.27】

茨城県筑波山のふもとでセルフビルドした住まいに暮らし、約3.5反(35アール)の田畑でコメや野菜を栽培するフリーライターの和田義弥(わだ・よしひろ)が、実践と経験をもとに教える自給自足的暮らしのノウハウ。今回は、農を仕事にする方法のひとつとして、菜園スクールの始め方をリサーチ。長野県で自然菜園スクールを主宰する竹内孝功(たけうち・あつのり)さんに、どのように菜園スクールを立ち上げ、仕事の幅を広げてきたのか話を聞いた。農業ではなく農に携わりたい人、人に何かを教えるのが好きな人、使っていない農地をうまく利用したい人など、ひとつの選択肢として菜園スクールを始めてみるのはいかがだろうか。

専門知識をスクール化

フリーランスライターとして雑文を書くようになり、かれこれ20年ほどになる。安定感のない日銭を稼ぐような仕事だが、会社や時間に縛られない自由なところが気に入っている。すべては自分次第の自由業である。
私がフリーライターを始めた20年ほど前は、すでに情報の中心はインターネットで、私が主戦場とする雑誌の未来はあまり明るいものではなかった。そして、現実にそうなっているのだが、それは情報を発信する媒体が雑誌から別のものに変わるだけで、多くの人が興味を持つネタを探して、取材し、文字や写真などの形に変えて表現するライターやカメラマン、デザイナー、イラストレーターといったクリエイティブな仕事は、まだもう少し必要とされるものだと思っていた。しかし、今、AIの急速な進歩を目の当たりにして、その“もう少し”の終わりの時間が急速に迫っているように感じる。今後のためにも、次の一手は常に考えておかなくてはいけない。
では、何ができるか。何が今後必要とされるか。
私の経験と知識、そして今の暮らしを考えると、やり方にもよるが野菜や米を販売して小遣い程度の収入は得ることはできるかもしれない。農業は今後もなくならない仕事だろう。ただ、AIの導入とさらなる機械化で、農作業に必要とされる人の数は確実に減っていく。
ものがあふれ、多くの情報が簡単に得られる時代にあって、体験型ビジネスもいいのではないかと私は思っている。農家であれば農業体験を提供できる。使っていない農地があれば貸農園という手もある。農の専門知識を生かしてスクールを開催してもいい。私自身に目を向ければ、この連載「DIY的半農生活」で紹介しているような自給自足的暮らしを体験してもらうことや、自身の経験をもとに農的暮らしのノウハウを伝えることもできると思う。

田植え

わが家の田んぼに友人家族を呼んで田植え体験。普段、農に関わることがない人たちにとっては楽しいアクティビティーだ

では、どうやってそういう体験型ビジネスを始めたらいいか。そして、続けていけるのか。そのヒントが知りたくて、「これならできる!自然菜園」(農文協)などの著書があり、長野県を拠点に自然菜園スクールを主宰する竹内孝功さんに話を聞いた。

地元での地道な活動で生徒を増やし、3年で軌道にのせる

──そもそも、なぜ自然菜園スクールを始めたんですか?

学生のときに読んだ「わら一本の革命」(福岡正信著)で自然農法に興味を持って、それを実践している全国の農家さんなどを訪れて研修も受けました。ただ、農業経営がやりたかったわけじゃないんです。自給自足的な暮らしがしたかったんです。もちろんうまく農家をやれば自給自足につながるんですけど、仕事として専業農家をやるのは自分には難しいと感じていました。じゃあ、どうすればいいかと悩んでいるときに、ふとひらめいたのが家庭菜園のスクールです。家庭教師を長くやっていたので、人に何かを教えるのは好きだし、家庭菜園のスクールなら自分がしたい暮らしと仕事を両立できると思ったんです。

──それを始めたのは、いつ頃ですか?

19年前の2006年です。まだ、自然農や自然栽培という言葉は、一般にはほとんど知られていませんでしたね。

──どんなことでもそうですが、企画やアイデアがあっても、それを実際に形にするのが難しいと思うんです。そこをどうやって実現していったんですか?

当時、菜園スクールのようなものってほとんどなかったと思います。そこで、まずは知り合いの紹介で地元のNHK文化センターに話を持っていったんですが、幸いにもそこで家庭菜園の教室を持たせてもらえたんです。すると“NHKで教えている講師”みたいな、ちょっとした肩書のようなものができたんですよね(笑)。畑は地元の人に借りて、それで毎週1回のスクールを開催することから始めました。

また、地元のローカル誌で菜園スクールの参加者を募集したり、かつての研修先でワークショップの講師をまかせてもらったり、公民館で無料の講座を開催したりして、ちょっとずつ、知ってもらえるようになりました。

畑

竹内さんはそれまでなかった「自然菜園」というアプローチで菜園スクールを開催。独自性も大切だ

──それですぐに生活が成り立つようになったんでしょうか。

いえ、菜園スクールを始めたばかりの頃は、まだまだそれだけではやっていけませんでした。空いている時間はアルバイトをやって、生活費を稼いでいる感じでしたね。その後、メルマガやブログを始めると、それを見て興味を持ってくれる人が増え、菜園スクールとアルバイトの収入が同じくらいになったのが3年目くらいかな。それからは菜園スクール1本にかじを切りました。

ジャガイモ定植

ジャガイモの定植について話をする竹内さん。小さな子どもと一緒に家族で参加する人も多い

いかに魅力的なコンテンツを作るか

もしも、自分が同じように菜園スクールやワークショップをやるとしたら、最初の集客の方法について竹内さんの話は大いに参考になる。今はSNSやYouTubeをうまく利用すれば宣伝ツールになるが、誰が見ているか、また見てもらえるかはわからない。その点で身近な施設で講座を持たせてもらい、その参加者とつながっていくのは悪くない方法だ。ただし、それを次につなげていくには、参加者たちの好奇心を刺激するものでなくてはいけない。
インターネットを使えばタダで情報が手に入る時代にあって、お金を払ってでも体験したい、学びたいと思わせる魅力的なコンテンツを作ることが大切なのだ。

セミナーハウス

畑での実習だけではなく、セミナーハウスで講義も行う。セミナーハウスには古い蚕小屋をリノベーションして利用している

私は、竹内さんのスクールにちょっとだけ参加したことがあるが、その時間はとても有意義だった。
第一に、しゃべりがうまい。竹内さんの話に引き込まれるのだ。第二に、菜園が合理的に作られていて、かつ美しい。自分もこんな菜園を作ってみたいと思わせる。第三に、ここでしか知りえない学びがある。
面白いことをやっている人の周りには、自然に人が集まる。するとメディアの関心も引き、2012年には著書「これならできる!自然菜園」を出版。これで一気に知られるようになり、SNSなどでも広まった竹内さんの自然菜園スクールは、定員を超えてキャンセル待ちが出るほどの人気に。

時代の流れにのり、社会状況に合わせてカスタマイズする

──菜園スクールが軌道にのってから、どのように仕事の幅を広げていきましたか?

本を出してから雑誌の連載を持たせてもらったり、生徒さんとのつながりで東京の町田で教室を開催したりというのはあります。あとは、テーマを分けて学べるコースを増やしていきました。それによって生徒さんは、ひとつのコースをやったから終わりではなく、別のコースにも参加してくれるようになり、リピーター率が上がりましたね。

アーカイブ動画撮影

講座ではアーカイブ動画の撮影も行っており、後日、参加者に配信している

──コロナ禍のときはどうでしたか?

体験型のスクールとしては難しい時期でしたね。でも、ラッキーだったのはボランティアスタッフにIT関連の仕事をしている方がいて、案外スムーズにオンライン講座を始めることができたんです。それからは現地のスクールに来られない遠方の方にもオンラインで参加してもらえるようになったし、実習をアーカイブ配信できるようにもなりました。技術の進歩とその時の社会状況に対応して、やり方をカスタマイズしていくのは大切なことだと思います。

──そのほかに、今日までうまく続けてこられたのはなぜだと思いますか?

時代の流れにうまく乗れたのかもしれませんね。この20年で有機農業とか自然栽培に関心を持つ人は確実に増えていると感じるし、環境に対する意識の高まりとか、2拠点居住や自給自足的暮らしへの憧れもあると思います。そういう時代にマッチしたんじゃないでしょうか。

生徒

農業や家庭菜園、自給自足的暮らしに興味を持つ人は多い。それをどうやって実現するか。ワークショップやスクールはそのヒントを与える場になる

農業や自給自足的な暮らしに、興味や憧れがあっても誰もがすぐそれを始められるわけではない。だから、まずはその興味を手軽に体験できて、学べる場所を作ってやれば、そこそこ関心を持ってもらえるのではないだろうか。大切なのは、いかに魅力的なコンテンツを作り出すかだ。その場所に憧れを持ってもらえる美しさとカッコよさも必要だ。それから何度も訪れて体験したくなる楽しさと新しい学びも。それを生み出すことが何よりも大切だ。
竹内さんのように農業経営は難しいが農的暮らしを仕事にしたいという人、使っていない農地を利用したいという人、または農家とスクールの二足のわらじを履きたいという人でもいい。人と関わることや人に何かを教えるのが好きであれば、農を仕事にするひとつの方法として、菜園スクールはちょっと面白いかもしれない。まずは小さく始めてみよう。

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