海外産が9割を占める日本のアーモンド事情
世界のアーモンドの市場規模はすでに100億ドル以上に達し、およそ5年後には130億ドル以上にものぼることが見込まれている。しかしアーモンドの一大産地であるアメリカ合衆国のカリフォルニア州では、近年の気候変動による干ばつや病害虫などの影響により、収量減となる事態にもなっている。
日本に流通するアーモンドの9割は海外産が占める。そこで「一般社団法人アーモンド研究会(以下、アーモンド研究会)」は、山形県天童市を拠点に福島県や群馬県、和歌山県など、各地方の農家と連携しながら、アーモンド栽培の普及を推し進めている。9割を海外産が占めるその理由の一つに、国内で栽培されているアーモンドは「ダベイ種」と呼ばれる観賞用の品種が主流であることが関係していると、林さんは語る。
「観賞用の品種である『ダベイ種』からも、僕たちが日常的に目にするアーモンドの種は取れます。しかし主に食用アーモンドとなるのは『ノンパレル種』や『マルコナ種』といった品種で、これらはアーモンドの産地として名高いアメリカのカリフォルニア州やスペインのアンダルシア州で栽培されています。そしてこの品種を日本に取り入れ、国産の食用アーモンドの普及に取り組んでいるのが、『アーモンド研究会』になります」

日本で食用アーモンドの栽培が普及しなかったのは、多雨多湿である日本の気候や前例が少ないことなど、さまざまな要因がある。アーモンドは通常、日照時間が長く、乾燥している気候を好む。そんな中、アーモンド研究会はバラ科に属するアーモンドであれば、モモやサクランボと同様の生育環境でも栽培できる可能性に目を付けた。
「アーモンド研究会が誕生したのは、モモやサクランボの産地で知られる山形県天童市です。高齢化に伴い果樹農家を中心に、省力化が望める品目を探していました。果樹全般に言えることですが、枝の剪定(せんてい)から摘果、防除、収穫など、秀品を出荷するまでには多くの労力と神経を要します。そのような果樹農家が抱える手間を解決し、収益を高められるまでのポテンシャルを秘めていたのがアーモンドだったんです」(林さん)

アーモンドの可食部となる部分は“種”であるため、実に気を使う必要はほぼないと林さんは説明する。
「モモであれば一つの枝に実をつける数の調整から、徒長の剪定や葉かき、袋がけなど多くの手間を要しますよね。アーモンドならそれらの労力を抑えられます。ただし、定期的な除草作業と病害虫への防除は、果樹と同じく欠かせません」
国内アーモンド栽培の普及における現状
アーモンド栽培の利点を見いだし始めたアーモンド研究会。拠点である山形県天童市には、約300本ものアーモンドの木が植えられているとのこと。協力関係を結ぶ他県では、福島県で50本、和歌山県で100本と試験栽培が進む中、2024年には群馬県に1000本もの木を植えられる農地を確保できたという。
「アーモンド栽培に向いているのは、雨量が少なく水はけのよい気候や土地だと言われます。日本は年間降水量が多いことでも知られていますが、現在取り組んでいる中では問題なく栽培できています。さすがに水がたまってしまう農地での栽培は難しいですが、何を作るか頭を悩ませるような傾斜のある農地でもアーモンドは栽培できます。アーモンドの栽培は、耕作放棄地となりうる農地を活用する手段としても考えてもらえると思います」

アーモンド栽培に向いていないとされている日本でも、今は栽培できていると語る林さん。これは先立って実践したからこそ得られた貴重な情報源だろう。前提として、日本すべての土地で栽培できる確証はないことも頭に入れておいてほしい。
次に、ノンパレル種やマルコナ種といった、食用アーモンドの品種を導入する際の費用はどのくらいになるのかも聞いてみた。
「苗木1本あたりの価格帯は、4000円前後になります。10アールに植えられる本数では、40本前後が目安です。収穫までにかかる年数は、3〜5年は見なければなりません。見込まれる収益額は今のところ10アールあたり20万円をベースラインにしていますが、山形県では想定の倍以上もの収益を上げています」
現在、国内でアーモンドを生産する農家はまだ少ないためか、生産者の間ではアーモンドという作物の認知度は低いままだという。しかし、アーモンドの市場でのニーズは非常に高まっていると林さんは話す。
「なぜならアーモンドはそのまま食べるだけでなく、お菓子作りにも欠かせない材料として、高い需要を持つからです。たとえば、スライスアーモンドやアーモンドパウダーなどになります。国産というネームバリューもあってか、素材にこだわりをもつパティシエやメーカーからは『もっとほしい』と言われるほどです。それに呼応できるほどの量はないので、今は泣く泣くお断りする形に至っています」
買い手のニーズが高いアーモンド。収穫や加工の実態
売り手よりも買い手のニーズが上回っている国産アーモンド。この話には今後の日本農業をけん引する品目になるであろう可能性をひしひしと感じた。ここで気になるのが、アーモンドの収穫方法や加工の流れである。アーモンドの主要産地では、大型機械による収穫作業が主流であるが、日本の栽培規模ではそれを実現するのは困難であることが予想される。
「アーモンドの収穫作業に関しては、現状アナログな方法です。収穫シーズンを迎えたら、手でアーモンドの木を揺らしたり棒を使ってたたいたりして、実を地面に落とし、腰をかがめながら拾っていきます」(林さん)

収穫において、日本の農地に適した規格の機械は現状なく、仮にあったとしてもそこに投じる予算を工面するのは難しいのが正直なところだと林さんは言う。
「そこで、この収穫作業を生かし、地域巻き込み型のイベントも開催しています。アーモンドの収穫体験はめずらしいことに加え、作業はシンプルなので大人から子供まで一緒に楽しめるイベントと化しているんです。このように栽培する地域で認知度を高めつつ、理解を得ることも大切なアプローチになります」
収穫後は、今のところ量も限られていることから、個人に限って販売する流れとなっている。今後はアーモンド研究会を主体に、独自で出荷・加工まで実現できる体制を整えたいと考えているという。全量出荷での買い取りを実現し、農家全体の収益を底上げすることを目指している。
アーモンド栽培に向いている農家は?
収穫時の労力は懸念されるが、今後の進展次第でいくらでも改善の余地はあるだろう。手探りの中、進みつつある国産のアーモンド栽培。現役農家を含め、新規就農を志す人にも挑戦できる品目になるのだろうか。
「新規就農される方がアーモンド一本で食べていくのは前例が少なくリスクが高すぎるため、おすすめしません。いま協力してもらっている農家さんも、稼ぎとなるメインの品目を持った上でアーモンド栽培に取り組んでもらっています。やはり果樹をなりわいとする農家さんが多い傾向です。注意点として、アーモンドは収穫時期がリンゴやブドウと重なるので、忙しくなりすぎないよう扱う品目とバランスを取ることが欠かせません」(林さん)
アーモンド栽培に関するセミナーや実践的な研修は、まだ開催には至っていないが、2025年1月に開設した「アーモンド研究会公式ホームページ」から問い合わせれば、これまで培った知見を伝えてくれるそうだ。
林さんは「当研究会の方針は、アーモンド栽培に取り組む農家みんなで収益を高めることです。一人勝ちをもくろむ方では困ってしまいます。農業全体の収益を高めることに前向きな方にこそ、お力をお借りしたいです」と話している。

新規就農には向かない品目である一方、林さんいわくアーモンド栽培をメインにする農家も出てきているとのこと。一人勝ちでなく、農家全体で協力しながら収益を高めたいという思いを示すアーモンド研究会からは、日本の農業の価値を高めていきたいという姿勢が伝わってくる。国産アーモンドの需要が高まる中、今必要なのは栽培に前向きでお互いの情報を気軽にシェアしてくれる農家仲間である。日本におけるアーモンド栽培の情報は少ないため、小さな気づきでも共有することが今後の進展の鍵となるだろう。もしアーモンドの栽培について少しでも心を動かされたなら、アーモンド研究会に問い合わせをして、自分の地域でも取り組めるのかを詳しく聞いてみてほしい。その行動が新たな可能性を生み出す一歩になるかもしれない。
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