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起業から3年で売上1億円超。ゼロから6次化に取り組んだ若手バラ農家の現在地

埼玉県深谷市の自社農園で農薬不使用の「食べられるバラ」を栽培し、食品や化粧品の企画・販売まで行うROSE LABO。起業から3年で売り上げが1億円を超えたほか、2022年には代表の田中綾華(たなか・あやか)さんが、芸能事務所レトロワグラース(代表:柴咲コウ)に所属したことでも注目を浴びている。ノウハウが全くない中、どのように6次化に取り組んできたのか、また今後の規模拡大の戦略についてマイナビ農業の横山拓哉(よこやま・たくや)が聞いた。

【プロフィール】
田中綾華さん

ROSE LABO株式会社代表
1993年生まれ、東京都出身。バラに魅了され、大学中退後、大阪の食用バラ農家で修業。2015年に独立し、ROSE LABO株式会社を設立。農業女子プロジェクト(農林水産省)メンバー、「マイナビ農業アワード」などで最優秀賞を受賞。

■横山拓哉

株式会社マイナビ 地域活性CSV事業部 事業部長
北海道出身。国内外大手300社以上への採用支援、地域創生事業部門などで企画・サービスの立ち上げを経験。2023年4月より同事業部長就任。「農家をもっと豊かに」をテーマに、全国の農家の声に耳を傾け、奔走中。

身近な存在だったバラを仕事に

横山:田中さんはなぜバラをやろうと思ったんですか。

田中:シンプルにバラが好きで始めました。私の曽祖母はバラが大好きで、「バラは女性を強く美しくさせる」とよく言っていたんです。バラを飾ったり、バラ柄のものを身に着けたり、バラはお守りのような存在で身近にありました。農家になろうと思ったのは、大学生の頃です。大学には地方出身で一人暮らしをしながら大学に通っている子たちがいて、すごく刺激を受けました。その子たちが堂々と夢や目標を語っている姿を見て、格好良いなと。「もっと自分の人生をしっかり考えよう」と思いました。

横山:大学をやめて一念発起し、大阪のバラ農家へ修行しに行ったんですよね。

田中:うちはサラリーマン家庭でしたし、「本当にできるのかな」という怖さや葛藤もありました。でも、一度きりの人生を後悔なくチャレンジしたいという思いが強かったです。また農業は経験がスキルになります。1秒でも早くプロになるには、若いうちに吸収できる環境に居たほうが良いと思いました。

横山:実際に作ってみて、どう感じましたか。

田中:一度も後悔したことはないですね。むしろこの仕事を選んで本当に良かった、幸せだなと常に思っています。つらくて苦しいこともたくさんありましたが、それ以上に達成感が得られました。何より未来にわくわくし続けることができていて、今もそれが大きなパワーになっています。

「もったいない」が6次化につながった

横山:2015年の会社設立時から、生産から6次化まで行うことを目指していたのでしょうか。

田中:当初は食用バラを飲食店に納品する、シンプルなビジネスモデルを考えていました。ただ、多くのロスが出ることに気付きました。食用バラは飾り付けとしてニーズがあるので、キズや割れがあってはいけません。しかし、それらが全てロスになるのはもったいない。それを活用しようと考えた結果、ジャムや化粧品などの6次化につながりました。

横山:加工品第1号は何でしたか。

田中:ジャムです。

横山:ノウハウがない中で、どう営業活動を進めたのでしょう。

田中:最初はファーマーズマーケットに出店しました。マッチ売りの少女のように、ジャムを一つ一つ手売りで販売して。すると固定のファンができたり、バイヤーに出会えたり、横のつながりができて展示会の情報を教えてもらえることもありました。

横山:アルバイトをしていた時期もあったんですよね。

田中:SNSの「映え」という感覚が出てくるまでは、食用バラにもスポットが当たりにくく、とにかく売り上げが立ちませんでした。なかなか販路が見つからず、朝は栽培、日中は営業、夜は人件費や光熱費を払うために居酒屋でアルバイト……そんな生活を半年ほど休みなく続けていました。2、3時間寝られれば良いほうでしたね。

横山:そのときの苦労が後につながっていますか。

田中:あそこを踏ん張れたことが、自分の自信になっています。うちのメンバーも当時の様子を見ていたから、今もついてきてくれますね。やっぱり何事も、いきなりワープすることはなくて、地道にコツコツやっていくことが重要なんだなと感じました。

オリジナル品種「24」を贅沢に使ったバスソルト

6次化に取り組んでもバラ農家という軸は曲げない

横山:ジャムの製造方法はどうやって調べたのでしょうか。

田中:当時働いてくれていたメンバーの同級生が、深谷市で和菓子屋をやっていたんです。そこにバラを持っていって、ジャムを作ってくださいとお願いしました。

横山:思い描いていたものは、すぐに出来上がりましたか。

田中:すぐに理想通りのものはできなくて、甘みが強かったり、香りが出なかったり、色がくすんでしまうといった壁にぶち当たりました。でも、ジャムを作ってくださった人が、すごくポジティブに捉えてくれて。「次はこうしてみよう」といろいろなアイデアを出して、試作してくれました。

横山:バラを生食として売るのと、加工品で売るのとでは競合が変わってきますよね。

田中:一般的に言われるマーケティングのフレームワークはふんだんに活用して進めていきました。ほかに意識していたのは、例えば元エンジニアや通販サイトを運営していた方など、あえて農家出身ではない人たちを多く採用したことですね。やっぱり考え方や培ってきた視点が違うんです。あとは全ての商品の軸となる強みは、私たちがバラ農家であること。そこはぶれずにやってきました。

横山:2020年には「渋沢栄一ビジネス大賞」で奨励賞も受賞されていますね。

田中:私たちが農業をやっている点を評価してもらいました。競合優位性が明確にあり、プロジェクトにもより熱がこもっている。それは農家としてやっている強みだと思います。

持続可能な業界を作るために仲間を増やす

横山:今後、どのように持続可能な業界、会社を作っていこうと考えていますか。

田中:しっかりと売上・利益を伸ばし続けて、かつステークホルダーに還元できるような体制を整えていくことが必要だと考えています。そのためにも、委託という形で農園の規模拡大を視野に入れています。自社だけで農園を保有していると、天災で収穫量が落ちてしまうこともあります。でも仮に北海道に農園があれば、生産量の調整ができます。

横山:そうですね。

田中:そこで、まずは販路をしっかり作ることに専念しています。そのための武器として、産学連携に力を入れています。今は情報があふれていて、消費者も何を信じればいいのか分からなくなっていますし、しっかりとしたエビデンスが求められていると思います。産学連携でいろいろな可能性を研究しながら、新商品や新品種のバラの開発に取り組んでいます。

横山:拠点を増やす際に、栽培技術はどのように広げていこうと考えていますか。

田中:私たちは最初アナログで、気温や湿度などを全部手書きでメモしていましたが、今はITを導入して24時間365日記録しています。それらと収穫量を合わせて、肥料の配合量や、液肥の潅水の回数などもデータで取っています。そのデータを基に、別の地域でもできるように準備を整えているところです。

横山:単純に委託するだけでなく、どう作っていくかまで連携しながら一緒にバラ業界を盛り上げていくんですね。

田中:理想は私たちが全量買取することが必要だと思っています。そのためにも、しっかり栽培ができるように私たちの知見をシェアして、仲間になってもらうという感覚です。

業界の枠にとらわれないことが学びや刺激に

横山:田中さんが所属する芸能事務所レトロワグラースでは、どんな活動をしていますか。

田中:ファッションレンタルサービスを運営するエアークローゼットとコラボして、サステナブルな取り組みを紹介するYouTube動画を一緒に撮影しました。私自身、農業の情報はキャッチアップしやすいのですが、農業以外のサステナブルに触れる機会が少なかったので、インプットする機会を得られて刺激になっていますね。

横山:農業界だけでなく、いろんな業界の人とつながりがあるのも田中さんの強みですね。

田中:私たちは、いろんな交流会にも積極的に出るようにしています。頭が凝り固まってきてしまうときもありますが、いろんな価値観に触れることで、新たな刺激や学びにつながってきました。そういった活動は引き続き行っていきたいと思います。ROSE LABOが、よりたくさんの人に愛されて、皆さんに還元できるようなブランドになっていけるように頑張りたいと思います。

(編集協力:三坂輝プロダクション)

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