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売上1億円目前へ。あの大規模法人・トップリバーから独立し急成長する理由に迫る

相馬はじめ

ライター:

売上1億円目前へ。あの大規模法人・トップリバーから独立し急成長する理由に迫る

株式会社HSFarm(エイチエスファーム)は、売り上げ規模1億円に迫る若手主体の農業生産法人です。静岡県浜松市でキャベツや白ネギ、ナスの生産をしながら、新規就農者の受け入れや独立志望の人への支援にも力を入れています。次世代の農業界を担うと感じさせる同社の代表を務めるのが、有限会社トップリバー出身の倉田聡志(くらた・さとし)さんです。元々農業とは無縁の業界に身を置いていた倉田さんに、農業を始めたきっかけや現在の経営方針、将来の展望について話を聞きました。

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人生の転機はリーマンショック

倉田聡志さん 本人写真

──以前は自動車整備士をしていたそうですね。業種が異なる農業界に飛び込んだきっかけは?

農業に興味を持ったのは、2008年に起きたリーマンショックの影響で仕事が激減したことがきっかけです。自動車整備士の時は派遣会社と雇用契約を結び、依頼先に出向する特定派遣という働き方をしていたのですが、リーマンショックにより出向先でも本社でも仕事はほとんどなくなりました。加えて当時は27歳で、子どもが生まれたばかり。自分の将来像が見えず不安になったのです。
そんな時にテレビ番組「カンブリア宮殿」で、農業を志す都会の若者たちを社員に採用して急成長を遂げているトップリバーの特集を見て、農業に興味を持ちました。その放送後、たまたま手に取った雑誌に農業法人の求人が載っており、そこは当時住んでいたアパートから5〜10分で通えるところにあったんです。それを機に自動車整備士の仕事を離れ、募集していた農業法人へ転身しました。
そして農業に打ち込む中で次第に「“儲かる農業”を掲げるトップリバーへ行き、自分の可能性を広げたい」という思いが強まっていきました。

──農業への転身に、家族から反対されることはなかったのでしょうか。

農業への転身には賛成してくれました。また最初に勤めた農業法人は妻の地元の埼玉県だったため大きないざこざはなかったのですが、長野県に拠点を構えるトップリバーへ行くと伝えた時は大いにもめましたね(笑)。結果、トップリバーには単身で行くことになりました。
そして入社してから半年ほど経ったころ、静岡県の農場に一人常駐してくれる社員が欲しいという話が上がりました。しかし、その話に対して、自ら手を挙げる人がいなかったんですね。
ふと「みんなと同じことをやっていてもつまらない」という思いがよぎり、行かせてくださいと申し出る形で静岡県に異動することになりました。

トップリバーでの学び。HSFarmの創業

HSFarm キャベツの圃場

──静岡県での農業は、長野県とはまったく異なる環境で行うことになりますよね。

長野でのやり方が通用しないことを思い知らされました。同じ作物であっても、地域や気候によって栽培条件が異なるのも農業の奥深いところです。なので異動したばかりの時は先輩社員と2人きりで、地元の農家さんにひたすら話を聞いて回りました。これもトップリバーの研修の一つです。自分で情報を取りに行くことは、栽培や経営において欠かせない姿勢になります。
そしてトップリバーで3年半の経験を積んだ後、新たな挑戦を胸に、同じ静岡県で2015年に個人で倉田農園を立ち上げ、2018年の法人化に伴い名前をHSFarmへ一新しました。

──実践重視の研修現場であったことがうかがえます。HSFarmではキャベツをメインに生産していますが、トップリバーの主力はレタスでしたよね。

レタスはキャベツに比べて、資材費がかかるんです。特に冬場は。10アール作るのに必要な資材をそろえるだけでも、20万〜25万円ほど必要になります。またトップリバーへ在籍している時に静岡県でもレタス栽培に取り組んでいたのですが、正直うまくいかないことのほうが多くて。
レタスをメインに独立するのはリスクが高かったことから、キャベツを選びました。
ちなみにトップリバーでは、レタスとキャベツの2本を土台とした営農を学んでいたので、キャベツ栽培の知識と経験は身に付いていました。

──開業当初は資金をどこに充てるかなどシビアになりますよね。選択の結果、2018年には法人化もして順調な成長を見せています。
HSFarm 育苗ハウス
今ではメインのキャベツは、約20ヘクタールの規模で生産しています。その傍ら農家さんに苗の販売も行い、好調な年では2500万円もの売り上げを立てたことがあります。
しかし、うまくいくことばかりではありません。インフレによる資材価格の高騰で、多くの農家が経費削減に取り組んでいる中、真っ先に行うのが、自分たちで苗を作ることなんです。それにより苗の注文数が激減し、売り上げが500万円に満たないくらいまで落ち込んでしまいました。
これを機に、自分たちが使う苗の管理に注力したほうが良いのでは?と思い、苗の販売を停止しました。手を広げすぎたことで、品質が下がっては元も子もないですからね。今は自分たちの生産体制の強化に向けて進み始めており、売り上げ規模1億円目前まで成長しました

失敗しても挑戦できる場を提供

──ネガティブなこともプラスに変える力は、経営者に求められる資質と言えるかもしれません。そうした前向きな姿勢を体現するHSFarmでは、20〜30代の若手スタッフが中心に活躍しています。新規就農者は多いのでしょうか。

そうですね。うちに入ってくるスタッフの9割は農業未経験者です。過去をさかのぼっても経験者は1人しかいません。教育方針としては、横やりを入れるような野暮な教え方はせず、自ら考えて行動してもらうことを尊重しています。もちろん作業の基礎や農機具の使い方など最低限のことは教えますが、慣れてきたら後は現場で体を動かしながら自分の頭で判断してもらうようにしています。たとえその選択が誤りであったとしても責めることはありません。身をもって経験することにこそ、価値があると考えているからです。

──主体性が欠かせない農業の現場で独立を目指すなら、さらにどんな力が重視されるでしょうか。
倉田聡志さん 本人写真2

トップリバーでの経験を含め、僕がこれまでに関わってきた独立志望の仲間たちは、問う力や異変に気付く能力が高い傾向にありました。農業において小さな変化を見逃すことは、その後の収益を左右する要因にもなるわけで。作業一つ取っても「なぜこのやり方なのか?」と常に問いかけられると、それが改善のきっかけになります。
また頭に思い浮かんだ疑問や悩みはそのままにせず、周りにいる先輩などにすぐ相談することも、結果として自分の能力を高めることにつながります。
もちろん私自身もまだまだ道半ばですが、だからこそうちで働くスタッフたちには、楽しむことを忘れず挑戦し、成長してほしい思いが根底にあります。

──倉田さんや先輩スタッフにも相談しやすい環境にあることがうかがえます。実際にHSFarmから独立した人はいますか。

地元に戻って自分で農業を始めた子も何人かいますが、それをうちの功績として紹介するには正直至りません。やはり人によって働く環境は、向き不向きがあります。ただ少しでもうちでの経験が農業界へ携わるきっかけになっていたのなら、それ以上にうれしいことはありません。今でもSNSでつながっている子もいますが、僕は密な連絡は苦手なのでそのくらいの距離感がちょうどいいんです(笑)。

耕畜連携とスマート農業への取り組み

──農業においても適材適所は人によって異なりますよね。多様な適性を生かす環境づくりも含めて、HSFarmではどんな取り組みを行っていますか。

昨年からナスのハウス栽培と、耕畜連携を始めました。耕畜連携とは、農家が家畜の飼料を作り、それを酪農家に提供することで堆肥(たいひ)をもらうといった取り組みです。
4月や7月は手が空くタイミングだったので、新たに始められる品目を模索していました。そこで知り合いの方から耕畜連携のお誘いを受け、デントコーン(飼料用トウモロコシ)の栽培に着手したんです。試しにデントコーンを2ヘクタールほど栽培してみたところ、取り組む価値は十分にあるという判断に至りました。なので今年は規模を5〜7ヘクタールに拡大する方針です。

──キャベツなどの品目に比べデントコーンは管理や収穫の負担減にもつながると感じます。新たにナスの栽培にも取り組んでいるのですね。
HSFarm ナス栽培の専用ハウス

露地野菜だけだとシーズンによって業務の偏りが大きいため、長く作れるナスのハウス栽培にも着手しました。同時に事業も拡大していきたかったので、その旨を金融公庫に思い切って伝えたところ、1カ月ほどでハウスを建てる費用の融資を受け付けてくれました。この迅速な対応により補助金の申請にも間に合ったんです。
ハウスの設備はフルスペックではないのですが、温度管理や給水などを自動で任せられる環境制御システムを導入できたのは大きいです。後はひたすらナスの栽培技術をいかに高めるかがカギになります。
そして将来的には年商1億2000万〜1億5000万円の売り上げを立てつつ、利益率15〜20%を生み出せる経営を目指しています。農業はさまざまな事情が絡み合うことから先を読むのは難しいですが、今手にしているチャンスを生かしながら、HSFarmはこれからも前に進むことをやめません。

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