ネギの単価アップに成功
NOKAの設立は2017年。いずれもネギ農家の荒木俊彦(あらき・としひこ)さんと村岡輝明(むらおか・てるあき)さんが共同で立ち上げた。市場出荷では販売価格を高めるのは難しいと考えたのが、設立のきっかけだ。
現在の栽培面積は10ヘクタール。高級スーパーや百貨店など、相場の動向に左右されず、品質を評価して買ってくれる売り先を確保した。設立時に掲げた目標がかない、単価を2~3倍に高めることに成功した。
日本野菜ソムリエ協会が実施している野菜や果物の品評会「野菜ソムリエサミット」に挑戦し、金賞をとったことなどで売り先が増えていった。やみくもに営業するのではなく、第三者の評価で販路が開けた好例だろう。
法人の設立から8年。単価のアップで意気投合した時期までさかのぼれば、すでに10年になる。だがここで歩みを止める考えは2人にはない。いまテーマにしているのは、ネギの栽培技術の向上と新たな品目の確保だ。

荒木俊彦さん
猛暑やゲリラ豪雨への対処が課題
ネギを高値で売ることのできる販路の確保には、2つの背景がある。栽培に適した深谷市という地域の強みと、そのポテンシャルを生かすための2人の栽培努力だ。だがそれを脅かしかねない変化が起きている。気候変動だ。
市場出荷と比べると、売り先の求める品質は当然ながら高い。その条件のひとつが2L以上の太さがあること。ところが夏の高温やゲリラ豪雨の影響で、思った通りの太さに育てるのが難しくなってきたのだ。
解決する手応えはつかみつつある。元肥に有機肥料を使うことだ。作物の生育に必須な窒素、リン酸、カリの3つだけでなく、さまざまな微量要素を含んでいることが、猛暑を乗り切るうえでプラスに働くと判断した。

村岡輝明さん
当然のことと思われるかもしれない。だが2人の地域には難点があった。堆肥をはじめとする有機肥料には、土の保肥力を高め、肥料の成分が雨水などで流出するのを防ぐ効果がある。有機肥料の大切な働きだ。
問題はこの地域の土が粘土質なので、もともと肥料の流出が少ない点にあった。そこに有機肥料を投入して保肥力を高めると、かえってマイナスの影響が出る恐れがあった。肥料過多で、ネギの生育を阻害しかねないのだ。
ではどうやって猛暑やゲリラ豪雨を乗り切るか。2人が出した答えは、元肥として有機肥料をバランス良く投入し、微量要素の働きでネギの最初の生育に弾みをつけることだった。有機肥料の種類と適量を模索している。

定植前のネギの苗
新たな栽培品目にチャレンジ
栽培面でのもうひとつの課題は、品目の幅を広げることだ。面積的にも収益的にも柱はずっとネギだった。適地適作という意味で、ネギを選ぶのは当然の選択だった。だが気候変動に向き合うには次の一手が必要になった。
以前からネギだけでなく、キュウリやケールも小規模ながら栽培していた。2025年はそれに加え、トマトやトウモロコシを新たに育て始めた。イチゴの栽培も試験的にスタートした。ネギ専業からの脱皮を考え始めたのだ。
目指すのはメインのネギを含めて、品目の柱を3つ持つことだ。それが実現すれば、ある年に万が一、ネギの収量が落ちたとしても、経営がぐらつくのを防ぐことができる。多くの地域が共通して直面している課題だろう。

ケール
併せて考えているのが、面積をいまの3倍の30ヘクタールにすることだ。単に売り上げを拡大するのが目的ではない。ネギの栽培を安定させるには、緑肥を植えるなどして、地力を維持する努力が欠かせないからだ。
市場に代わる販路の開拓を目指してタッグを組み、実績を重ねてきた2人だが、経営の根幹にあるのは言うまでもなく生産。それをいっそう盤石なものにするため、何をどう作るべきかで新たなステージを見据えている。

トマト
仕事の遅れを相手のせいにしない
NOKAが直面している経営課題はさまざまある。だが話を聞いていると、ポジティブに解決策を探っており、新たな挑戦をためらう様子はない。技術の導入を含め、2人の連携がうまくいっていることがよくわかる。
そこで聞いてみた。2人の関係がギクシャクしそうになったことはないのだろうか。2人の答えは「これまでケンカをしたことがない」。議論は当然する。だが雰囲気を壊すようなぶつかり合い方はしないのだ。
得意とする分野に違いはある。荒木さんに営農の楽しさをたずねると、「人との出会い」という答えが返ってくる。これに対し、村岡さんの答えは「植物と向き合う時間を大切にしている」。タイプは明らかに異なる。

役割を分けない
そこで役割分担が秘訣かと思って聞いてみると、必ずしもそうではないという。10年一緒にやってきて、自然にたどりついた答えなのだろう。
例えば、荒木さんは仕事のやり方についてこう話す。