実家の水田を継ぐつもりが、地域の担い手として期待される立場に!
日本海に面する富山県。北アルプス・立山連峰を水源とする豊富な水資源に恵まれ、富山県の農業は古くから米を主体に発展してきました。全国屈指の水田率を誇り、農業産出額の約7割を米が占めています。そのほかにも、白ねぎ、たまねぎ、日本なし、干し柿、りんご、チューリップ球根など数々の特産品が栽培されています。そんな富山県の総農家数は年々減少傾向にありますが、担い手への農地集積や経営の法人化が進んでいます。
富山市に隣接する上市町で水稲を主とした農業経営を行う上丸さんは、兼業農家の家庭に生まれ、幼い頃から祖父母や両親が米づくりに励む姿を見て育ちました。就職を機に富山を離れ、埼玉県で造園業の仕事に従事していましたが、2019年に家族とともに故郷にUターンしました。

町・県に相談して経営継承という仕組みを知った上丸堅司(かみまる・けんじ)さん
「幼い頃から『いつかは継がないと』という思いがずっと心の中にあり、長女の小学校入学を機に富山に戻り、戻ってから始めた造園業と農業でやっていけたらいいなと考えていました。」(上丸さん)
ただ、両親の農業経営に改善の必要性を感じていた上丸さんは、たまたま地元上市町で開催された、地域の農業の将来のあり方を話し合う会合に参加。その場で空いている農地がないか町職員に相談したところ、県の農業の指導機関である農林振興センター(以下「振興センター」)を紹介されました。
「振興センターの方が、農業を始めたいのなら、こういう研修を受ければよい、こんな支援制度があると、就農に向けた道筋を丁寧に教えてくれました。知識や技術はもちろん、機械の購入や軌道に乗るまでの運転資金の準備など、さまざまな支援制度があることを知って、就農への漠然とした夢が実現可能な計画に代わり、これなら本気で取り組んでみようと思いました。」(上丸さん)

上市町産業課の村上淳さん(左)は、上丸さんが『やりたい』と意志を示してくれたから今があるといいます。
富山県の各市町村には、地域担い手育成総合支援協議会(以下「担い手協議会」)が設置されています。その協議会は、地域の農業者、市町村、振興センター、JAなどが一体となり、新規就農者の確保・育成、担い手の経営発展や経営継承を支援し、地域農業の維持発展に取り組んでいます。上丸さんの町職員への相談をきっかけに、担い手協議会のメンバーが情報共有、連携して上丸さんの就農の支援を開始しました。
そして、上丸さんは就農に向けた計画を精査すべく、振興センターだけでなく、町やJAなど担い手協議会のメンバーとも話し合いを進め、自らの農業知識や技能を補うため、大規模な水稲農家で、農業経営に必要な技術や経営を学ぶことを選択しました。
「経営継承」という選択肢
研修期間中も、振興センターの職員が定期的に上丸さんを訪れ、就農について話し合っていたそうです。当初は、実家にある設備でできる範囲と考えていたものの、研修先で経営を学ぶ中で、それでは規模拡大は難しいと感じるようになりました。ちょうどその頃、町内で離農する農家が経営を引き継いでくれる担い手を探しているとの情報が入ってきました。
新規就農の道の一つに「経営継承」という手段があります。後継者がいない農家から、ほ場や機械・設備などを引き継いで農業を始めるかたちで、初期投資が抑えられるというメリットがあります。また、栽培技術や販路、地域との関係性なども受け継げるため、経営面での負担を軽減することができます。
さまざまな機械や設備を必要とする水稲農家を目指す上丸さんにとってはメリットが大きい方法といえます。
「話を聞くと、担い手を探している農家さんから、農地だけでなく機械や納屋などすべての設備を引き継げるとのことで、ちょうど規模拡大に必要な大型農業機械の購入について悩み、また、自らの顔を売り、地域から水田を預けてもらうまで何年かかるだろうと不安に思っていたこともあり、気持ちが大きく動きました。振興センターや町、JAが一体となって親身にサポートしてくれたことで不安がなくなり、経営継承を決断できました。」(上丸さん)
そして、上丸さんはさらにもう1年間、継承予定の農家の元で、経営ノウハウの引き継ぎを兼ねて研修を行うことにしました。
「継承を前提にした研修は、その農家さんが生産する作物の味や品質、栽培方法、信用をも引き継ぐための大切な期間です。田んぼの特徴や、機械の管理方法やくせなども教えてもらい、よりステップアップできる内容の濃い時間でした。」(上丸さん)

親族以外から経営を引き継ぐ第三者継承は、個人の資産を継承するため、資産の評価や契約書の締結、農業委員会の許可、納税など、多くの手続きが必要になります。上市町など担い手協議会が、税理士などの専門家を活用し、円滑な経営継承をバックアップしました。
その後、研修を終え、上丸さんは無事、9haのほ場と乾燥機やトラクターなどの機械、それらを収納する納屋、経営ノウハウ、信用などを受け継ぎ、2022年に新規就農者として農業経営を開始。最初は、継承元の農家さんも、心配して手伝ってくれました。また、新しく借りられる農地を探してきてくれるなど、経営が早く安定するよう、応援してくれたとのことです。

9haからはじめた経営規模は、2年目には13haに、4年目には30haに拡大。継承元の農家さんのサポートや上丸さんの誠実な仕事ぶりから、徐々に農地が増えていきました。3年目までは農閑期に造園業も行っていたそうですが、4年目からは農業一本に。
現在は、規模拡大に伴う作業ピークの分散や消費者ニーズに広く対応するため、富富富、つきあかり、てんたかく、コシヒカリ、やまだわらなど、5つの品種を栽培。さらに繁忙期は、オペレーター1人に加え、両親と奥さん、2人の子供たちも手伝っているそうです。最近は、福祉事業所に苗箱洗いや除草作業を委託する農福連携の取組みの他、お子さんが通う小学校の提案で、「田植え体験」「稲刈り体験」を上丸さんのほ場で始めました。
「子供たちに農業に親しんでもらい、いいイメージを持ってもらいたいです。そもそも農業に触れる機会がないと、『やりたい』につながらないですからね」(上丸さん)
上丸さんは、これからの農業を担う人材育成を視野に入れて取り組んでいます。

就農前から就農後まで切れ目ない支援でバックアップ

規模拡大に伴い、順調に収益を上げている上丸さんにその要因を聞くと、「自分が動いたというより、県や町、JAの方たちのサポート、そして活用できる支援制度があったから、ここまで来られたと思っています。自分に必要な情報を先に先に教えてもらえたので、不安がやわらぎました。また、継承元の農家さんのお陰もあり、先輩農家さんとの出会いも多く、本当に周りの人たちのお陰です」と振り返ります。
全国的に、高齢化等による農業者の減少が問題となっており、富山県も例外ではありません。富山県農林水産公社 農業部長の片山雅雄さんは、「県内では個人の農業者を中心に高齢化が進み、上丸さんのように地域に溶け込み、まじめに農作業に取り組む人に、「農地を預かってほしい」「経営を継いで欲しい」と考える農家もいます。そこで公社と担い手協議会が連携し、後継者を求める農家と、就農希望者の情報を集約してマッチングする経営継承の取組みを進めています。」と話します。
また、富山県には、米を中心に大規模に農業を営む会社が多数あり、そのような会社もやる気のある仲間を求めています。実際に、富山県の新規就農者数に占める雇用就農の割合は(R元~R5平均)65%。全国平均の21%に比べはるかに高くなっています。
富山県の就農相談窓口である公社では、「自ら農業経営をしたい」、「農業法人に就職したい」など就農希望者が目指す就農の形に併せてサポートしています。具体的には県内の農業法人の求人情報や、新しい仲間を募集する産地の情報、「農業経営を引き継いでほしい」という情報を担い手協議会と連携して収集し、公社HP「とやま就農ナビ」に常時掲載したり、相談窓口で就農希望者に提供したりしています。また就農コーディネーターが相談者の目指す就農の形に合わせてマッチングし、伴走支援しています。
加えてメールやオンラインでの相談も受け付けています。まずは、問い合わせフォームからご連絡ください。
「公社では、準備段階から就農後に至るまで、段階に応じたサポートを体系的に行い、就農希望者を切れ目なく支援します。就農後も勉強会や研修会などを案内し、新規就農者の成長をバックアップします。」(片山さん)
なお、公社では、相談会やマッチングイベントを開催しています。8月9日(土)には、県内の農業、林業、漁業の求人企業などがブース出展する「とやま農林漁業就業支援フェア」を開催します。求人企業の採用担当から仕事内容などを直接聞ける貴重な機会です。就業相談や情報提供を行うブースも設置します。
【イベント情報】
日時:令和7年8月9日(土)10:00~15:30
場所:富山県民会館 B1F 展示室 (富山市新総曲輪4−18)
【事前申し込み不要!入場無料!履歴書不要!】
↓詳しくはこちら↓
https://taff.or.jp/nou/syunou-navi/news/4033/
「就農したいという気持ちがある方は、まず相談。その一歩から道が拓けてきます」と上丸さんは力を込めます。
ご興味をお持ちの方はぜひご参加してみてはいかがでしょうか。
【研修機関情報】
県の研修機関「とやま農業未来カレッジ」についてはこちら
URL:とやま農業未来カレッジ
【お問い合わせ】
公益社団法人 富山県農林水産公社 農業部
930-0096 富山県富山市舟橋北町4-19
TEL:076-441-7396
URL:とやま就農ナビ
















