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認知症の地主に苗木を切られてしまった【農業法律相談所#6】

連載企画:農業法律相談所

認知症の地主に苗木を切られてしまった【農業法律相談所#6】

読者から寄せられた農業に関する法律のお悩みや相談ごとに、弁護士がお答えする連載企画「農業法律相談所」。第六回の本稿では、農村部に移住したという新規就農者からの相談だ。驚くべきことに、土地の地主から定植した果樹の苗木のほとんどが切られてしまったのだという。 なぜこのようなことが行ったのか、解決方法とともに解説していく。

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「土地を貸したのを忘れていた」と、定植した苗木を伐採

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昨年、都心からある農村部に移住就農しました。
研修中、すぐに農地を借り受けることができたのですが、その地主さんは少々認知症の気のある方でした。当時は少し引っかかる部分はありつつも、「ご年齢もご年齢だし、忘れっぽい方なのかな?」くらいにしか思っていませんでした。

ところが、農地を借りてまもなく果樹の苗木を定植したところ、ほどなくしてほとんどの苗木が切られてしまったのです。近隣の方の話によると、地主さんが「なぜ俺の畑に木が生えているんだ」と言いながら刈り取りをしていたとのこと。本人に事情を聴くと、「農地を貸していたことを忘れていた」ということでした。
苗木が切られてしまったとあっては、とても農業を始めるどころではありません。離農しようと考えているのですが、苗木の弁償のほか、農地の整備にかかった費用負担などを求めることはできるものでしょうか。

弁護士の見解

A 地主さん又は地主さんの介護を行っているような一定の人物に対して、苗木の弁償など一定の範囲で損害の賠償を求めることができます。

加害者が認知症である場合

本事例のように、地主さんが故意にご質問者様の苗木を刈り取ってしまい、一定の損害を与えた場合、地主さんは民法709条に基づいて、ご質問者様へ与えた損害を賠償しなければならない義務を負います。そして、ここでいう損害には、刈り取ってしまった苗木だけでなく、場合によっては、農地の整備にかかった費用や、農業を行っていれば将来得ることができたと考えられる金銭についても一定の範囲で含まれることとなります。ここまでが、法律が予定している原則的な結論となります。

ところが、本事例では、地主さんは認知症である可能性があり、苗木を刈り取った際には、「農地を貸していたことを忘れていた」状態であったとされています。この場合、地主さんは、「自己の行為の責任を弁識する能力を欠く状態」であった可能性があります。そして、民法713条は、このような例外的な場合について規定しており、「自己の行為の責任を弁識する能力を欠く状態」である人間が他人に損害を与えたとしても、損害の賠償の責任を負わないと規定しています。従って、地主さんが認知症により自己の行為の責任を理解できない状態であった場合、ご質問者様は地主さんに前述の損害の賠償を請求することができないこととなります。

それでは、このような例外的な場合では、ご質問者様は誰にも損害賠償を請求することができないのでしょうか。
結論的には、以下の3つの場合には、ご質問者様は地主さん以外の人物に損害の賠償を請求することができるものとされています。

①損害の賠償が請求できる場合として、まず、地主さんに「監督する法定の義務を負う者」、即ち、法定の監督義務者がいる場合が考えられます。
法定の監督義務者は、民法714条に基づき、監督の義務を怠らなかったときなど一定の場合を除いて、監督していた者が第三者に与えた損害を賠償する義務を負うものとされています。従って、本事例においても、地主さんに法定の監督義務者がいる場合には、ご質問者様は地主さんの代わりに同人へ損害賠償を請求することができることとなります。もっとも、単に同居の親族であるというだけでは、法定の監督義務者であるとは認められるわけではないため、事案によっては法定の監督義務者が存在しないという場合もあり得ます。

このように法定の監督義務者が存在しない場合において、②同居して介護している人物など、監督義務を引き受けたとみるべき特段の事情が認められる人物がいる場合、同人を法定の監督義務者に準ずる者と考えて、民法714条が類推適用され、同人は第三者が被った損害を賠償する責任があるものとされています。
従って、本事例でも、地主さんと同居して同人を介護している人物など法定の監督義務者に準ずる者がいる場合には、ご質問者様は、同人に対して、損害賠償の請求を行うことができることとなります。

さらに、法定の監督義務者や、法定の監督義務者に準ずる者が誰もいなかったとしても、③具体的な状況のもと、地主さんを現実に介護している人物において、地主さんがご質問者様の苗木を刈り取ってしまうという行為を行う事を予測できた場合には、介護している人物自身の責任として、民法709条に基づいて損害の賠償を行う義務を負担するものとされています。
従って、この場合には、ご質問者様は、地主さんを具体的に介護していた人物に対して、損害の賠償を請求できることとなります。

まとめ

上記のとおり、地主さんが認知症により自己の行為の責任を理解できる状態なのかどうか、法定の監督義務者や法定の監督義務者に準じる者がいるかどうか、具体的な状況のもと、地主さんの行為が予測できた人物がいるかどうかといった場合分けが必要であるものの、ご質問者様が一定の人物に対して自身の被った損害の賠償を請求できる可能性はあるものと考えられます。

本事案のポイントを整理

✅故意にご質問者様の苗木を刈り取るなど第三者に損害を与えた場合、加害者に対して、苗木の弁償や農地の整備にかかった費用など一定の範囲で損害を請求することができる。
✅加害者が自己の行為の責任を理解できる状態ではない場合、同人に損害賠償を請求することはできないが、法定の監督義務者や法定の監督義務者に準じる者など、一定の人物に対して損害賠償を請求することができる可能性がある。

弁護士プロフィール

杉本隼与

2003年早稲田大学法学部卒業。2006年に旧司法試験合格(第61期)
2016年東京理科大学イノベーション研究科知的財産戦略専攻卒業 知的財産修士(MIP)
同年に銀座パートナーズ法律事務所を開設し、現在に至る。
銀座パートナーズ法律事務所

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