転身のきっかけは「納得して仕事がしたかったから」。Uターンして農家に転身
坪倉さんが故郷の日南町にUターンしたのは平成27年、30歳の時でした。米子市の工業高等専門学校を卒業後、関東地方で自動車部品の設計や不動産営業などに従事していましたが、自分のやりたいことと会社の方針が合わず苦労したと言います。「自分が納得できる働き方を実現したい」と考え、会社を辞めて帰郷。ちょうどその頃、地元の先輩に誘われたのが、「トマト農家」としての道でした。
「頼れる先輩農家がたくさんいて、同年代の若手も頑張っている。話を聞くうちに、農業なら自分が納得できる働き方が実現できると感じました。」(坪倉さん)

(坪倉さん)収穫は7~11月に行い、冬期は除雪の仕事をしています。それがいいリフレッシュになっていますね。
Uターン直前に結婚した奥さまを説得し、日南町の農業研修制度を活用して独立。就農から間もなく10年を迎える現在では、19アール近いほ場で約3,500本のトマトを育てています。
「目指しているのは、食べてくれた人に喜んでもらえるトマトを作ること。肥料の調整や農薬の使用量を最小限に抑えるなど、自分なりに工夫を重ねています。」(坪倉さん)
どうすれば安定的かつ効率的においしいトマトが作れるのかを模索しながら、毎年アップデートを繰り返している坪倉さん。「農業には“絶対の正解”がない。だからこそ、答えを探し求める過程そのものが面白い」と語ります。自身がそうだったように、「探求心のある理系出身者や技術者こそ、農業に向いている」と感じる坪倉さんは、日南トマトの未来を見据えていました。

日南町は、夏でも夜は20℃前後。寒暖差が大きいほど、味がしっかり乗った甘いトマトができます。
きめ細かくサポートする就農支援制度と「日南トマト就農サポートチーム」発足
坪倉さんは就農直前、約1年間、農業研修制度を活用しました。
「農業経験がほとんどなかった私にとって、研修制度の存在は非常に心強く感じました。ただ、現在の制度はさらに進化しています。」(坪倉さん)
日南町では、さらなる新規就農者の確保に向けて、令和5年度より研修制度を刷新。冬期の農閑期には座学研修として10分野・全45講座が開かれ、栽培や経営に関する知識・技術だけでなく、気象災害対策や鳥獣害対策、メンタルヘルスなど、専門家から幅広い知識・技術を学ぶことができます。実地研修では、ベテランのトマト農家のもとで、基礎から実践的な技術まで丁寧に指導を受けることが可能です。
そして令和7年には、日南トマト生産部・JA・日南町・鳥取県などで組織する「日南トマト就農サポートチーム」が発足。チームはリクルート部、育成部、事業検討部の3部門で構成されており、新規就農希望者に対する「産地体験会」の開催や、個々の就農者に応じた研修プログラムの検討など、農業への関心を持ち始めてから実際の就農に至るまでの道のりを、きめ細かくサポートしています。

日南トマト就農サポートチームでは、ほ場の選定や定住に向けた相談にも、個別で対応しています。
また、共同選果場では、令和5年よりAI内蔵カメラによる高精度の選別機械を導入。選別から箱詰め、出荷などを一括して管理できる体制が整っており、農家の負担を大きく軽減しています。
坪倉さんも「町にトマト専用の共同選果場があることも、大きなメリットです。選果場がなかったら、トマト農家になっていなかったかもしれません」とその重要性を語ります。

共同選果場には、町内の約30農家が生産するトマトが集められ、各地へ出荷されていきます。

「にちなんトマトン」がプリントされた箱。ブランド化され、販売も堅調。
坪倉さんが感じる農家としての充実した日々とは

「故郷に帰って農業をしながら暮らしていると、自然の中で生きていることを強く実感しますね」と語る坪倉さん。
関東にいた頃は、ビルに囲まれた環境で働いていたため、季節の変化さえ意識することが少なかったといいます。現在は、地元産の新鮮な野菜を食べ、昼は外で働き夜は家に帰って休む。そんな生活サイクルが、心地よく感じられるそうです。
「食べ物は圧倒的にこちらの方がおいしいですね。二人の子どもがいるのですが、食べ物を通して田舎ならではの自然の豊かさを感じてほしいと思っています。」(坪倉さん)
保育料の無償化、高校卒業まで医療費無償など、日南町の充実した子育て支援にも助けられている坪倉家。
「作業が忙しくてなかなか休みは取れないのですが、空いた時間には子どもたちと一緒に虫取りをしたり、あけびや木の実を採ったりしています。最近は、上の子が、水晶などの鉱物探しに夢中なんですよ。」(坪倉さん)
ネットでの買い物やSNSもあるので、最近は田舎の不便さや寂しさを感じることも少なくなっているそうです。
鳥取県では、農業を始めたいと考えている方々に向けて、さまざまなイベントを通じたサポートを行っています。たとえば、県内各地で開催される「産地体験会」では、日南町のトマトや琴浦町のミニトマト、県内各産地の梨、スイカなど、実際に収穫を体験しながら先輩農家の話を聞ける機会が設けられています。
「就農してまだ10年足らずですが、今後は、就農を目指す方々に向けて先輩農家として積極的に情報発信していきたいと考えています。」(坪倉さん)
トマト農家として充実した日々を送る坪倉さんの経験は、就農を目指す方々にとって心強いヒントになるはずです。
◆記事に関するお問い合わせ
鳥取県農業経営・就農支援センター
(鳥取県農林水産部農業振興局経営支援課内)
TEL:0857-26-7388
E-mail:keieishien@pref.tottori.lg.jp
















