マイナビ農業TOP > 生産技術 > 育苗、代かき、田植え不要!労働時間7割減の「節水型乾田直播」でコメ作りを変える

育苗、代かき、田植え不要!労働時間7割減の「節水型乾田直播」でコメ作りを変える

育苗、代かき、田植え不要!労働時間7割減の「節水型乾田直播」でコメ作りを変える

田植えも育苗も不要、水管理にいたっては年間約70日からわずか数回へ減少。いま注目を集める「節水型乾田直播(DDSR)」は、コストを6割、労働時間を7割削減しながらも収益性と品質を両立できる次世代の稲作法だ。この革新的な技術をいち早く導入したのは、埼玉県杉戸町のヤマザキライス。代表取締役の山﨑能央さんに話を聞いた。

twitter twitter twitter twitter
URLをコピー

年間70日間の水管理がわずか数日に

埼玉県杉戸町にて約11ヘクタールの農地で稲作を行うヤマザキライス。その取り組みで特に注目されているのが、節水型DDSR(乾田直播水稲栽培)だ。これは水田に水を張らずに乾いた状態のまま種をまき、その後も必要最小限の水を与える栽培法で、水管理作業を大幅に削減できるメリットがある。

従来のDDSRは大型のトラクターを必要としていたため、初期投資に掛かる費用が大きいことが課題だったしかし近年では、さまざまな「バイオスティミュラント」と呼ばれる農業資材が登場し、DDSRのハードルが大きく下がった。これを受け、ヤマザキライスも2023年より11ヘクタールの圃場で節水型DDSRを導入している。

その結果、育苗、代かき、田植えといった工程が不要になり、4~7月の繁忙期に行っていた作業の多くが省略できるようになった。年間約70日間かかっていた水管理も、3~5回の水供給で済む程度に減少した。節水型DDSRでは、地面がぬれている程度の状態を維持すればよいため、山﨑さんは「自分のペースで水を与えに行くことができて非常に楽」と語っている。

収穫量はやや落ちたものの、機械設備のコストは6割減、労働時間は7割減となった。「収量が多少落ちても、コストと労働時間を大幅に削減できており、営業利益は上がっています。味も非常に良いです」と言う山﨑さん。更にDDSRで育つ稲の根は、畑作に近い「畑根」となり、水に頼らず地中深くまでしっかりと伸びるため、干ばつにも強く品質も安定する。従来の田植えをする「水根」に比べて環境適応性が高いのも特長だ。

デジタル化=スマート農業ではない 「最適化」こそ本質

画像提供:xarvio®(ザルビオ)フィールドマネージャー

山﨑さんが重視するのは“最適化”だ。農業生産資材の価格が高騰する中、今後も農業を持続的に行うためには「経費削減と収穫量・売り上げを上げることが必要」と言う。そのためには、①コストを下げる技術、②安定的に安くものを作って高く売ること、③高品質のものを作ること、この三つが求められる。山﨑さんはこれらをスマート農業技術を活用し、“最適化”を行うことで実現している。

節水型DDSRでは水を張る頻度が低いため、肥料散布をしても圃場全体に行き渡らずムラが生じる。そこで山﨑さんは、衛星画像を基に地力や生育状況を分析するシステム「ザルビオ」を導入した。これまでは圃場全体に一様に肥料を散布していたが、生育状況に応じて施肥を行うことが可能になり、肥料も労働時間も最低限に抑えることができる。更に病害の発生を予測し、予防に適した散布時期をアラートで知らせる機能もあり、農薬使用量の抑制にもつながっている。他にも過去のデータを分析し、稲作に向いていない圃場では転作用の農地にするための最適化にも取り組んでいる。山﨑さんは「デジタル化=スマート農業ではありません」と語る。「圃場で何が起こっているのか、どう改善すればいいのかを科学的な根拠を基に判断することがスマート農業なんです」

スマート農業によって最適化が実現できたことで、現在のスタッフの人数のままで農地面積を更に拡大することが可能となった。加えて、これまで何年もかけて習得していた熟練の農業技術が、スマート化によって見える化できたことで、短期間での人材育成も可能になっている。生成AIの発展により、今後更なる効率化も見込まれる。「これから農業従事者の人口は減少していくと言われています。私たちのような現役の担い手が農地を受け入れなければ、耕作放棄地が増えていってしまいます。そうした社会課題の解決にも、スマート農業技術を活用した節水型DDSRは非常に有効な手段になると考えています」(山﨑さん)

シェアする

  • twitter
  • facebook
  • LINE
  • Hatena
  • URLをコピー

関連記事

新着記事

タイアップ企画