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プロのコメ農家は育つのか?大手コメ卸と生産法人による産地づくりの今

kumano_takafumi

ライター:

プロのコメ農家は育つのか?大手コメ卸と生産法人による産地づくりの今

「一人でも多くの次世代農業者を誕生させる」ことを目的に、2023年9月、大手コメ卸の株式会社神明(本社東京都中央区)とのりす株式会社(埼玉県吉川市)が共同出資し、株式会社神明アグリイノベーション(埼玉県加須市)が設立された。2年が経った現在までに、担い手育成の環境をどう整えていったのか。間もなく収穫作業が始まる水田と、今年3月に完成し新米の受け入れ態勢が整ったライスセンターを案内してもらい、今後に向けた展望を聞いた。

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負担軽減と効率的なコメ生産を支援

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「日本の農業は、高齢化、離農者と耕作放棄地の増加、そして価格競争の激化や環境負荷の増大という深刻な課題に取り組んでおり、次代の農業をリードする人材を育成することが急務とされています。私たちは『一人でも多くの次世代農業者を誕生させる』ことを目標とし、就農から独立、さらには起業・経営に至るまでをトータルでサポートしていきます」。設立趣意書にこう記されている通り、同社では農業を取り巻く課題の解決を目指している。

2025年6月には敷地面積約5000㎡を誇るライスセンター(米麦乾燥調整施設)の稼働を開始。生産者の収穫期の作業負担の軽減と効率的なコメ生産を支援している。

完成したライスセンター

設立からちょうど2年が経った2025年8月末、同社会長の市川治郎(いちかわ・じろう)さんと、取締役の松木飛鳥(まつぎ・あすか)さんに案内してもらい、耕作放棄地を復田して間もなく収穫作業が始まる加須市の水田と、新米の受け入れ態勢が整ったライスセンターを見せてもらった。

市川会長(右)と松木取締役

神明アグリイノベーションの松木さんは、ライスセンターを建設した理由について「耕作放棄地を防ぐには、新規就農者を増やすことと既存の農業者の規模拡大を支援することの両方が必要。その両方が活用できるようにライスセンターを設立した。ライスセンターを利用できるというのも独立就農の支援の一つ。新規就農には大きな壁があって、設備、土地、地域の理解などを一つひとつ解決しなくてはいけない」と語る。新米の受け入れを待つライスセンターは1ヶ月で430tを処理できる能力があり、今年は300t程度の稼働を予定している。

刈り取り間近の復田された圃場

2年がかりで耕作放棄地を復田

自社の農地では、耕作放棄地を復田したところもある。加須市南大桑農地は2年かけて6haの農地を復田し、0.5~1㏊ごとに均一化した。そこまで辿り着くには地権者への説明会、利用権設定など多くの時間を費やしたが、何よりも地元自治体である加須市の協力が大きく、加須市長とも3度面談している。復田した農地には比較的新しい品種の「てんこもり」と「にじのきらめき」が作付けされており、間もなく収穫される予定。神明アグリイノベーションはこのほかにも農地を借りているが、いずれも耕作放棄地が含まれており、今後も開拓が必要という。

農地の確保と同時並行で行わなくてはならないのが、人材確保だ。次世代農業者の募集は今年で3期目を迎える。秋には本採用として5名を迎える予定だが、順調に行けば独立するまでに4年はかかると見ており、毎年最低でも新たに1人を採用して育て上げる必要がある。まさに人、土地(農地)、設備を同時並行的に揃えて、育成するという高い課題を背負って始まった事業だが、こうした事業を行わないと「コメが入手できない」という世界が目前に迫っている危機感があり、それがこの事業の原動力になっている。

独立後も安定した売り先が確保できる

ライスセンターで 受け入れ作業を担う鈴木利哉(すずき・としや)さんも、次世代農業者第一期生の一人だ。前職は公務員で、次世代農業者第一期生募集の新聞記事を見て応募した。現在までの取り組みについて率直に話を聞いてみた。

―応募した動機について
農業経験はありませんでしたが、農業技術を教えていただき次世代の農業経営者を育てるという会社の理念に共感して応募しました。

鈴木利哉さん

―入社後の経緯について

昨年の4月1日に入社。4月から9月まで研修期間で、神明アグリイノベーションの協力農家の一つである早川農場でコメの栽培技術を一通り教えてもらい、経営の勉強もしました。

―コメの農家はやることが多くあるが、コスト計算などどうしているか
私が入社した時に急にコメの値段が上がりました。計算して入社したわけではありませんが、作り手が減ってコメの値段が上がっていくのではないかと思っていました。それであったら農業一本で生きて行けるのではないかと経営面積の計算などもしていました。

―どのくらいの経営面積を見込んでいるのか
将来的には20㏊ぐらいを考えています。独立後生産したコメは神明さんに卸すことによって安定した売り先が確保できる。安定した売り先があるので心理的にも安心感があるので、お互いにメリットがあります。

―ライスセンターの稼働について
早川農場にも乾燥設備一式があり、一通り動かしてここに来ています。また、最近麦の乾燥も行いました。最初は覚えるのが大変ですが、水分調整などは機械が自動でやってくれますので。

―今年のスケジュールについて
もうすぐ刈り取りが始まるので、今週はライスセンターを動かす準備をします。生産者には穀物コンテナを貸しだし、収穫した籾をここまで持って来てもらいます。

―これまで体験して来て大変なことについて
まだまだ経験不足ですが、一番大変なことは栽培技術の習得です。「こうやったら上手くいく」、「こうすると上手くいかない」というものは、経験がないとわからない。先輩農家に聞こうにも何をどう聞いたら良いのかわからないということもあります。あまりにも習得しないといけないことが多過ぎると思います。

今後の見通しについて松木さんは「持続可能な農業の実現のために、加須市にしっかり腰を据えて、地域の農家さんと一緒に農業をしながら、仲間を増やしていきます」と抱負を語る。

「神明アグリイノベーションを通して農業技術や経営ノウハウを取得していただくことはもちろんのこと、次世代農業者の皆さんが農業の良さや楽しさを実感し、実現できるような環境を整備していきます」。今後の展開にも期待せずにはいられない。

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