【プロフィール】
■十河明子さん
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しまんと新一次産業株式会社 代表 香川県高松市出身。16年間食品業界に従事し、併せて司会業との複業に取り組む。その後、地域食事業、地域連携事業への参画を経て、これまでの活動拠点であった大阪・高知2拠点で事業活動を行う。現在は栗の生産から加工、販売まで、四万十の地域で協力しながら取り組む。 |
■岩佐大輝さん
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株式会社GRA代表取締役CEO 1977年、宮城県山元町生まれ。大学在学中に起業し、日本及び海外で複数の法人のトップを務める。2011年の東日本大震災後に、大きな被害を受けた故郷山元町の復興を目的にGRAを設立。著書は『99%の絶望の中に「1%のチャンス」は実る』(ダイヤモンド社)ほか。 |
地域の危機を救った栗
岩佐:まずは、しまんと新一次産業の概要を教えてください。
十河:弊社の前社長が始めた「四万十の栗再生プロジェクト」が会社のスタートです。栗園を地域の人たちから購入して栽培を始めました。栽培の次は加工する場所が必要になり、2016年頃に加工場を建てました。当初、稼働時期は約1カ月でしたが、現在は約7カ月ほど加工できる状態で、栗とサツマイモのペースト加工をしています。
岩佐:7カ月だと単位当たりのコストが下がり、かつ生産できる商品の量がかなり増えていったと思います。そもそもなぜ栗に注目したのでしょうか。
十河:もともと四万十町は栗がたくさん採れていた地域です。50年ほど前は、栗が約500トンとれていたといわれています。それがだんだん減少してきて、近年は約30トンにまで落ち込みました。このままでは地域として産業が成り立っていかないという危機感を抱き、地域の有志が集まって栗の再生をしようと。その時のメンバーの1人が弊社の前社長でした。
岩佐:収穫量が減っていった理由は何ですか。
十河:一番の理由は高齢化で、栗の生産ができなくなったことです。また、昔はいろんな作物を作りながら、栗も作るという循環が営まれてきましたが、農家が減って栗まで手が回らなくなってきたというのも一つですね。

地道な取り組みでサプライヤーを増やす
岩佐:今、和栗のマーケットはかなり大きくなっていると思います。需給の状況はいかがですか。
十河:供給が全く間に合っていません。栗は植えてから収穫するまで3~5年かかるといわれていますが、1本の木で200~300キロ取ろうと思ったら、8年近くはかかります。長期的な目線でできるかどうかが重要なポイントだと思います。
岩佐:加工場のような設備に投資したとしても、自社生産の栗を加工できるのは8年後になりますよね。どうやって栗を集めているのでしょうか。
十河:全国のネットワークを活用しています。栗の1番の産地は茨城県、2番目が熊本県、3番目が愛媛県です。昔はそこまで栗のマーケットが大きくなくて確保しやすかったのですが、今は本当に少なくなっています。私たちはどれだけ信頼してもらえて、一緒に取り組んでくれる農家を見つけられるかが重要になってきます。
岩佐:サプライヤーになってくれる栗農家を増やすための戦略を教えてください。
十河:いくつかありますが、最終的には自分たちの作る商品がお客様に認めてもらえているかということと、それを実現するために「この農家の商品じゃないとダメだ」ということを理解してもらうという関係づくりですね。そういう地道な取り組みが、約9年かかって今ようやく実り始めてきたんです。
岩佐:しまんと新一次産業に栗を卸したいという農家さんが順調に増えていっているんですね。

サプライチェーンマネジメントの重要性
岩佐:栗は一般的なサイズだと、1キロ当たりの平均価格はいくらになるのでしょうか。
十河:大きさと地域によっても異なりますが、大体800~1500円です。最終的にペーストに加工すると2~3倍の値段になり、更に高付加価値を付けると4~5倍になります。
岩佐:4~5倍になるものは、栗自体の品質が良いのでしょうか。
十河:原料、保管状態、加工状態の全部です。このうち一つでも欠けてはダメで、全てが重要なポイントになります。
岩佐:サプライチェーンのマネジメントがすごく大事になってきますね。
十河:まさに、最初に栗に取り組むときに、サプライチェーンをどれだけ作れるかは重視しました。あとはお客様に届けるためにもっとも重要なポイントはどこなのか。そこを見つけるためにお客様と話して、今はそのポイントをさらに重視して設備投資も続けています。
岩佐:栗とサツマイモのペーストを製造していますが、利益率はどれくらい違うのでしょうか。
十河:栗のほうが2倍ほど高いと思います。栗の買い付けも高い値段で行っているので、栗の園地を広げていけば、かなり収入は上がると思います。例えば、10アール当たり、300~500キロ取れて、売り値は1キロ当たり1000円とすると多くて年間500万円になります。
岩佐:樹木ですから、管理コストもそこまでかかりませんよね。もし栗をやりたいという人はどこに連絡すればいいですか。
十河:ぜひ、しまんと新一次産業に連絡をいただければ。私たちも今、農家の協力を得ながら連携して栽培技術を身に付けているので、一緒にチームを組んで栽培できれば、お互いに力になれると思います。もちろん作っていただいた栗はこちらが全量を買い取り、最終的なお客様まで私たちが責任を持ってお届けしますよ。

ベースにあるのは“地域経済をどう強くしていくか”
岩佐:今後、事業を拡大していくための戦略はあるのでしょうか。
十河:やはり原料がもっとも重要になるので、栽培に力を入れていこうと考えています。そのために加工能力も上げていきます。1日当たりの加工量をさらに上げて、品質もより高めていくという取り組みをしていきます。
岩佐:原料の取り合いになってしまうからこそ、自社生産が安定供給の土台になってくるわけですね。
十河:今、どの作物もそうだと思いますが、国産の原料が見直されています。普通に食べられているものが食べられなくなってくる時代も予想されている中で、特に栗は全国的に生産量の減少が激しいものです。だからこそ生産に注力することで、事業全体を強くし、地域経済も強くしていきたいと考えています。
岩佐:地域経済をどう強くしていくか、というのがベースにあるんですね。
十河:ここは四万十町の中央インターからも1時間ほど離れた中山間地域です。UターンやIターンなどでやって来て、ここで生活していきたいという方々のための受け皿となるのが、この会社だと思っています。

まとめ
岩佐:しまんと新一次産業には素晴らしい点がたくさんありましたね。最後にポイントをまとめます。
| しまんと新一次産業農業戦略のポイント | ||
| ① | 競争優位性の高い品目を見極める | 栗は生産者数が減っているのにマーケットが伸び続けている。さらに収穫するまで10年近くかかるため他が追随できない。それを自社で生産しているところに競争優位性がある。 |
| ② | サプライチェーンマネジメントを徹底する | 原料の生産・仕入れから効率よく加工するためのオペレーションを極めて緻密に計算する。加工する際には、付加価値をどれぐらい上げられるかに注目する。 |
| ③ | 地域を豊かにするという発想を持つ | 耕作放棄された谷津田を活用して栗を栽培することで、鳥獣害の防御壁となり、地域にメリットをもたらしている。地域の農業を盛り上げるという思いがあるからこそ周囲の農家もついてきてくれる。 |
岩佐:もうかる農業と地域への貢献、両方が組み合わさって今に至るのだと思います。ぜひ栗をやりたい人は、しまんと新一次産業に連絡してみてください!
(編集協力:三坂輝プロダクション)



















