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取引先はたった2社!引く手あまたのトマトづくりの裏側に迫る【岩佐と紐解く戦略農業#22】

岩佐大輝

ライター:

連載企画:岩佐と紐解く戦略農業

私、株式会社GRAの岩佐大輝(いわさ・ひろき)が、いま注目している農業経営者を突撃し、戦略を紐解いていく連載企画。今回は、四国で初めてオランダ式フェンロー型ハウスを導入した、高知県・四万十とまとを訪問。「こちらから営業をしなくても来てくれる」という山本喜代晴(やまもと・きよはる)さんに、競争優位性を高めるためのコツやコストコントロールの仕方について聞いた。

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【プロフィール】

山本喜代晴さん

四万十とまと株式会社代表取締役
建設業から農業界へ転身し、四万十とまと株式会社を創業。農林水産省の事業で全国10カ所に整備された次世代施設園芸拠点の一つとして、四国で初めてオランダ式フェンロー型ハウスを導入した。2025年7月現在、トマトとパプリカをそれぞれ0.7ヘクタール栽培する。

■岩佐大輝さん

株式会社GRA代表取締役CEO
1977年、宮城県山元町生まれ。大学在学中に起業し、日本及び海外で複数の法人のトップを務める。2011年の東日本大震災後に、大きな被害を受けた故郷山元町の復興を目的にGRAを設立。著書は『99%の絶望の中に「1%のチャンス」は実る』(ダイヤモンド社)ほか。

農業のイメージを変え地元の産業をつくるために転身

岩佐:四万十とまとの創業前、山本さんは何をしていたんですか。

山本:38歳まで会社員として建設業の技術職をやって、その後独立して従業員2人の小さな建設会社を始めました。そろそろ自分で何かやってみたいなと思って、100万円の資本を元手にね。8年目で自分の会社より5倍大きい会社を買収して、それからもいろいろな業種の会社を買って……いつの間にか会社が増えちゃった。

岩佐:建設業から発展して、たくさんの会社を経営されているんですね。

山本:四万十とまとの話があったのは、独立してから約10年経った頃です。金額を考えると最初は無理かなと思いました。でも、UターンやIターンで四万十にやってきた人を受け入れる場所がなく、当時の町長からも「地元に産業が全くないから、どうしても整備しておきたい」と言われて。

岩佐:なるほど。

山本:実際、農業を産業として構えたことで、地域に約90人の雇用が生まれたんですよ。私の会社でも30人募集をかけましたが、91人が応募するほどめちゃくちゃ人気で。近代的農業というイメージはやっぱり刺さるんだよね。

岩佐:ここの設備はもちろん、社長自身もかっこいいですもんね。

山本:農業のイメージを変えたかったんですよ。昔は農業といえば土耕栽培で、雨の日も雪の日も一生懸命やるようなイメージがあったけど、今の若い人には近代的農業の方が魅力的に映るよね。そういう新しい農業、もうかる農業を若い人にやってほしい。私は、農家がベンツでもフェラーリでも乗っても構わんと思う。そのためにイメージを変える方向性をとりました。

やるべきこと・やらないことを明確にする

岩佐:総事業費はいくらぐらいでしたか。

山本:27億円で仕上げました。補助金なども活用したので、実際の持ち出しは約3億円です。創業から約10年経った今、借金は1億円を切って、ほとんどありません。償却もあと5年ほどで終わるので、事業としては順調だと思います。収穫量は施設全体で約250トンです。

岩佐:販路はどこですか。

山本:以前は大手飲食チェーンに卸していました。その後、取引先の1社が大玉トマトからミニトマトに変えることになり、うちもミニトマトを作っていたことがあります。でも費用対効果は生まれませんでした。大玉の方が販路もあるし、収穫も簡単に済むし、そっちに切り替えた方が利益率が高いなと。今は仲卸業者を通じて、スーパー2社に販路を絞っています。

岩佐:価格はどのように決めていますか。

山本:1年の最初に決めます。相場には波があるでしょ。暑すぎて収穫できないなど時期によって変わることもある。それは嫌だから、年間を通して一番高い価格と安い価格の間をとって、その価格で通年取引をしています。

岩佐:契約栽培ですね。常にかかるコストは一定ですもんね。

山本:今は生産者であるうちのほうが立場が強いです。うちは安定して通年で収穫できることが強みですから、うちのトマトが欲しかったら、1年の最初に決めた価格で契約してもらう。そうでなければ、うちは売らんよと。

岩佐:売る前から平均のキロ単価が分かるから、経営計画も作ることができる。つまり、収穫量さえコントロールできれば良いということですね。

人の動きの見える化で生産性を上げる

岩佐:これだけのハウスであれば、日々のオペレーションがかなり重要になると思います。コストコントロールはどのように行っているのでしょうか。

山本:1~2年目はかなり残業が多かったです。そこでデータを取ってみたら、1レーンあたりの収穫に、40分かかる人と50分かかる人がいることが分かりました。また、葉かきなど作業の種類によっても、人それぞれ早さが違いました。そこでデータを基に、人を適材適所に配置しました。そこからはロスが減りました。

岩佐:人の動きを見える化したんですね。圃場全体の栽培を管理したり、労務管理をしたりするマネージャーはいるんですか。

山本:その作業に慣れた人や、作業が早い人にリーダーになってもらっています。うちの場合、入社当初はパートですが、作業に慣れて本人の希望もあれば、準社員、正社員と昇格する仕組みがあります。今月も2人昇格しました。そうした仕組みを整えたことで、作業時間のロスもなく、仕事も早く終わるようになりました。

岩佐:昇格制度があるんですね。

山本:仕事が早く終わるようになったことで、新しく仕事を請けられるようにもなりました。例えば、トマトの袋詰め。もともとスーパーの人がやっていた袋詰めの仕事を、現在はうちがやっています。少し単価は上がりますが、うちがやるほうが早いので任せてもらっています。

品質を徹底し強みに

岩佐:社長以外に営業はいるんですか。

山本:いません。いろんなところへ営業しなくても、ここに来てくれるんですよ。

岩佐:それはなぜですか。トマトの産地は増えているし、どちらかというと買い手市場になっている雰囲気もありますよね。

山本:うちは品質を重視しています。例えば、うちは1年で収穫できる約250トンのトマトすべての糖度を測っています。糖度が高ければフルーツトマトになりますから、スーパーも喜んでくれる。ほかにも、うちのトマトは日持ちがめちゃくちゃ良く、ちょっと固めで5ミリにカットしても中のゼリーが落ちないといった特徴があります。

岩佐:値段も高いけど品質はそれ以上ということですね。

山本:そういうことです。そのどちらかがないと売れませんし、うちの強みになりませんから。あとは四万十川のほとりのきれいな水で作っているというキャッチフレーズをつければ、更に10~20%高く売れます。

岩佐:機能的な価値以上の四万十ブランドも、売上に貢献しているんですね。

山本:上手にインパクトをつけて売ること。それが戦略ですね。

まとめ

岩佐:最後に、四万十とまとの経営のポイントを説明します。

四万十とまとの農業戦略のポイント
やるべきこと・やらないことを決める 作ることに集中し、販売も大手2社に限定して、完全な契約栽培で売り切る。生産計画を達成し、高品質なものを作りさえすれば良いという極めてシンプルな経営になる。
競争優位性の獲得の仕方を熟考する 糖度や熟度など品質管理を徹底。価格よりも品質が上回る“コスパが良い状態”を安定的に保つ。
農業者かつ経営者として合理的な経営を行う 近隣の農家と道具や設備を共有することで、地域の仲間と共に合理的な経営を行う。

岩佐:やっぱり農業も経営。どうやったら勝てるかを理詰めで考え、戦略的に取り組んでいくことが重要だと、改めて山本さんから学びました。

(編集協力:三坂輝プロダクション)

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