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霜降りで戦わない 母牛をブランド化した畜産家の戦略【岩佐と紐解く戦略農業#23】

岩佐大輝

ライター:

連載企画:岩佐と紐解く戦略農業

私、株式会社GRAの岩佐大輝(いわさ・ひろき)が、いま注目している農業経営者を突撃し、戦略を紐解いていく連載企画。今回は、鹿児島県の種子島で、高品質かつサステナブルな和牛肥育を営む株式会社mulberryの梶屋拓朗(かじや・たくろう)さんに、畜産農家の農業戦略について聞いた。

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【プロフィール】

梶屋拓朗さん

株式会社 mulberry代表取締役
慶應義塾大学卒業後、外資系企業ファイナンス部やグロービス経営大学院仙台校の責任者を経験し、祖母の代から経営する畜産業を承継。種子島の自社牛舎で黒毛和牛を肥育し、「梶屋牛」としてブランド化する。

■岩佐大輝さん

株式会社GRA代表取締役CEO
1977年、宮城県山元町生まれ。大学在学中に起業し、日本及び海外で複数の法人のトップを務める。2011年の東日本大震災後に、大きな被害を受けた故郷山元町の復興を目的にGRAを設立。著書は『99%の絶望の中に「1%のチャンス」は実る』(ダイヤモンド社)ほか。

震災を機に種子島へ

岩佐:梶屋さんって、以前全く違う分野のお仕事をされていたんですよね?

梶屋:最初は外資系企業ファイナンス部を経て、2011年3月1日からグロービス経営大学院に転職したのですが、その10日後に東日本大震災が起きました。東京の自宅で、畑やビニールハウスが濁流に飲み込まれるニュース映像を見て、すぐにボランティアに行こうと決めました。そこで宮城のボランティア活動に参加したのが、岩佐さんとの出会いでしたね。

岩佐:そう、私たち15年前のボランティア仲間なんですよね!

梶屋:その後、グロービス経営大学院の仙台校立ち上げ責任者を10年間務めたんですが、「10年経ったら地元へ帰って牛をやろう」と決めていたので、種子島に戻ってきました。

岩佐:畜産業を継ぐにあたって、どんなお考えをお持ちでしたか?

梶屋:元々は祖母の代から繁殖農家として母牛を肥育し、子牛を産ませて競りに出す仕事をしていたので、現在も「繁殖」がベースです。しかし、一生懸命育てた命が競りで正当に評価される「フェアネス」を実感しにくいという課題を子どもの頃から感じていました。そこで、役目を終えた経産牛をしっかり肥育して、最高の赤身肉をつくって世界に勝負していこうと考えたんです。

プロがひしめく霜降り牛では勝負しない

岩佐: なぜ「赤身肉」にこだわったんですか?

梶屋: 種子島は離島で有数の米どころでもないので、霜降り肉(サシ)を作るための濃厚飼料やワラの運賃が高くつきます。一方で牧草は豊富にある。だから、プロがひしめく霜降り肉の「レッドオーシャン」で戦うのではなく、牧草やサトウキビといった種子島の資産やメリットを活かして、ビタミン豊富なおいしい赤身肉で勝負しようと決めました。

岩佐:経産牛の赤身肉を「梶屋牛」としてブランド化されたそうですね。

梶屋:今まで母牛たちは大体8回ほどお産をすると、「廃牛」として役目を終えていました。それをしっかり肥育して、世界一の赤身肉をつくろうということで始めたのが、種子島の自然を生かしたオーガニックな「梶屋牛」なんです。梶屋牛には、種子島の太陽と雨で育てた100%自社産の天然牧草と天然飼料を与えています。牧草については、後継者がいない農家の田畑を活用したり、国と県の事業で開墾するなどして、牧草地を増やしています。

岩佐:経産牛の肥育をはじめたのは、いつごろからですか。

梶屋:1年半ほど前からはじめました。約10歳まで繁殖牛として頑張ってもらい、その後8〜9ヵ月間肥育した後に出荷します。

環境をいかしたこだわり牛舎

岩佐:農場環境衛生コンクールで、最優秀賞を受賞した経験をお持ちですね。牛舎づくりではどのような点に配慮されていますか?

梶屋:弊社の牛舎は、とても清潔なのが特徴で、徹底して掃き清めるこで清潔さを保ち、その牛舎を爽やかな海風が吹き抜ける環境です。

岩佐:牛舎特有の嫌な匂いが全くありませんね。人間が心地よいと感じる環境は、当然牛たちにとっても健全な環境なんでしょうね。

梶屋:弊社では子牛の「繁殖」がメインなので、母牛にも子牛にもストレスがかからない快適な環境づくりを心がけています。出産を控えた母牛のお産室は、種子島産のサトウキビの絞りカスである「バガス」を敷いて、ふわふわのベッドを作っています。島のラム酒工場から届く一番絞りのバガスです。

岩佐:すごく爽やかな香りですねえ! これは気持ちよさそう!

無限に食べられる脂!梶屋牛の実力

岩佐: 私も「梶屋牛」の赤身肉をいただいたことがあるんですが、素晴らしい味、品質です。経産牛の肥育に取り組んでわずか数年なのに、どうやって技術を身につけたんですか?

梶屋:「尾崎牛」で世界的に有名な尾崎さんの指導を受けています。化学物質を使わないノーケミカルというコンセプトで、健康的な餌を与えて健康的な身体に育てるという考え方です。梶屋牛の脂はサラッとしていて切れが早く、不思議なほど胃にもたれません。

岩佐:梶屋牛のあの脂は、ホントに無限に食べられるぐらいサラっとしていますよね。売り先はどのように開拓されたんですか?

梶屋:ミシュラン掲載店を中心とした高級レストランには、まず自分が食べに行ってシェフと知り合いになり、梶屋牛を直接食べていただくという働きかけをします。シンガポールへの輸出も行っていて、今後は輸出をさらに増やしていく予定です。販路拡大に関しては、やっぱり人とのつながりやご縁が大事だと実感しています。

地域や産業を強くするのは「誇り」

岩佐:地域がにぎわうためには、産業にかかわる人や地域住民の「誇り」がキーワードかなと思っているんです。

梶屋:同感です。生産者が、自分たちが作っているものの価値を実感し、食と農を支える誇りを持てるようにしたいですね。将来的には「梶屋牛」が「種子島牛」になってもいいと思っています。そして、島(種子島)の人たち皆が「東京の一流店で出されているのは種子島のお肉なんだぞ!」と誇りに思える世界観を作りたいです。

岩佐:そのためには戦略が必要だと思うのですが、梶屋さんの戦略のポイントは何ですか?

梶屋:一つは、勝てない相手がいる成熟しきった市場では戦わないことです。もう一つは、圧倒的にいいお肉で、圧倒的にサステナブルなお肉をつくること。サトウキビの葉や穂先を食べていて、さらに絞りカスを牛舎に敷いて育っているような牛は種子島ぐらいです。種子島という島自体が、差別化ポイントの一つになっているんだと思います。

岩佐:肥育のコストという面では、いかがですか?

梶屋:経産牛である梶屋牛は、肥育期間が通常の半分以下の8ヵ月ぐらい。通常よりも製造原価が低く、肉質もしっかりしています。肥育期間は短くても、ものすごい手間と愛情がかけられている。だからその価値を安売りしてはいけないんです。その価値を理解して、さらに高められる方々に販売していくという戦略です。

岩佐:今後の展望はどうお考えですか?

梶屋:今年中に新しい大きな牛舎を着工し、来年には完成予定です。そこで若手を雇用し、「儲かる農業」としてのモデルを確立していきたいと考えています。

最後に、株式会社mulberryの農業戦略のポイントをまとめてみました。

株式会社mulberryの農業戦略のポイント
圧倒的においしく、サステナブルな商品をつくる 地域の資産、とくに農産物の副産物や廃棄物を無駄にせずに徹底的に活用して、winwinの連携を図る。地域の自然環境の強みがビジネスモデルの強みとなる仕組みをつくり、他では真似できない差別化を図る。結果、健康的で圧倒的にサステナブルなお肉となる。
レッドオーシャンでの戦いは避ける 霜降り肉では名だたる名人級の方たちが大勢いる。そんな中で自分が今から参入するのは不利なので、赤身肉販売に注力する。
販路拡大は人のつながりを大事に
レストランのシェフや卸担当者など、人と人のつながりや縁を大事にする。安売りはせずに、梶屋牛の価値を理解してくれる方々に販売をしていく。

 

編集協力:佐久間厚志(ウイルパブリシティ)

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