高温で品質が不安定になる理由はどこにあるのか
高温期のダイコン栽培では、「生育の安定性」が品質を左右します。
播種後の環境条件、特に気温や水分の変動によって根形や肥大のバラつきが生じやすく、曲がりや内部障害、さらには収穫・出荷時のロスにつながることも少なくありません。
近年は猛暑や乾燥、局地的な降雨など気象条件の振れ幅が大きくなり、「作っても形がそろわない」「収穫時や出荷時に割れが出る」といった声が現場で増えています。こうした栽培後半のトラブルは、発芽や初期生育だけでなく、品種が持つ“環境への対応力”によっても左右されます。
こうした課題に対して、温度変化による根形のブレが少なく、耐暑性・耐病性に加えて作業割れへの強さを兼ね備えた「夏秋自慢」が選択肢の一つとして注目されています。
そんな品種を導入した産地の事例を、以下にご紹介します。


ダイコン「夏秋自慢」導入事例
(2025年度)
◆部会員数:8名
◆栽培面積:46ha
◆出荷時期:6月~10月末
◆主な出荷先:1/3が県内、2/3は東京・横浜など
◆年間生産量:24万ケース

JA利根沼田だいこん部会 星野照明(ほしのてるあき)さん(左)と同JA片品支店 営農経済課 営農渉外担当の星野美佐子(ほしのみさこ)さん(右)
■産地概要
JA利根沼田は高冷野菜産地
「尾瀬だいこん」の産地であるJA利根沼田が管轄する片品村は、群馬県の北東部、標高800m以上の高冷地です。取材に訪れた片品村の東部は、本州最大の高層湿原である尾瀬国立公園に含まれます。片品村の土壌は、耕土に浮石礫(ふせきれき)を多く含み、その下層には埋没腐植層、褐色ローム層が堆積しています。年平均気温は9.4℃。8月でも平均気温21.6℃と冷涼な上、昼夜の寒暖差が大きく、夜間は半袖では肌寒いほどです。
こうした気候を活かして、JA利根沼田は古くから高原野菜の一大産地を形成しており、特にダイコン栽培の歴史は50年以上を誇ります。昼夜の寒暖差があるため「尾瀬だいこん」は甘く、柔らかいのも特徴。煮物、おでん、漬物のほか、サラダにしてもおいしいと評判です。今回は、JA利根沼田だいこん部会の星野照明さんと同JA片品支店 営農経済課 営農係担当の星野美佐子さんに、ダイコン「夏秋自慢」の評価を伺いました。
■導入経緯
温暖化による軟腐・曲がりが課題
秀品率向上を目指して導入
「祖父の代から露地野菜を始めたので、私は3代目です。圃場面積は7ha。ダイコンとスイートコーンを栽培しています」と、星野照明さんは話し始めました。働き手は照明さん、清美(きよみ)さんご夫婦のほか、収穫期のみパートタイムで数名を雇用しているそうです。
「長年、普及所主催で品種評価試験を行っており、『夏秋自慢』は試交番号だったころから数年続けて栽培していました。それで『夏秋自慢』の品種特性を知ることができました」
「一方、近年は当地でも温暖化の影響があり、夏場の気温が上昇しています。その影響からか、軟腐病や“曲がり”に悩まされ、秀品率が低下していました。特に2024年作は軟腐病による大打撃を受け、畑全体に軟腐病による腐敗臭がするほどでした。品種を変えなくては生産を続けられないという危機感から、『夏秋自慢』への切り替えを決めました」と、導入の経緯を教えてくれました。

草姿は中葉でやや立性。抽根部がやや短く曲がりにくい

曲がりが少なく、出荷箱にきれいに入る。もしくは出荷箱に入れやすい(写真/星野照明さん)
■耐暑性と耐病性が高い「夏秋自慢」
照明さんは例年、4月から播種を始めて、5月、7月、8月に3度、品種を変えていました。2025年は、7月中旬以降に播種する品種を「夏秋自慢」に切り替えました。その評価について伺うと、開口一番「とにかくできがよい!秀品率が格段に上がりました」と、照明さんは満面の笑みです。
「最初に気付いたのは、発芽率が高いこと。播種後のそろった発芽により、欠株が少なく、生育やそろいの安定につながっています。7月20日に播種してから月末まで、1日1反、2日おきに播種して、8月以降も適宜、播種しました。暑い日や雨が降らない日が続いても、順調に生育してくれました。8月の品種切り替えはやめて、最後まで『夏秋自慢』で行けるかもしれません」
さらに「収穫時と収穫後の作業をしているときの“作業割れ”が極めて少ないから、無駄なく出荷できる」とも、語ってくれました。
「他の品種では、洗う・トラックに積むといった作業をするたびに割れが発生して、歩留まりが下がっていたが『夏秋自慢』に変えたことで秀品率が30%向上しました」と、照明さんは満足気です。
一方、「夏秋自慢」は抽根がやや短く、収穫時に多少力が要りますが、負担に感じるほどではないようです。「品種はトータルで考えて選定するべきです」と、断言されました。
■今後の展開
集荷所を訪ねると、JA利根沼田の片品集荷所長を務める永井幸男(ながいゆきお)さんが「ダイコンは重くて作業が大変。当地でも後継者がていて不足し、出荷量は減少傾向です。それでも長年かけて確立した産地ですから、優れた品種をうまく活用しながら、部会員の皆さんには長く作り続けてほしいです」と語ってくださいました。
夏の暑さにも病害にも負けない「夏秋自慢」は、高冷地・JA利根沼田のダイコン作りを未来へつないでいくことでしょう。
まとめ
JA利根沼田でのこの事例を見ると、「夏秋自慢」は、次のような課題解決に貢献していることが確認できます。
・発芽がそろい、欠株が少ないため、初期生育のバラつきを抑えやすい
・高温や降雨が少ない条件でも生育が安定しやすい
・軟腐病や曲がりによる品質低下の課題に対し、改善につながった実例がある
・収穫・洗浄・出荷作業時の「作業割れ」が少なく、歩留まりを確保しやすい
・こうした積み重ねの結果として、一事例では秀品率30%向上につながっている
つまり「夏秋自慢」は、単に病気に強い品種というだけでなく、発芽から収穫・出荷に至るまでのロスを一つずつ抑え、結果として秀品率の安定につなげていくタイプの品種といえます。
もちろん、すべての産地や作型で同様の結果が得られるとは限りませんが、本事例は、品種を「耐病性」だけでなく、「発芽」「生育」「収穫・出荷時の作業性」まで含めてトータルで評価する重要性を示しています。
こうした課題に直面している場合は、現場の条件に合わせながら、「夏秋自慢」を検討候補の一つに加えてみてもよいのではないでしょうか。
(文・写真:川島礼二郎・一部サカタのタネ提供/編集:サカタのタネ)
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