葛巻町の風景と暮らし

高原が広がる葛巻町。夏の爽やかな青空と牧草地が、町の日常を彩ります
標高1,000m級の山々に囲まれた葛巻町。夏には爽やかな風が牧草地を駆け抜け、冬には雪が一面を白く染めます。牛舎やサイロが並ぶ広大な牧草地を歩くと、時間がゆったりと流れていることに気づきます。
乳牛飼育が盛んな「東北一の酪農郷」として知られる葛巻町は、人口よりも牛の数が多い町でもあります。町にとって酪農は単なる産業ではなく、文化そのもの。どこからともなく聞こえてくる牛の鳴き声に、訪れる人は懐かしさや安心感を覚え、静かな落ち着きを感じるでしょう。

葛巻町のアイドル「ミルンちゃん」
しかし、葛巻町も課題を抱えています。人口減少や少子高齢化、農業従事者の高齢化により、かつて200戸以上あった酪農家は今や100戸を下回り、担い手不足が深刻化。
そんな状況の中、葛巻町で新たな挑戦を選んだ若手酪農家がいます。28歳の八幡求夢(やはた・もとむ)さんは、地元で家業を継ぎながら地域の未来を見据えた酪農に取り組んでいます。
若手酪農家・八幡求夢さんに聞く「葛巻町で酪農を営むということ」

一頭一頭の体調を確認しながら、丁寧に世話をする八幡さん
「牛との信頼関係が日々の仕事の原動力です」
葛巻町出身の八幡求夢さん(28歳)は、家業である「株式会社Peace Valley Dalry」で酪農を営む若きファーマー。同社では経産牛約100頭、未経産牛約100頭、繁殖和牛約40頭を飼養し、牧草地65ヘクタール、デントコーン22ヘクタールという大規模経営を営んでいます。
幼少期から牛に親しんで育った八幡さんですが、家業を継ぐかどうかには迷いがあったそうです。

「農業高校に進み、牛や酪農の魅力を知って覚悟が固まりました。その後、北海道・岩見沢市の酪農家で1年間の研修を経験。外の環境で学ぶことで新しい視点を得たのは大きな財産です。Uターン後は責任ある大規模酪農の担い手として、日々奮闘しています」
同社の1日の搾乳量は約3.4トンにのぼり、搾った新鮮な生乳は「低温殺菌牛乳」などに製品化され、関東圏を中心とした食卓へと届けられています。

新鮮な生乳を届けるため、朝夕欠かさず搾乳する八幡さん
日々の積み重ねが、食卓に安全で美味しい牛乳を届けています
八幡さんにとって、牛を育てることの喜びは日々の作業の中にあります。
「良質な乳牛を育てられたときや、畜産共進会で入賞した瞬間は、本当に嬉しいです。牛の改良を考えている時間はワクワクして、つい時間を忘れてしまいます」
酪農家にとって牛は単なる生産対象ではなく、ともに未来を築く大切なパートナー。だからこそ、一頭一頭と向き合い、日々の健康管理や飼養環境の工夫は欠かせません。

生まれたばかりの子牛。町の酪農文化を未来につなぐ、可愛らしい新しい命
「毎日の飼料の配合や牧草の刈り取りタイミング、牛舎の衛生管理など、小さな工夫を積み重ねることで牛の健康を守り、生乳の品質を高めることができます。一頭一頭の体調や表情を観察しながら向き合う時間は大変ですが、その分やりがいも大きいです」
酪農の現実と未来への挑戦

「酪農はキツい、休みがないという負のイメージがあるのは否めません。そうしたイメージを変えるために、将来的には、分業制や機械化による効率化で負担を減らすと同時に、環境に優しい循環型酪農にも取り組みたいと思っています。その第一歩として、牛の排泄物を畑に戻し、そこで育った牧草やとうもろこしを飼料にすることから始めています」
さらに、八幡さんは地元の自然と調和した酪農にも力を入れています。牧草地や畑は高原の風土に適した草種や飼料作物を選び、化学肥料の使用を最小限に抑える。牛と土地、町の文化が一体となった酪農こそ、葛巻町の未来を支えると八幡さんは信じています。
「葛巻町は、牛と自然に囲まれながら挑戦できる場所です。最初は大変なことも多いですが、町や先輩酪農家のサポートがあります。後継者に限らず、酪農に興味のある方は一歩踏み出し、自分の可能性を信じて挑戦してほしいですね」
この言葉が示すように、自然と牛と共に生きる暮らしに憧れる人にとって、葛巻町は理想的なフィールド。町全体で次世代の酪農を支える環境が整っているからこそ、自分らしい酪農生活を描き、実現できる場所なのです。
葛巻町の支援と未来への思い

葛巻町農林環境エネルギー課八重樫純さん、八幡さん、葛巻町農林環境エネルギー課丸山卓真さん
葛巻町では、酪農の未来を次世代につなぐため、さまざまな支援制度を整えています。
例えば、離農予定の農家と新規就農希望者をつなぐマッチングを行うことで、設備や牛を引き継ぎ、最小限の投資で酪農を始められます。さらに、農地や農道の整備費用支援、飼料基盤の整備など、畜産全体を支える取り組みも行われています。
「葛巻町は少子高齢化と人口減少が進んでいます。このままでは町の畜産基盤である酪農が衰退します。だからこそ、町では新しく農業を始めたい人を全力で応援します」
と、話すのは、葛巻町農林環境エネルギー課の八重樫純(やえがし・じゅん)さんと丸山卓真(まるやま・たくま)さんです。町の制度は単なる“補助”ではなく、「未来の担い手を共に育てたい」という“共育”の表れといえるでしょう。
葛巻町で酪農と自然に寄り添う暮らしを

葛巻町は、自然と牛と共に生きる町。酪農は文化であり、暮らしそのもの。担い手不足という課題を抱えつつも、町はそれを「新しい挑戦者を迎え入れるチャンス」と捉え、全力で支えています。
「いつか農業をやってみたい」「自然の中で暮らしたい」——そんな思いを抱く人にとって、葛巻町は最適な場所。まずは一度訪れて、牛と人が共に生きる暮らしと文化を五感で体感してください。風に揺れる牧草の香り、牛舎の音、冷たい高原の空気—。そこから、あなたの新しい物語が始まるかもしれません。
【お問い合わせ】
盛岡地方農業農村振興協議会(八幡平農業改良普及センター)
〒028-7112 岩手県八幡平市田頭39-72-2
TEL:0195-75-2233
FAX:0195-75-2269
E-mail:CE0036@pref.iwate.jp

















