法人化草創期から受け継ぐ、開拓者の精神

同社の始まりは、祖父の代で農業法人制度が黎明期にあった昭和27年。法制度が整う前夜ともいえる時期に法人化したため、当時は「自社で栽培した茶のみ販売可」という厳格な制約があり、仕入れ販売は認められていませんでした。祖父は、四国の柑橘農家の法人化裁判を応援弁士として支えるなど、制度の壁と真正面から向き合った人物でもあります。平成に入り、農産物の加工・流通の自由化が進むと、かねて祖父が描いていた“農業法人のあるべき姿”が現実に。若き日の三代目・辻幸博さんは、その可能性に共鳴し、家業を継ぐ道を選びました。辻製茶の原点には、制度を開くために挑み続けた家族の物語があります。
和束の「地の利」を、つくり手の「技」に
和束は、昼夜の寒暖差、適度な霧、斜面地という茶栽培に好適な条件が重なる土地。辻製茶はこの環境を活かしながら、畑ごとの特性に合わせたきめ細かな栽培を実践し、原葉の質を高めてきました。自社工場では碾茶(てんちゃ)から抹茶まで一貫製造が可能で、受託製造の体制も整備。原葉の見極めから仕上げの火入れまで、各工程で“和束らしさ”を引き出します。
一貫体制という、確かな強み 辻製茶の最大の特徴は、畑から製品までを一社でつなぐ垂直統合型のものづくりにあります。

栽培:地形と気象の差異を読み、畑ごとに最適管理
製造:碾茶・抹茶の製造ラインを自社に保有、受託にも対応
加工:自社ブランドの加工品を開発、品質とストーリーを両立
販売:顧客のニーズに合わせた商品設計で多様な販路に提案
各工程の意図が共有されることで、味・香り・色の再現性が高まり、安定供給と品質向上を両立。市場の変化にも、スピーディーに応えられる体制です。
6次化で広げる、和束茶の未来
自社ブランドの加工品開発に注力し、抹茶や抹茶派生商品を強化。加えて、碾茶・抹茶の受託製造も行い、和束産原料の価値を多方面に広げています。今後はHACCPなどの認証取得を進め、輸出を含む外部市場での信頼をさらに高める方針。抹茶加工の増産強化は、そのための重要な鍵です。

茶畑の景観そのものが地域の財産である和束。辻製茶は、栽培・製造の基盤を守りながら、地域の茶業者や関係者と連携し、「和束=高品質の抹茶・碾茶」という地域ブランドの確立に貢献していきます。必要とされる企業であり続けることが、地域の風景を次代につなぐ力になる。その信念が、日々の仕事を支えています。
6次産業化の加速:自社ブランド強化と受託製造の両輪で価値最大化
品質と信頼の国際基準化:HACCP等の取得、品質保証体制の一層の整備
海外展開:輸出の拡大と越境市場でのブランド浸透
地域ブランドの深化:和束らしい味・香りの定義と発信
社名に込める、原点回帰の思い
現在の法人名は「農業生産法人 辻製茶有限会社」。創業時の名は「辻製茶有限会社」でした。三代目は、祖父が名付けた原点の名に戻したいという想いも抱いています。社名の話題ひとつにも、歴史への敬意と次の時代への意思が宿ります。必要とされる企業であるために変化の大きい時代だからこそ、辻製茶は基本に忠実であろうとします。畑に向き合うこと、工程の一つひとつを磨き続けること、そしてお客様にとって最適な一杯を届けること。その積み重ねが、和束の茶の未来を形づくっていきます。

和束の斜面に広がる畝、朝霧の向こうから立ちのぼる若葉の香り。そこにあるのは、時代を切り拓いてきた辻製茶の意志と、次の一杯を待つ人へのまっすぐな約束です。
会社データ
企業名:農業生産法人 辻製茶有限会社
所在地:京都府相楽郡和束町玉井32番地
主な生産品目:茶(碾茶・抹茶ほか)
従業員数:5名
主な取り組み:自社ブランド開発、碾茶・抹茶の受託製造、6次産業化、地域連携・地域貢献

















