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研修生が言うことを聞かない!? 就農希望者を育てる先輩農家のジレンマ【転生レベル31】

平松 ケン

ライター:

連載企画:就農≒異世界転生?

研修生が言うことを聞かない!? 就農希望者を育てる先輩農家のジレンマ【転生レベル31】

農村という“異世界”のルールを少しずつ理解しながら、地道に努力を積み重ねてきた僕・平松ケン。ついに地域の農家をまとめる部会のトップに就任するに至ったものの、待ち受けていたのは想像以上に厳しい現実だった。
ベテラン農家と若手農家の間に立ち、両者の板挟みに。気を遣いながら日々調整に追われるその姿は、まさに“農業版・中間管理職”。肩書きは立派になったものの、心は常に葛藤と苦悩の中にあった。
そんな中、就農希望の若者を研修生として受け入れることになった。先輩として「全力でサポートしよう!」と意気込んだのも束の間、ひょんなことから温度差や価値観の違いを感じるようになり、受け入れる側の難しさを痛感することになるのだった……。

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本記事は筆者の実体験に基づく半分フィクションの物語だ。モデルとなった人々に迷惑をかけないため、文中に登場する人物は全員仮名、エピソードの詳細については多少調整してお届けする。
読者の皆さんには、以上を念頭に読み進めていただければ幸いだ。

前回までのあらすじ

新規就農者として経験ゼロの状態から農業の世界に飛び込んだ僕・平松ケン。これまでの常識が通用しない独自のルールやしきたりに直面し、「僕は異世界に転生したのか?」と幾度も衝撃を受けながらも、この世界に少しずつ溶け込み、気付けば地域の農家が束ねる部会のトップを任されるまでになった。

そんな僕は、収入の多角化を図るべく「ふるさと納税」の返礼品に採用してもらうことを思い付き、早速、申請手続きを始めたのだが……。

前回の記事はこちら
販路拡大へ、ふるさと納税の返礼品に申請。1年半かけて準備を進めるも、注文はまさかのゼロ!?【転生レベル30】
販路拡大へ、ふるさと納税の返礼品に申請。1年半かけて準備を進めるも、注文はまさかのゼロ!?【転生レベル30】
農村という“異世界”のルールを少しずつ理解し、地道に努力を重ねてきた僕・平松ケン。その甲斐あって地域の農家をまとめる部会のトップにまで上り詰め、「これでようやく苦労から解放されるはず」と胸をなでおろしたのも束の間。僕を待…

登録に前向きな行政の担当者の対応とは裏腹に、なかなか許可が下りず、やっとの思いで認められたのは数カ月後のこと。肝心の春野菜を出品できるタイミングは過ぎ、結局、次年度から取り組むことになったうえ、商品の注文も全く入らず、結果として骨折り損のくたびれ儲けに終わったのだった。

農業研修が再び始動

地域の農協と行政がタッグを組んでスタートした「担い手育成塾」。新規就農者向けに2年間の研修を行い、独立就農を目指す制度だ。

この研修制度では、僕たち地元の農家が実習先として研修生を受け入れ、栽培技術や作業の段取りなどを指導する役割を担っている。

僕は昨年、3人の研修生を指導することとなった。うちの部会だけでなく複数の部会をローテーションで回る仕組みで、最終的に所属する部会を選ぶのだが、結局その3人は別の部会で就農することになった。
「まあ、うちの部会はそれほど大きくないし、仕方がないよねぇ」
そう言い聞かせながらも、僕は少し拍子抜けしたような感じがしていた。ただ、しばらくすると、農協の若手職員である脇坂さんから「今年の研修の件で相談がしたい」と電話が入った。
後日、脇坂さんが菓子折りを片手に畑にやってきた。

「平松さん、今年もまた研修生の受け入れをお願いしたいと思っていまして。ちなみに今年の研修生は2人いて、そのうちの1人が平松さんの部会で本格的に就農したいらしいんですよ」
「へぇ、そんな子がいるんだ? うちを希望するなんて、なかなか物好きだね」
「いやいや、ちゃんと理由があるんですよ。片桐くんって子なんですが、実はこの辺りに移住してきてまして。『地元密着でやりたい』って強い希望を持ってるみたいです」

自宅からの通いやすさもあって、入塾の面接で僕たちの部会を第一希望に挙げたらしい。
「なるほど。それはちょっと、育て甲斐がありそうだな」
脇坂さんから話を聞いた瞬間、僕の中で再びやる気のスイッチが入ったような気がした。

期待の新人現る?

2カ月後、いよいよ今年度の研修初日がやってきた。
畑の隅で受け入れの準備をしていると、2人の若者が現れた。25歳の片桐くんと、38歳の小早川さん。どちらも農家出身ではなく、以前は別の地域でサラリーマンをしていたそうだ。

「こんにちは。今日からお世話になります!」
2人ともハキハキしていて、第一印象は悪くない。特に片桐くんは、人懐っこくて笑顔が爽やかだった。

「そういえば、うちの部会を希望してるんだって?」
そう声をかけると、片桐くんは元気よく返してくれた。「はい、地元の野菜をちゃんと学びたくて」

収穫作業をお願いしてみると、なかなか手際もいい。慣れないうちからこれだけ作業できるなら、体力面でも問題なさそうだ。
(これは頑張ってくれそうだな!)
最初はそんな期待が膨らんでいた。だが、その期待は少しずつ揺らぎ始めていくのだった。

価値観の違いに、募るモヤモヤ

彼らへの期待が微妙に揺らぎ始めたきっかけは、研修が始まって数日後のことだった。
「就農後の計画、少しずつでも考えておいた方がいいよ」
僕のアドバイスに、片桐くんはこう答えた。
「そうですね。丹羽さんのところで使ってるトラクター、よさそうだったので、自分もあれを使いたいなと思ってるんですよ」

「丹羽さん……って、別の部会の?」
「はい。あの操作性と作業効率、すごく魅力的で」
丹羽さんとは、別の部会に所属するベテラン農家。なるほど、勉強熱心なのは結構なことだが、なぜ僕ではなく丹羽さんのやり方に影響されているのか、微妙に引っかかるものがあった。

別の日、定植を手作業で進めていたときに、僕が言った。
「この作業、機械でやる方法もあるんだけど、コスト面を考えてあえて手作業にしてるんだ」
「なるほど。そうなんですね。でも、三好さんは機械を導入していたので、僕もそういうふうにやってみたいなって」
(また別の人か……)

もちろん、いろんなスタイルを吸収して自分なりの方法を模索するのは大事なことだ。でも、こちらの考えをいちいち否定するような返答が続くと、少しずつ熱が冷めていく。

補助金についてアドバイスしたときもそうだった。
「ハイスペックすぎる機械は、補助金で買っても維持が大変だよ」
補助金を活用して機械を導入するのはいいが、その後は燃料代などのランニングコストが発生する。修理やメンテナンスも必要になるため、安易に機械ばかりに頼るのもリスクがある―。

そんな親切心からアドバイスしたつもりだったが、片桐くんから返ってきたのは、やはり否定的な意見だった。
「それでも、一人でやるならこれくらいの性能は必要だと思います」
(……もう、好きにすれば?)
僕は、そんな言葉が喉まで出かかっていた。

育てる側の我慢

匙を投げるのを何とか踏みとどまった僕。
(待てよ。これじゃあ、僕がかつて受けた“異世界の洗礼”と同じじゃないか……)
あのとき、僕もいろんな理想や正論をぶつけては、ベテラン農家を困らせていた。わかってくれないもどかしさ、冷たくあしらわれる悲しさ。今思えば、先輩たちも苦労していたんだろうな……。

夕暮れ時の畑で、気付けば独り言をつぶやいていた。
「そうか。自分も、かつての先輩たちと同じことをしようとしてたんだな……」

「受け入れる」ということは、簡単なことじゃない。育てようとすればするほど、空回りすることもある。それでもやっぱり、背中を見せなきゃならない立場になったからには、諦めるわけにはいかない。
(まあいい。焦らず行こう。こっちはこっちで、俺のやり方をちゃんと見せるだけだ)

片桐くんがどんな未来を描くのか、それをどう応援するかは、これからの関わり方次第だ。
「後輩を受け入れる」ということは、我慢の連続。モヤモヤした気持ちを抱えながらも、僕も少しずつ、その道を歩けているのかもしれない。

レベル31の獲得スキル「新人は謙虚な姿勢が、先輩は寛容さが大事!」

農家は、経営者である。いつまでも先輩農家の指導をうけ、その指示通りに動いているようでは、新規就農を成功に導くことは難しいだろう。その一方で、これまで長年にわたり農業を続けてきたベテラン農家のアドバイスを真摯に受け止め、まずはそれを信じて実践してみることもとても大事だ。謙虚で素直な姿勢は、単に「学びを得る」ということだけでなく、その後の人間関係の地盤を築くためにも重要なことである。

一方で、受け入れ側となる先輩農家の包容力、寛容さも求められるだろう。「俺の言うことが聞けないのか!」「他のやり方をするなら勝手にしろ!」と言いたくなる気持ちをぐっと堪え、新人たちが他の農家にアドバイスを求めたり、これまでにないチャレンジをしたりする姿を温かい目で見守る。このことが担い手育成に直結すると同時に、組織の活性化や古い体質からの脱却を図るうえでも大切だ。

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