マイナビ農業TOP > 農家ライフ > 販路拡大へ、ふるさと納税の返礼品に申請。1年半かけて準備を進めるも、注文はまさかのゼロ!?【転生レベル30】

販路拡大へ、ふるさと納税の返礼品に申請。1年半かけて準備を進めるも、注文はまさかのゼロ!?【転生レベル30】

販路拡大へ、ふるさと納税の返礼品に申請。1年半かけて準備を進めるも、注文はまさかのゼロ!?【転生レベル30】

農村という“異世界”のルールを少しずつ理解し、地道に努力を重ねてきた僕・平松ケン。その甲斐あって地域の農家をまとめる部会のトップにまで上り詰め、「これでようやく苦労から解放されるはず」と胸をなでおろしたのも束の間。僕を待っていたのは想像以上に厳しい現実だった。ベテラン農家と若手農家の狭間で板挟みになり、日々気を遣いながら立ち回る様子は、まるで“中間管理職”そのもの。肩書きは立派になっても、心はもがきっぱなしだった。そんな中、「新たな収入源を!」と目をつけたのが、全国的に注目を集める「ふるさと納税」。「これはイケる!」と息巻いて参入を決意したものの、待ち受けていたのは、申請にまつわる膨大な手間と時間の壁だった。こうして僕はまた新たな試練と向き合うことになったのである……。

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本記事は筆者の実体験に基づく半分フィクションの物語だ。モデルとなった人々に迷惑をかけないため、文中に登場する人物は全員仮名、エピソードの詳細については多少調整してお届けする。
読者の皆さんには、以上を念頭に読み進めていただければ幸いだ。

前回までのあらすじ

新規就農者として経験ゼロの状態から農業の世界に飛び込んだ僕・平松ケン。これまでの常識が通用しない独自のルールやしきたりに直面し、「僕は異世界に転生したのか?」と幾度も衝撃を受けながらも、この世界に少しずつ溶け込み、気付けば地域の農家が束ねる部会のトップを任されるまでになった。

そんな僕は、農業経営の収入源を増やしたいとの想いから、5年前にアスパラの栽培を開始した。そしてショッピングセンター内にある農産物直売所に出品。最初は苦労したものの、徐々に常連客から人気を集めるようになっていった。そんな折、僕の畑に後輩農家がやってきて……。

【前回の記事はこちら】
後輩農家がまさかの裏切り?農産物直売所で壮絶なバトルが勃発!【転生レベル29】
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農村という「異世界」のルールを少しずつ理解し、コツコツと努力を重ねた結果、地域の農家を束ねる部会のトップまで上り詰めた僕・平松ケン。「これでやっと苦労から解放されるはず…」と考えていたのだが、いざ部会長に就任してみるとそ…

どうやら後輩はアスパラの栽培に興味津々。正直ここまで一人で苦労してきただけに複雑な心境だったが、「頑張ってみたら?」と彼の背中を押した僕だった。そして2年後、僕が出荷する農産物直売所に、なんと後輩が育てたアスパラが登場することに!安値で販売されるアスパラを眺めながら僕はやるせない気持ちになるのだった。

人気が続くふるさと納税に着目!

ここ数年は収入の多角化を目指し、直売所やネット販売に取り組んできた僕・平松ケン。

ただ、どちらも柱に育つまではもう少し時間がかかりそうだ。そこで「もっと新しい販路はないだろうか?」と考えていたとき、ふと僕の頭に浮かんだのが「ふるさと納税」だった。

「今ではたくさんの人に制度が浸透しているし、CMもバンバン流れているもんな。もしかしたら大きな収入の柱になるかもしれないぞ!」

そうつぶやきながら、僕はネットで情報を集め始めた。


ふるさと納税は2008年に始まった制度である。全国各地の自治体に寄付をすると、住民税分を節税しつつ、返礼品として特産品を受け取れる。これが人気を集める一番の理由だ。

ただ、認知度が高まるにつれて人気が爆発。高額家電や旅行券など、地域を応援するという本来の趣旨から外れた返礼品も次々と登場し、総務省が規制強化に乗り出す事態に発展した。それでも、市場規模は今や1兆2000億円を超えるというから驚きだ。

ふるさと納税が始まってからだいぶ経ち、農家の中にもふるさと納税を上手に活用してかなり儲けている人もいるようだ。

「なるほど、制度としてはだいぶ成熟しているけど、農家が参入するにはまだチャンスがあるのかもしれないな」──そんな期待を胸に、僕は役所の窓口に足を運ぶことにした。

登録に前向きな自治体担当者

市役所の窓口を訪ねると、柔らかい笑顔で担当の職員が迎えてくれた。

「ふるさと納税についてお尋ねですか?」
「はい、うちの野菜を返礼品に登録できないかと思いまして」

実は、僕が暮らしている地域は、ふるさと納税の返礼品については“後発組”だと耳にしたことがある。

市長が長らく「返礼品は制度の趣旨に反する」と反対していたらしい。だが、そうしているうちに市税がどんどん他の自治体に流出し、ついに「背に腹は代えられない」とばかりに5年ほど前から返礼品に本腰を入れ始めた……というのが専らの噂だった。

「地元産の野菜を作る農家として返礼品に登録することを考えている」と思いを伝えると、「ぜひ前向きに検討してみてください」と笑顔で書類を渡された。

どうやら期待されているらしい。こちらとしても歓迎されるのは悪い気がしない。

(よし、これはいいタイミングかもしれないぞ)

僕はそう思いながら、担当者から必要な書類を受け取った。

申請受理までには長い道のりが!

「ところで、どんな流れで申請を進めていけばいいんですか?」

僕が肝心の手続きの流れについて質問し始めると、職員の声色が急にトーンダウンした。

「実は……。申請から許可が下りるまで、今は相当な時間がかかっておりまして」
「どれくらいですか?」
「数カ月は見込んでいただかないと。実は総務省での審査が厳しくなっていて……」

どうやら全国でふるさと納税に関する不正が明るみになったことが影響し、新規の登録までに相当な時間がかかるというのだ。
「え?そうなんですか? 僕、来年の春に収穫する野菜を出したいんですけど」
「うーん……今から申請しても、春には間に合わないかもしれません」

思わず言葉を失った。今はまだ9月である。早めに相談しておこうと足を運んだものの、まさか半年以上も待たされるなんて、想像すらしていなかった。

「……じゃあ、今から動いても、再来年になる可能性が高いってことですか?」
「はい。ただ、一度登録が完了すれば、その後は更新が比較的スムーズになりますんで」
(なんだそれ……。再来年?さすがに長すぎないか……?)
内心ぼやきながらも、せっかくの機会を逃すのは惜しい。結局、僕は腹をくくり、申請を進めることにした。

苦労の末に待っていたのは……

その後、数カ月かけてようやく総務省の許可が下りた。ただ、肝心の春野菜を出品できるタイミングは過ぎ、結局、次年度から取り組むことになった。

そして申請手続きを始めて1年半後、ようやくふるさと納税サイトへの掲載が決まったときは「やっとスタートラインに立てた!」と思わず胸が熱くなった。

返礼品として用意したのは「旬の野菜セット・春限定」。農産物直売所でも人気を集めていた春野菜を集めた詰め合わせボックスである。


「これはきっと喜んでもらえるはず」と期待は大きかった。

ところが――。

いざ蓋を開けてみると、1ヶ月の期間限定で掲載した僕の野菜セットは、まさかの注文ゼロ。

返礼品の申し込みがあったら、市役所から商品発送の依頼メールが届く予定になっていたのだが、一向にメールが届く気配がない。

そしてそのまま、初年度の掲載期間が終了したのである。

1年半の努力が水の泡になるとは思ってもいなかった。パソコン画面に映し出された「受付終了」を知らせるふるさと納税サイトの文面を見つめながら、僕はしばらく固まってしまった。


「あれだけ申請に苦労したのに。まさか、こんな結末が待っているとは……」

ふるさと制度自体の知名度はすごいものの、そこで成功するにはしっかりと戦略を練ることが必要なのだと痛感させられたのだった。

レベル30の獲得スキル「人気のふるさと納税だが、過度な期待は禁物!」

ふるさと納税は、いまや1兆円を超える巨大市場へと成長を遂げている。しかし、制度開始当初の「お得さ」は徐々に薄れており、本来の趣旨から逸脱した行為への規制も強まってきている。一方で、返礼品競争は熾烈を極めており、農家にとっては新たな販路となり得る可能性を秘めている反面、簡単に稼げる仕組みではなくなっているのが現実である。
自治体ごとの温度差や制度変更のリスクも考慮すると、過度な期待を抱くのは危険だろう。登録や申請といった事務的な労力を冷静に見積もりつつ、あくまで複数の販路の一つとして位置づけ、「程よい距離感」を保って向き合うことが肝要である。短期的な利益に翻弄されるのではなく、長期的な販売戦略の一部として、賢く活用する姿勢が大切だ。

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