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「単なる業主」から経営者へ脱皮 政策に左右されない農家たち

吉田 忠則

ライター:

連載企画:農業経営のヒント

「単なる業主」から経営者へ脱皮 政策に左右されない農家たち

ウクライナ戦争が3年前に始まってから、食料安全保障という言葉をよく耳にするようになった。最近では「令和の米騒動」でコメが足りなくなったことで、この問題を意識するようになった人も多いだろう。ではコメを作る当事者の農家はどこまで食料安保のことを意識しているだろうか。

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農政の最大のテーマになった食料安保

食料安保が農業政策の焦点になったことを象徴するのが、2024年に行われた食料・農業・農村基本法の改正だろう。第1章で「食料安全保障の確保」が基本理念として明記された。農政の最優先課題になったわけだ。

食料安保の確保が農政の柱になったと聞くと、「なぜそんな当然のことをいまになって法律に書き込んだのか?」と疑問に思う人もいるだろう。だが農政にはより大きな課題が以前からあった。農家の所得の向上だ。

1961年に旧農業基本法ができて以降、農政の主な目的は農家の収入を増やすことにあった。高度成長で工業やサービス業が発展したことで、農業で得ることのできる所得が相対的に見劣りするようになったからだ。

1999年に現行の基本法が制定されてからも、その問題意識は基本的には変わらなかった。度重なる農産物市場の解放で海外産との競争が激しくなり、安い輸入物と張り合える農業経営の実現に関心が向いた。

ウクライナ戦争で局面が変わった。世界有数の農業大国であるロシアとウクライナが戦争を始めたことで、農産物の大半を輸入に頼る日本の危うさが意識されるようになった。これが基本法改正の背景にある。

では農家にとって食料安保はどんな意味があるのだろうか。

農水省は食料安保を目標に掲げた

「まともな農家は怖くて設備投資しない」

「食料安保という言葉は好きじゃない」。ある稲作農家の取材でそう言われたことがある。目の前にある具体的な課題に対応しながら経営を発展させている彼にとって、食料安保を自分事として感じるのは難しいのだ。

もちろん彼も、食料生産が自分の役割であることは意識している。地域の田んぼが荒れるのを防ぐため、栽培で工夫を重ねながら田んぼを引き受けて農場を大きくしてきた。そこには経済活動にとどまらない公共性がある。

だが食料安保という「大上段」な言葉には、どこかしっくりこないニュアンスを感じてしまう。これは多くの農家に共通の感覚ではないだろうか。

「コメの増産」という言葉への受け止め方も、同じ文脈で考えることができる。本当に増産しようと思ったとき、手持ちの設備で足りないなら、乾燥貯蔵施設の増強をはじめとして新たな投資が必要になる可能性がある。

この点について別の農家にたずねると、「まともな農家なら、いまの状況では怖くて設備投資なんかできない」という答えが返ってきた。米価の先行きがどうなるかわからないからだ。下落を心配している農家も少なくない。

いまの米価は高すぎるし、今後再び足りなくなる懸念もあるのでコメを増産する。これは国民にとって必要な課題であって、個々の稲作農家の経営とは別の話だ。

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