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鈴木農水大臣が選んだ“需要に応じた生産”とは? 増産の夢は潰えたのか

連載企画:農業トレンド解析局

鈴木農水大臣が選んだ“需要に応じた生産”とは? 増産の夢は潰えたのか

石破政権の時代、当時の小泉大臣は「コメを増産する」ことを表明した。減反政策の終了後も生産調整という名で長らく続いたコメの減産政策から、大きく方針が転換されるということで、様々な不安と期待が生産者と消費者の間に広がった。しかし、その2カ月後に高市政権が発足、新たに就任した鈴木農水大臣は、「コメは増産ではなく需要に応じた生産」であるとした。
需要に応じた生産、は数十年続いた減反・生産調整政策と同じスローガンである。鈴木大臣のコメ政策は昔に戻る施策なのだろうか。ここで少し考えてみたい。

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需要に応じた生産の意味

鈴木大臣の就任時の会見におけるコメ政策に関する発言「需要に応じた生産」は、前大臣の示した「増産」方針から転換するものとして大きな話題となった。鈴木大臣はなぜ、「増産」の方針を引き継がなかったのだろうか。
そもそも米価は、重要と供給のバランスで大きく変化する。令和のコメ騒動の前までは、だいたいの需要と、だいたいの供給の見込みを元に、コメの集荷・卸売・販売を行う流通事業者側の感覚的なものをベースに「なんとなくの相場」が、農協の概算金(生産者からコメを引き取る時の前払い金)や日本各地で行われる取引会の売買金額、早場米の相場状況などから形成されていく傾向にあった。明確な価格指標があるわけでもないため、大幅に余り“そう”というだけで相場が暴落したり、不足“しそう”というだけで価格が高騰したりする傾向が強いのが、コメの相場であると言える。そして、年に一作の作物であることから、出来秋に決まった相場が1年近く続いていくという特徴がある。

政府がずっと生産調整を行ってきた理由もここにある。大きく余ることも不足することも無いように生産量を調整することが、米価の下落防止と安定(高騰も防止)につながるためだ。
鈴木大臣の「需要に応じた生産」の発言の真意もここにある。「増産」を前提にした場合、供給量が需要量を大きく上回ると米価が大暴落するリスクがある。そして大暴落した結果、翌年の生産量が減少することで、コメが不足する事態になった場合、今度は米価が大高騰するリスクが出てくる。「増産」に対して「減産」する意味で需要に応じた生産という方針にしたわけではなく、コメの供給の安定、米価の安定を狙っていく目的での需要に応じた生産ということだろう。実際に、需要が高まれば増産もありえること、輸出に力を入れることで需要を高めていきたい旨は会見でも大臣が言及している。

小泉前大臣との考え方の違い

鈴木大臣の供給量の安定化・米価安定化を優先する政策は、生産者のリスクを考慮したものであり、また、3~5年後程度の先を見越した政策だと言える。令和7年産の新米の米価は、令和のコメ騒動の余波をうけ、事前の集荷競争が激化した影響で高止まりとなっている。この米価対策としては、物価高対策の施策の一環として重点支援地域交付金を活用して「お米券」を配るような対応が発表されているが、これは農業政策ではなく社会福祉的な政策であり、予算も農水省の予算ではない。つまり、鈴木大臣は「当面の米価高騰対策は社会福祉的にお米券で対応しつつ、需要に応じたコメ生産をしっかり行うことで生産者の米価耐暴落のリスクを減らしつつ、コメの安定供給と価格安定を狙う」という考え方であると言える。

前大臣は、消費者向きであったと評されることが多い。実際に備蓄米の随意契約での放出時に「(コメ価格高騰による)消費者のコメ離れを防ぐ」という理由を説明していたように、コメ政策については消費者側のメリットを意識していたことは間違いないだろう。その背景には、その前の大臣が失言によって辞任したこと、参議院選挙を控えているという、国民の支持を獲得しないといけないタイミングであったことが挙げられる。そのため、対処療法的な短期的な目線での施策(消費者米価が5kgで4000円を超えていたから、4000円代を切らないといけない、など)が多かった。
よって、前大臣と比べた場合、鈴木大臣の方が長期的な目線で政策を考えていると言える。これは鈴木大臣が農業分野の専門性が高いこと(元農水省の役人であり、副大臣なども務めてきた経験がある)、政権運営が安定していること(高市政権が発足して間がなく、支持率も高めであり、今後大きな国政選挙が見えていないこと)などが背景にあると考えられる。

コメの増産はするべき?

しかし、1年たたない間に3回も大臣が変わり、そのたびに政策が変わってきたことから、生産者として「増産していいのか分からない」といった混乱があるのも事実であるし、「結局、国はどうしたいの?」と思う方も多いだろう。鈴木大臣の今回のコメ施策は、米価暴落のリスクを削減しつつ、長期的な需要を輸出でつくっていく、という言わば王道な政策である。

だからこそ、長期的なコメ政策のビジョンが見えてこなければ「前と何が違うのか、変わっていくのか」を生産者や消費者は理解できないだろう。需要に応じた生産という基本的なアプローチだけではなく、10年後、20年後の日本のコメ政策のビジョン、稲作のあるべき姿を考え、そこに至るまでのプロセスをどのようにしていくのか、逆算したうえで中期・短期施策を打ち出してほしい。長期的には高齢の小規模生産者の離農が見込まれる中、どのようにコメの生産基盤を維持していくのか、食料安全保障を担保していくのか、など考えるべき農政課題は山積である。鈴木大臣の手腕に大きく期待したい。

また、農業経営者、稲作経営者においては「政策に経営が左右されない」ような経営体制構築が肝となるだろう。政権や大臣が変わるたびに変更される政策に経営が左右されてしまうことはリスク以外の何物でもない。政策は自社の経営戦略と一致する場合に上手に活用しつつ、農業経営体として自立自走できることが重要である。

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