油かすとは?

>かすうどん
油かすというと、天ぷらをしたときにできる「天かす」や、大阪名物「かすうどん」に入っている牛ホルモンを揚げた「油かす」を想像するかもしれません。しかし、肥料に用いる油かすはこれらとは違います。農業で用いる「油かす」は、植物の種子や実から油を取るときに残った「絞りかす」を指します。
食品としての油かすの歴史
油かすは、ナタネやダイズなどの植物種子から油を搾った残渣です。例えばナタネ油かすはナタネ種子から油を搾った残り、ダイズ油かすはダイズ油を搾った残りかすです。油を製造する際に発生する副産物と言えます。ちなみに現代の工業的製法では油を効率よく取るため、圧搾するだけでなく、ヘキサンなどの溶剤を使い油を抽出する手法が多く取られています。
油かすは灯り用などとして油を使うようになった江戸時代から、盛んに使われるようになりました。それまで一般的に肥料に用いられてきた下肥などとは違って、油かすはお金を出して購入する肥料として干鰯、〆粕などと並び「金肥」と呼ばれました。明治時代には国内のみならず国外からもダイズ油かすを輸入して肥料にしていました。油かすは科学技術の発展により化学肥料が生み出されるまで、日本では大変重要な肥料だったのです。

油かすの種類
油かすと言えば、ナタネやダイズ由来のものが一般的ですが、実はさまざまな植物から作られます。それぞれの特徴について見ていきましょう。
ナタネ油かす
肥料として最も一般的に流通しています。サラダ油やキャノーラ油の原料となるナタネ種子にはタンパク質やミネラル、ビタミンB群などの成分が含まれています。肥料の効果が出るまでには油かすの中でも時間がかかるほうです。
ダイズ油かす
ダイズ油はサラダ油、マーガリンやマヨネーズ、また食品以外の工業製品などにも用いられています。ダイズ油かすの多くは動物の飼料や醤油の原料などに使われるため、肥料としての流通量は少なめです。油かすの中では効き目が早いほうです。
また、これらよりも流通量は少なくなりますが、その他の種類の油かすもあります。
綿実油かす
ワタの種からできた油かすで、ナタネ油かすと同程度の肥料成分を含みます。ナタネ油かすとダイズ油かすの中間的な性質を持ちます。
ゴマ油かす
値段は高いですが、ゴマの良い香りがするので好む人もいます。腐熟させて花卉園芸作物の肥料としても使われます。
ツバキ油かす
含有成分のサポニンに魚毒性があるので使用には水路や河川に流出しないように注意が必要です。また、農薬としての登録はないので防除を目的に使用することは禁止されています。
油かすは肥料として使える

植物の種子や実というのは植物が子孫を残すために特に豊富な栄養を蓄える場所です。そのため油を搾った後のかすにもたくさんの栄養分が入っています。これらが作物栽培にとって非常に良い肥料になります。資源を無駄なく利用するという点は地球環境保全の観点からも評価できるでしょう。
油かすの肥料成分
油かすにはさまざまな栄養素が含まれていますが、各種油かすに共通して多い成分がタンパク質です。タンパク質はアミノ酸の集合です。アミノ酸には植物の成長に必須の「窒素」が必ず含まれています。これが油かすの最も重要な肥料成分です。油かすの窒素成分は5〜7%と、有機肥料ながら化成肥料なみにたくさん入っています。

養分バランスの特徴
植物に肥料をあげるときは養分のバランスが肝心です。肥料の三大要素は「窒素・リン酸・カリ」ですが、油かすではそのバランス比率が窒素が約80%、リン酸とカリは約10〜20%となっており窒素の割合が非常に大きくなっています。
窒素は葉や茎の成長を促す「葉肥」、リン酸は花や実の形成に寄与する「実肥」、カリは根の伸長や体を強くする「根肥」と呼ばれます。油かすには多くの窒素分が含まれるため「葉肥」として効果を発揮し、葉や茎の成長を良くします。

油かす肥料のやり過ぎに注意
しかし、葉や茎が伸び過ぎると困ることもあります。その一つがつるボケです。これは窒素肥料が多過ぎて葉ばかりが茂り、実やイモの生育が悪くなる現象です。また、窒素が多過ぎると栄養過多となり、植物体が軟弱になります。そのため害虫による被害が増えたり、病気にかかりやすくなることがあります。有機肥料だからいくらあげてもいいというわけではありません。油かすだけを与えることは避け、他の肥料と併用しながらバランスよく適正な量を与えることが大切です。
油かす肥料の使い方と施用時期
有機肥料は化学肥料と違ってすぐには効き目が出ません。その理由は中に入っている物質の形によります。
植物が吸収しやすい栄養というのは水に溶けている無機イオンです。例えば硝酸イオンやリン酸イオンなどがあります。化学肥料の肥料分は水に溶けやすい形で入っているため、あげたらすぐに植物が吸収します。これを即効性肥料といいます。
一方で、有機肥料に含まれる肥料分は有機物の形で含まれているため、そのままでは分子量が大きすぎて、植物の根から吸収することができません。
そこで活躍するのが土の中の微生物です。微生物が有機肥料の中の有機物を分解して無機化することで、ようやく植物が吸収できるようになります。そのため効き目が出るのに時間がかかり、遅効性肥料と呼ばれます。ちなみに化成肥料の中には効き目をゆっくりにした緩効性のものもありますし、比較的早く効果の出る有機肥料もあるのであくまで傾向です。

さて、油かすを土の中に入れるとタンパク質やアミノ酸などの有機物がさっそく微生物によって分解されていきます。有機物に含まれている有機態窒素はまずアンモニア態窒素に分解されます。アンモニア態窒素は肥料として作物にも吸収されますが、量が多いとアンモニアガスの影響で発芽不良や根痛みを起こします。そのため施肥後すぐに植え付けるのはやめましょう。
さらに分解が進むと、アンモニア態窒素は硝酸態窒素になります。硝酸態窒素は多くの作物が吸収しやすい形なので、根からどんどん吸われ肥料としての効果を発揮します。この時期になれば、植え付けても大丈夫です。

また、油かすは分解の途中で有機酸を発生します。有機酸には作物の生育を良好にしたり、土壌中の不溶解養分を可溶性にする働きがあります。しかし、一度に多量に発生すると土壌が酸性に傾き植物の生育を阻害します。ダイズ油かすなら2週間、ナタネ油かすなら3週間ほどで、土の中の急激な変化は落ち着いてきます。施肥後しっかり期間を置いてから植え付けることが大切です。
元肥としての使い方
元肥として使う場合は全面施肥で混和するか、間土や覆土をします。一度に多量に施すと障害が出る恐れがあるため、適正量を守ります。また成分バランスを考え、骨粉や草木灰などリン酸、カリが入った肥料を一緒に施肥する必要があります。生油かすの場合は植え付けの2〜3週間前までに施肥しておきましょう。
注意点
✅硝安や硝酸石灰などの硝酸性窒素を含む肥料と一緒に使わないこと。硝酸性窒素が硝酸還元菌によって還元されて、窒素ガスになって消失します
✅ダイズ油かすは尿素と配合しないこと。ダイズ油かすに含まれるウレアーゼにより尿素が分解されてアンモニアガスになって揮散します
追肥としての使い方
追肥する際は分解されるのに時間がかかることを考慮して、化成肥料よりも早めに施します。また、分解の際に発生するガスが根に当たらないように、土壌に混和したり覆土したりします。後述しますが、追肥の場合は生油かすよりも発酵油かすを使うほうが肥料やけの心配も少ないのでおすすめです。
油かす肥料の種類と施肥効果
油かすには大きく分けて3つの種類があります。
生油かす
油を取った後の油かす、ほぼそのままの状態です。施肥直後はガスの発生で発芽不良や生理障害がでることがあります。分解速度が遅いので、ナタネ油かすなら植え付け3週間前までには施肥しましょう。冬場などすぐに効果が出なくて良い場合は追肥にも使えますが、一般的には元肥として用います。
発酵油かす

油かすを微生物の力であらかじめ発酵させた肥料です。生より匂いが少なく、土に入れてからの分解も早いので肥効が出やすく元肥にも追肥にも使えます。ガス障害などもないので初心者にも使いやすい肥料です。市販の発酵油かすは骨粉など他の資材を混ぜて栄養バランスを良くしたものが多く販売されています。ペレット状になっており、粒が大きいほどゆっくり、小さいほど早く効きます。施肥してからすぐに植え付け可能です。
ぼかし肥料
油かすに魚かす、骨粉、米ヌカ、土などを混ぜて発酵させた肥料です。市販されているものもありますが、自作する人も多いです。有機質がよく分解されているので肥効が早く現れます。また作るときに配合を変えることで成分バランスを変えたり、濃さを変えたりできます。元肥にも追肥にも使えます。

油かすを使った液肥の作り方
油かす1リットルに対し水を10L入れて発酵させます。1週間に数回かき混ぜながら、暖かい時期なら1ヶ月ほど、寒い時期なら2〜3ヶ月で液肥の完成です。5〜10倍程度に薄めて追肥として利用します。発酵する際にガスが発生するので、少量をペットボトルなどで作る場合は蓋を緩めておき、時々開けてガス抜きが必要です。爆発すると大変なことになります。においはかなり臭いですが、発酵しているので効き目が早くでます。
農業現場で油かすを使用する際の注意点
臭いの発生
動物性の有機肥料に比べれば臭いは少ない方です。ただ、液肥やぼかし肥料を作るときは臭いが出ます。気になる場合は臭いの少ない発酵油かすや市販のボカシ肥料を使うといいでしょう。
害獣・害虫の誘引
油かすはタンパク質がたくさん含まれているため、飼料としても利用されています。つまり、動物にとって良い餌なので害獣がよってくる可能性も大です。動物に食われないようにするには、油かすを土の表面にかためて置いたりせず、しっかりと土に混ぜ合わせることが大切です。また、肥料を開けっ放しで置いておくとハエがわいたり、ネズミに食われることもあります。袋を密閉したり、蓋付きの容器に入れて保管しましょう。
肥料焼け
一度に大量に施用すると肥料焼けを起こすこともあります。特に生油かすを施用するときは適切な量を守り、一箇所に固めて入れずに土によく混和しましょう。
劣化による性質変化
油かす肥料が水に濡れてしまったり、袋の口を開けて湿度の高い状態で放置しておくと吸水して性質が変わってしまうことがあります。保管する際は袋の口を閉じて、乾燥した場所で保管しましょう。
作物ごとの油かす肥料の施用ポイント
水田に施用する場合
水田全層に施して土壌とよく混ぜ、なるべく還元層に分布するようにします。追肥をする時は化成肥料よりも早く施肥します。
畑に施用する場合
間土や覆土をするか、土壌とよく混和します。実を収穫する作物の場合はつるボケになる危険があるのでやり過ぎは禁物です。また、根を収穫する作物の場合は、未熟な油かすがあたると根に障害が出る可能性があるので、十分に分解されてから植え付けましょう。
ハウスで施用する場合
畑と同じように施肥しますが、ハウス特有の注意点として、高温多湿下で急激に有機質が分解されることがあります。分解が一気に進むとガス障害が出やすくなるので、施肥後のハウス内の温度や換気に十分気をつけましょう。
油かす肥料に関するよくある質問
Q. 生油かすと発酵油かす、どちらを使ったらいいですか?
A. すぐに植え付けたいなら発酵油かすが良いでしょう。植え付けまで2〜3週間あるなら生油かすでも大丈夫です。発酵油かすには骨粉や草木灰を混ぜて成分バランスを整えているものが多く使いやすいです。
Q.ぼかし肥料は自分で作れますか?
A. 作れます。下記の記事で詳しく作り方を紹介していますので、参考にしてみてください。
Q.多くの量を施肥した分だけ、肥料効果が得られますか?
過剰に使用することは、土壌の栄養過多により植物が肥料焼けを起こすことがあり、逆効果になる場合があります。分解過程で発生するガスや臭気が土壌環境に影響を与えることもあるため、適量を守るようにしてください。また、栽培にたくさんの肥料が必要な場合でも、いっぺんに施すと雨などで徐々に流れ出てしまうので、生育に合わせて追肥をするようにしましょう。
まとめ
古くから食材や肥料として幅広く利用されてきた油かす。肥料としてはチッ素、リン酸、カリの豊富な肥料成分を含み、土壌改良や作物の生育促進に大いに役立ちます。本記事で解説したポイントを踏まえつつ、油かすをぜひ家庭菜園や農業に取り入れてみてください。

















