保田(やすだ)ボカシの効果
化成肥料だけでは土がおかしくなった
農業をはじめた頃の筆者は、「オール8」などの安い化成肥料を主体に施肥をしてきました。2年間はたいした病気もなく「農業って簡単かも!?」と勘違いするほどいいものがとれました。ところが、3年目からは毎年新顔の病気が発生するようになり、殺菌剤なしにはうまく野菜が作れなくなってしまったのです。
自分のせいで畑の土がおかしくなってしまったことがとてもショックでした。考えてみると、その畑は長年耕作放棄された土地でした。もともとは、雑草のおかげで有機物が豊富にあり、それらを分解するための微生物もたくさん住みついていたはず。それらの「貯金」を食い潰してしまったのではないかと考え、有機物を主体にした施肥に切り替えました。
ボカシ肥とは?
筆者が、どの作物にも元肥として使っているのが「ボカシ肥」という有機質肥料です。
聞き慣れない言葉かもしれませんが、その名の通り、微生物の力を借りて肥料の悪影響をぼかす(和らげる)ことで、植物の根を傷めることなく肥料分を吸収させる資材です。生育や品質に大きな影響を与えるチッソを、微生物の力でアミノ酸化することで、植物を健康に育てることができます。
ボカシ肥は、様々な有機物を混ぜて作る発酵肥料です。肥効の異なる有機物が合わさっているおかげで、植物の成長と同じペースで、長くゆっくりと肥料が効きます。化成肥料を主体にしていた時と比べると、チッソの量を3分の2ほどに減らしているのに、栽培期間が3〜4カ月のものであれば元肥のみで事足ります。
肥料効果だけはありません。微生物が増えることで土が団粒化して、ホクホクになります。特にマルチ栽培では効果が明確です。
また、土壌伝染系の病気も明らかに減りました。菌の拮抗(きっこう)作用というのでしょうか。マルチの隙間からキノコが顔を出すたびに、菌が働いているんだなぁ、と嬉しくなります。
失敗なし、切り返しなしの「保田ボカシ」とは?
筆者が作っているボカシ肥は「保田ボカシ」というものです。神戸大学名誉教授の保田茂(やすだ・しげる)氏が考案したもので、誰でも簡単に作れる方法を考えて開発されました。
ボカシ肥は伝統的な手作り発酵肥料ですが、配合が難しかったり、切り返しが大変だったりと、熟練の技術が必要なものだと敬遠していました。
その点、保田ボカシは切り返しがいらないうえ、手順もとてもシンプルでマニュアル化されており、誰でも失敗なく作ることができます。
実際に作ってみよう!
今回、一緒に作業するのは、「ボカシ肥を作ってみたんですけど、半分くらい失敗した」と嘆く、農業を始めて間もない高江直哉(たかえ・なおや)さん(能勢町地域おこし協力隊)。詳しく話を聞くと、彼がやっていたのは高い技術と応用力が必要な、上級者向けの作り方でした。そこで、筆者がいつもやっている簡単な方法で一緒に作ってみることにしました。
材料
材料の配合割合は以下の通りです(単位は容量比)。
米ぬか:6
油かす:3
魚粉:2
有機石灰:1
水:2
容量比なのでスケールは不要。ひしゃくやボウルなど、作りたい量に応じて計量道具を用意してください。
「え!? 発酵促進剤とかいらないんですか? 納豆も、ヨーグルトも……」と材料のシンプルさに驚く高江さん。保田ボカシの場合は、米ぬかの乳酸菌を利用するので発酵促進剤は必要ありません。これらの材料を乳酸発酵(低温発酵)させ、乳酸菌を中心とした多種類の微生物を殖やします。
混ぜる際には、トロ舟(セメントを砂や砂利と混ぜてコンクリートを作る時などに使われる容器)や、セメント用の練りくわがあれば便利ですが、家にあるものを使えばよいと思います。
作り方
では、実際に作ってみましょう。
まずは、材料をボウルなどで計量して、トロ舟に移します。
左から米ぬか、油かす、魚粉、有機石灰。すべて同じ容器にいれます。
水を加える前に、すべての材料を混ぜ合わせます。水を加えると米ぬかが固まってダマになりやすいので、この時点でちゃんとムラなく混ぜ合わせておくのがコツです。今回は少量なので道具は使いませんでした。
材料がムラなく混ざったら、水を投入。うどんやそばをつくるときのように、水分量を均一にすること、ダマをつくらないことが大事で、わが家では2回にわけて水を入れています。水を入れる前に材料がちゃんと混ざっていれば一生懸命かき混ぜる必要はありません。材料同士が水分を受け渡し合うことで、じわじわと水が浸透していきます。
水を混ぜたあとの材料はギュッと握ると、上の写真のような状態になります。指で突くと、崩れるくらいの固さ。全体がこのような水分状態になれば完成です。
できたものを、使い古しの肥料袋などに詰めます。保田ボカシは空気を遮断した状態で「嫌気性発酵」させるため、このときにきっちりと空気を抜いて、ガムテープ等でしっかり密閉します。ここがとても大事です。袋のどこかが破れていたり、空気抜きできていなかったりすると、その部分だけに腐敗臭のする白い塊ができてしまいます(そこを取り除けば使えないこともありません)。
袋の状態で倉庫などに積み重ねておき、夏なら2週間、冬なら1カ月ほどで完成します。切り返しは不要で、ただ待つだけ。倉庫においても、虫なんかも発生しません。
時期はあくまでも目安です。私は、心地の良い甘い香りから、みそのような発酵臭になってくれば使いどきだと判断しています。
ただし、時間がない場合は、甘い香りの時でも使います。未発酵だと判断する人もいますが、これまでに野菜が変になったことはありません。
使い方
畝内施肥がオススメ
完成したボカシ肥は、元肥の場合は畝内に施肥しています。畝に溝を切り、まずは堆肥を投入。その上にボカシをまぶして、土で埋めます。
保田ボカシの肥料成分は、チッソ全量が約2.7パーセント(うちアンモニア態チッソ0.07パーセント)と低めです。他の成分も化成肥料よりもずいぶん少なく、それに合わせて全層施肥(畑全体に満遍なくまくこと)しようとするとたくさんの量をまかなくてはなりません。
無駄のない畝内施肥なら、感覚的には3分の2に減らしても問題がないどころか、それ以上に効くような気がしています。
追肥も化成肥料と混ぜて
レタスやリーフレタスなどの数カ月で収穫できる葉菜類はボカシ肥だけ。液肥などの葉面散布をせずとも、ボリュームのあるものがとれます。キクやアスターなどの切り花も同様です。
ナスやピーマンなどの果菜類はさすがに追肥が必要ですが、その際もボカシ肥と化成肥料を混ぜたものをまきます。化成肥料単体だけの時よりも、必要な追肥回数は減りました。
モグラとカラスに注意
唯一の難点は、畑にモグラが増えることです。気のせいかな、と思っていましたが、他の人からもそんな声をたびたび聞きます。土壌生物が増えるとミミズも増え、それを餌にするモグラもやってきます。畑が健康になった証拠だと黙認しています。
また、わが家では、施肥直後にボカシ肥の香りにひかれてカラスが集まってきたことがあります。マルチ栽培の場合は、マルチを破ってまで食べようとしてきます。マルチが破れると、そこから草が生えます。わが家での被害はボカシ肥をまいたその日だけ。カラスが集まらない日にまいてしまい、さっさと隠すようにしています。
この先秋から真冬までは雑菌の繁殖も少ないうえ、農作業も落ち着くので、ボカシ肥を作りやすい時期です。ボカシ肥に必要な米ぬかも、秋の新米の季節を過ぎると農家やコイン精米機からたくさんもらうことができます。
一度は自分でやってみたい手作り発酵肥料。ぜひ、保田ボカシから始めてみてください。