22年分は実費で21年分は試算値
肥料の国際相場は、中国が2021年に化学肥料の輸出を制限したことで大きく上がり始め、ウクライナ危機で一気に上昇した。これを受け、全国農業協同組合連合会(JA全農)は6~10月に販売する秋肥の価格を、2021年11月~22年5月の春肥に比べて最大で9割強引き上げた。
農水省はこうした状況を踏まえ、化学肥料を減らす取り組みを行う農業者を主な対象に、肥料の購入費の増加分の7割を財政負担で補填することを決めた。国際相場が高騰したのは主に化学肥料だが、この支援策は農家が使っているのが有機肥料か化学肥料かは問わず、化学肥料を使っていない有機農家も対象になる。
複雑なのは、21年と22年を比べた肥料の購入費の差額の計算方法だ。例えば、22年の秋肥の購入金額は農家ごとの実費を計算に使う。注文票や領収書など、金額を確認できる書類が必要になる。
これに対し、21年分は実際に払った金額ではなく、農水省が発表している農業物価統計を使って算出する。具体的には22年の肥料価格を前年同期と比べた統計上の上昇率をもとに、農家ごとに21年の購入費を試算する。これが21年の肥料コストの「暫定値」になる。
計算式にはまだ先があり、この暫定値を0.9で割った数字を21年の購入費とみなす。そして22年との差額を計算し、その7割を補填する。
内容をイメージしやすくするため、仮定の数値で考えてみよう。
もし22年の実際の肥料費が150円で、農水省の統計による価格上昇率が1.5だったとすると、暫定値は100円になる。これを0.9で割った金額は約111円。そして150円との差額、つまりコストの増加分は約39円。その7割である約27円が補塡額になる。
ここまででわかるのは、21年の実際の購入費が111円より多ければ、その分、メリットが大きいという点だ。例えば、実際の購入費が130円だった場合、増加分は20円で、その7割は14円になる。にもかかわらずこの制度で受け取るのは、試算額である27円。
肥料を使う量を減らすなどして合理化に努め、コストの増加率を平均よりも低く抑えれば、制度の恩恵はより大きくなるわけだ。
続いて申請手続きを説明しよう。申請は個別の農家がやるのではなく、単位農協など農業者のグループや肥料販売店などを通すことが必要。農家は注文票や領収書と併せ、化学肥料の削減計画書を農協などに提出する。農協などを通すのは、まとめて申請してもらうことで、行政の事務を簡素化するのが目的だ。
申請の受付は、都道府県ごとの準備が整い次第、10月以降に実施。年内に農家に支援金を交付する。
22年11月から購入する春肥についても手続きは同様で、23年2月までに申請を受け付けた分は、3月中に支援金を交付する。
迅速な交付を優先して制度設計
今回の支援策には二つのポイントがある。一つは、できるだけ迅速に交付できるように制度設計した点だ。21年の購入費を農家ごとの実額ではなく、農水省の統計を使って推計する仕組みしたのはそのためだ。農協などの団体からまとめて申請書を提出してもらうようにしたのもその一環。
もう一つは、肥料を使う量を農家が減らすよう促している点だ。その仕組みは、上記の試算で見た通り。21年の購入費は暫定値を0.9で割って算出するが、農水省がこれを「使用量低減率」という言葉で説明していることからも制度の意図がわかる。
背景にあるのが、21年5月にまとめた政策指針「みどりの食料システム戦略」。環境調和型の農業を実現するため、農薬や化学肥料の削減を目指す方針を掲げており、この政策にそうように制度を設計した。
農家の中には、肥料の高騰対策とみどりの戦略をからめることに違和感を抱いている人もいる。この点について農水省は「これをきっかけに、化学肥料を減らすという方向へ行動変容を促すのが目的」と説明している。