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エネルギー安全保障対策、みどり戦略後押しへ。バイオマス活用80%目標

エネルギー安全保障対策、みどり戦略後押しへ。バイオマス活用80%目標

2022年9月6日、新たなバイオマス活用推進基本計画(第3次)が閣議決定された。今回の基本計画は、2021年5月に策定された「みどりの食料システム戦略」でも掲げられた、資材・エネルギー調達における脱炭素化や環境負荷軽減の実現を後押しする内容だ。今回の新たな目標として、下水汚泥の50%を肥料等に再利用する目標も示された。

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バイオマスのマーケット規模は5年で1800億円拡大

バイオマスとは、生物資源(bio)の量(mass)を表す言葉で、再生可能な生物由来の有機性資源(石油等の化石燃料を除く)をさす。バイオエタノールの原料となるトウモロコシやサトウキビ、たい肥の原料となる家畜のふん尿、家畜の飼料や敷料になる稲わらなどはすべてバイオマスで、農業と切り離せないものになっている。

バイオマスの種類

バイオマスにはさまざまな種類がある

政府はこのバイオマスの活用推進のため、「バイオマス活用推進基本計画」を約5年ごとに検討・変更してきた。今回発表されたのは第3次基本計画。
この基本計画の中では前回(2016年)の第2次基本計画の検証もなされ、バイオマスの活用は2016年からの5年間で約1800億円規模のマーケットの拡大が認められるとしている。この背景には、2015年の国連サミットで採択されたSDGs(持続可能な開発目標)などの影響で、再生可能エネルギーや資源の循環が社会課題として注目されている現状がある。報告では、2016年のバイオマス産業の市場規模は経済波及効果を含め約3500億円だったが、現在は約5300億円まで拡大している。

2030年目標は利用率80%。バイオマスのフル活用へ

今回の第3次基本計画では、「農山漁村だけでなく都市部も含めた地域主体のバイオマスの総合的な利用の推進、製品・エネルギー産業の市場のうち、一定のシェアを国産バイオマス産業による獲得を目指す」としており、これまで活用してこなかった街路樹の剪定(せんてい)枝など、都市で発生するバイオマスの利用も進める。具体的な目標として、2030年までにバイオマスの利用率を年間産出量の約80%とすることを掲げた。
また、学術分野や産業界と連携し、製品・エネルギー産業のうち国産バイオマス関連産業で市場シェアを現在の1%から2倍の2%に伸長させるとしている。

肥料不足も視野に? 下水汚泥からの資源回収

下水処理場

下水汚泥も更なる活用へ

中でも、都市で多く発生するバイオマスである下水汚泥の活用について、肥料化やリン回収の推進の目標が掲げられた。今回の基本計画で新規指標とした「下水道バイオマスリサイクル率」(下水汚泥中の有機物をエネルギーや緑農地に利用する割合)については、現在の35%から2030年までに50%にすることとした。
現在、下水汚泥の緑農地での利用への期待が高まっていることから、地域の実情に応じて利用者の理解の醸成や需要のマッチング支援を行う。
また、下水汚泥に限らずバイオマスを無駄なく利用するため、バイオガスの製造過程で発生するバイオ液肥などの副産物を有効活用するなど、バイオマスの循環利用のための技術の確立も目指す。

都市部のバイオマスの活用へ

バイオマスの活用を全国に広げるため全都道府県でバイオマス活用推進計画を策定することも目標としている。特に下水汚泥の発生量が多い都市部での取り組みを進めることが狙いだ。
一方で、バイオマスは地域によって発生するものの種類や流通形態、利用可能な用途等が異なっているため、「それぞれの特性に応じて、素材、熱、電気、燃料等への変換技術を活用し、より経済的な価値の高い製品等を生み出す高度利用を推進する」としている。

生ごみ

食品残さもバイオマスの一種

みどり戦略とのリンクは?

ウクライナ情勢や円高など、食料やエネルギーの安全保障をめぐる課題が山積する中、バイオマスの活用は課題解決の一助となるのか。農林水産業や地球環境の持続可能性への社会的な関心が高まる中、持続的に発展することができる社会の実現が必要とされている。
昨年(2021年)5月に策定された「みどりの食料システム戦略」では、資材・エネルギー調達における脱炭素化や環境負荷軽減のためのバイオマス活用を推進している。これを受けて今回の基本計画では、「農林水産業の生産力の向上と持続性の両立や、地域資源であるバイオマスの循環利用・最大活用を図ることが必要である」とした。
今後、都市部も含めたバイオマスのフル活用と循環によって、これまで化石資源由来だったさまざまな資材をバイオマス由来のものに代替していくことが期待される。

新たな「バイオマス活用推進基本計画」の閣議決定について(農林水産省)

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