小さな畑でも使える「スポット緑肥」の魅力とは?
緑肥とは、出荷目的ではない植物を畑で育てて土にすき込んで肥料にすることです。大麦やソルゴー、クローバーなど、イネ科やマメ科植物などが緑肥として効果が高いため、よく使われており、専用の品種も各種苗会社から販売されています。
堆肥散布よりずっとラクに有機物補給ができる
肥料としての効果もさることながら、畑の有機物補給が手軽にできる点も魅力です。
畑に入れる有機物として代表的なのが堆肥です。しかし堆肥を何百キロもまくのは重労働なうえ、運搬車やマニュアスプレッダーといった機械も欲しいところ。一方、緑肥なら片手で持てる数キロ程度のタネをまくだけです。
筆者のまわりでも、高齢農家が堆肥から緑肥へ切り替えています。
隙間(すきま)にまくだけで、明らかに排水性がよくなった
筆者は耕作面積50アールの小規模多品目経営の兼業農家です。小さな畑をできるだけ休ませず、収穫したらすぐに定植していくため、「畑1枚、すべて緑肥」ということはもったいなくてできません。そこで、緑肥を部分的に使う「スポット緑肥」の方法をとっています。
作物を栽培しながら、ウネ間やアゼなどの「畑の隙間」に緑肥のタネをまいている程度ですが、それでもなかなかの効果を感じています。
筆者の畑でいちばんの問題は、排水性の悪さです。元が水田の粘土質土壌のうえ、畑自体も水をためやすい構造になっています。雨が降ると、周囲の山から水が流れ込むようになっており、畑としては使いにくく、苦労してきました。3日も大雨が続くとウネの肩まで水没することがよくありましたが、緑肥を使うようになってからは水没はほとんどしないうえ、雨後も3日ほどで耕すことができるくらいに乾くようになりました。
水路を掘ったり、もみ殻をまいたりといろいろなことをやってきましたが、緑肥を使い始めてから排水性がもう1段階上がった印象です。
わが家のスポット緑肥の使い方と効果
筆者の畑では、3種類の緑肥のタネをまいています。それぞれの使い方と、感じている効果を紹介します。
ウネ間にマルチ大麦
ナスやピーマンなどの果菜類や、スティックブロッコリー、サツマイモ、カボチャ、切り花など、夏から秋にかけて収穫する品目には、ウネ間に「てまいらず」という緑肥向きの大麦をまいています。
この大麦は、生育旺盛で横に広がるうえ、草丈が30センチ以内なので作物の邪魔にならないし、ある程度大きくなると勝手に枯れるのが特徴です。つまり、わざわざ刈り払わなくてもよいのです。
うまく生えてくれれば、ウネ間の草取りや草刈りは秋までほとんど必要ありません。ウネ間の草刈りはマルチを切らないように神経を使うので、ずいぶんラクになりました。
また、大麦がウネ間にある余分な水分を吸ってくれるのか、それとも根っこが土を耕してくれているおかげか、ウネ間に水がたまりにくくなりました。倒れて枯れた大麦の下では、真夏でもミミズやダンゴムシが活動しています。こういう小さな生き物が畑を耕してくれているおかげもあるかもしれません。
てまいらずは、中間地であるわが家では4〜6月が播種適期。耕してウネを立て、マルチを張ると同時に、てまいらずを肥料をまくようにバラまいて、レーキなどで軽く覆土します。まく量は、ウネ間だけなので少なめで、5アールで1キロほど。
ただし、発芽してからしばらくは湿害になりやすいので、天候の具合をみて播種するか、大麦がちゃんと育つくらいの排水性を確保することが必要です。
極端に排水性が悪いところにはセスバニア
大麦すら育ちそうにない、じゅくじゅくの畑には「セスバニア・ロストラータ」をまいています。
あまりなじみのない植物ですが、草丈が3メートルにもなる大きなマメ科植物です。草丈が大きい分、根っこが1メートル以上も深く地中に入るうえ、それなりに耐湿性もあるため、湿害に困る畑にはうってつけの緑肥です。わが家では、足跡にうっすら水がたまる場所にこのセスバニアをスポット的にまいていますが、そんなところでもちゃんと発芽し、それなりに生育します。
高温が好きなので、播種適期は6~7月。うまく育てば8〜9月に2.5メートルになるので、まだ茎が軟らかいそのときに、ハンマーナイフモアで粉砕し、ロータリーで土にすき込むのがふつうです。
わが家では、肥料効果はねらっていないうえ、そういった機械もないので、刈り払い機を使います。上から30センチくらいずつ切って、そこに置いておくだけです。それでもマルチにはなり、多少の有機物補給にはなっていると考えています。
果樹園にはヘアリーベッチ
果樹園には毎年ヘアリーベッチの「まめっこ」をまいています。
地面にはいつくばるようにつるを伸ばす、マメ科植物です。根に根粒をつくって窒素を固定するので、肥料効果も高く、きちんと茂ったヘアリーベッチをすき込むと、草丈20センチで10アール当たり約4キロのチッソが補給されるといわれています。
筆者が使っているまめっこは、3~5月の春まきができる品種で、播種量は10アールに3キロ。梅雨前には畑一面を覆ってマルチのようになるうえ、他の雑草の成長を抑制するアレロパシー作用もあるので、一年生雑草が生えにくくなります。多年生雑草は生えてきますが、勢いは少し弱いです。
筆者の場合は、花が咲く少し前に刈り払い機で刈り、2日ほど置いてから、管理機を走らせて浅くすき込みます。刈るのが面倒な場合や、もう少しのあいだ草を抑えたい場合は、窒素効果は劣るようですが、夏に立ち枯れをするまで待ってからすき込むこともあります。
肥料も畑の隅っこで育てる時代!?
肥料代が高騰しているなか、緑肥は頼もしい存在です。軽くてまきやすいうえ、肥料効果だけでなく、ものによっては根っこが排水性改善に役立ったり、ソルゴーのように天敵のすみかになったり防風効果があったり、マルチになったりと、一石二鳥以上の効果が期待されます。
また、すべての緑肥にいえることですが、使い方に縛られず、自分の農業に合うやり方を探してみてください。
筆者の場合は、緑肥を使い始めてから、ウネ間やアゼ際が肥料を育てる「畑」のように思えてきました。