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採算割れなら「その値段では売りません」 安売りを防ぐポリシーと品目

吉田 忠則

ライター:

連載企画:農業経営のヒント

採算割れなら「その値段では売りません」 安売りを防ぐポリシーと品目

「農業はもうからない」とよく言われる。相場が下がると、出荷するほど赤字が増えることさえある。だが、そもそも厳密に収支を計算し、値決めしている農家はどれだけいるだろうか。「適正価格」にこだわるトウガラシ栽培の十色(といろ、さいたま市)代表、サカール祥子(さちこ)さんに話を聞いた。

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ビジネスの手法で環境保全

十色の畑は、さいたま市の東部に広がる緑地空間「見沼田んぼ」にある。江戸時代に新田開発で干拓された地域で、「田んぼ」とあるが水田だけでなく畑もある。この風景を守りたいとの思いが、サカールさんの原点にある。

そのためにサカールさんが選んだ方法は2つある。1つは、埼玉県が見沼田んぼで所有している農地の管理を請け負うNPOへの参加。会員から会費を集め、有機農法によるコメ作りで田んぼの維持を目指している。

一方、見沼田んぼには個人所有の農地もある。だが他の地域と同様、農家の高齢化で荒れ地になるリスクが高まっている。ここを借りて保全しようと思うと、地代を払う必要がある。だから収益の確保が前提になる。

そこで2021年十色を立ち上げた。トウガラシを選んだのは、既存の農家と差を出すことができるから。ビジネス感覚が出発点にある。

非営利活動であるNPOと目指しているものは共通。だがサカールさんは「それを前面に出すより、きちんとトウガラシを販売して売り上げを増やしたい。そのことが、結果的に農地の保全にもつながる」と話す。

十色が育てたさまざまなトウガラシ

ホームページを刷新した

十色の事業とNPOの活動の違いを鮮明にするうえで着手したのが、ホームページの刷新だ。以前は「十色は環境を大切にしています」というメッセージを前面に出していた。それがごく普通のことだと思っていた。

NPOとは別に、十色も田んぼを使った農作業体験のサービスを手がけている。田植えや生き物観察、稲刈りなどのメニューをそろえている。以前はこの案内を、トウガラシの紹介と一緒にホームページに載せていた。

これに対し、顧客から「わかりにくい」という声が出た。ホームページを見に来る人のほとんどは、トウガラシ目当て。だが環境保全への思いを含めて情報量が多すぎて、メールで別途問い合わせる人も少なくなかった。

2024年にこれを改めた。いまホームページを開けると、目に飛び込んでくるのは真っ赤な画面。真ん中に「商品のご購入はこちらから」との文字が並ぶ。下にスクロールすると、色とりどりのトウガラシの写真がある。

一方、農作業体験は別のルートで募集し始めた。ケーキ作りなど家族で楽しむさまざまな体験を紹介する外部のプラットフォームを活用することにした。客層が違うのを踏まえ、それぞれに合った「見せ方」に変えたのだ。

トウガラシを服に印刷してアピール

トウガラシの値段に感じた疑問

収益をきちんと出すために取り組んだのが、品種ごとの適正価格の算出だ。十色は47種類の世界各地のトウガラシを育てている。ほかに国内で栽培している農家がほとんどいないので、売買価格に「相場」はない。

そこで以前はハラペーニョなど他の農家も作っていて、とりあえず値段の目安がある品種をもとに、「それよりどれだけ手間がかかるか」を考えて価格を決めていた。だが「それって正しいの?」と思うようになった。

税理士の意見も参考にしながら、生産量の多い品種に人件費を含めてどれだけコストがかかっているかをはじき出した。作業に無駄がないかもチェックした。こうして「値段の理由」を説明できるようにしていった。

その結果、既存の値段に疑問を抱くようにもなった。例えば、タカノツメに似た日本の伝統品種の八房を十色は作っている。この品種を買いたいと言ってきた業者に値段を聞いて、「合うわけない」と思ったという。

品種ごとにコストをチェックする

業者が基準にしたのはタカノツメの値段。「そんなに安くできるのか」と思い、他の農家のタカノツメの育て方を調べてみた。すると作業の中身は必ずしも同じではないが、かけている手間は似たようなものだったという。

「信じられない値段だ」。サカールさんは驚くとともに、いままで当たり前とされてきた値段に疑問を感じた。「栽培にかかるコストを計算しているのだろうか」。農家の側にも改めるべき点があると思うようになった。

もし利益が出ないような安値を買い手が提示してきたら、「その金額では作れません」とはっきり伝えるようにしているという。ここで妥協していたら、十色の経営を持続可能なものにすることはできないと考えるからだ。

八房

他の農家と連携を準備

ここまで読んだ人の中には、「農家の言い値が通るようなら苦労はしない」と思った人もいるだろう。産地間の価格競争に巻き込まれ、採算ぎりぎりで出荷するケースも少なくない。やむなく畑で廃棄することさえある。

ずっとそれが農業の実情だった。だが浮き沈みの激しい相場に委ねたままでは経営を発展させるのは難しい。こうした状況を突破しようと、多くの農家は契約栽培を取り入れ、価格のブレを抑えるよう努めてきた。

一方、十色には独自の強みもある。国内では珍しいさまざまな品種を育てている点だ。特定の品種を必要としている飲食店や小売店にとって十色は貴重な存在。ホームページを見やすくしたことがここで生きる。

売り先が増えたことを踏まえて、次の一手も考え始めた。メインの品種を1年を通して販売できるようにするため、他の地域の農家と協力態勢を組む準備を進めているのだ。すでに何人かの農家と話を始めている。

「いろんなトウガラシをもっと知ってもらい、みんなに食べてもらうことが大事」。サカールさんはそう強調する。見沼田んぼの自然を大切に思っているからこそ、十色の事業を磨き上げることにいっそう力が入る。

サカール祥子さん

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