2025年の夏は“過去イチ”暑かった…。農業生産現場に大きな影響

日本の夏の平均気温偏差の長期変化を示す。気象庁報道発表資料より転載
2025年の夏は記録的な猛暑となった。気象庁の発表によると、2025年は全国的に梅雨明けが早く、統計開始以降で最も早い記録となった地域もあった。それに続く夏の平均気温は、基準値からの偏差が+2.36℃となり、統計を開始した1898年以降の夏として最も高い記録を更新した。この温暖化傾向は、今後も続く見通しとなっている。農業生産は「これまでの通り」が通用しなくなっている。
そこで注目されたのが高温対策。2025年に特に話題になったのは「高温耐性品種」と「高温・乾燥対策バイオスティミュラント(BS)」だ。土づくり、潅水、追肥といった基本を守るのは大前提だが、それに加えて高温耐性品種の採用、高温・乾燥対策BSの施用、場合によっては作目変更など、先を見通した対策の実施が求められている。
再生二期作・初冬直播きなど新たな水稲栽培技術が普及期に入る
多くの米生産者は、農政の方向性が定まらないことに不安を感じていることだろう。それでも、農業従事者の減少と高齢化が同時進行しているのだから、常に生産を効率化し続けねばならない。2025年、普及期に入ったと目される効率化を実現する米の栽培技術が「再生二期作」と「初冬直播き」だ。
再生二期作とは、一度収穫したイネの株を再生させて収穫する栽培技術のこと。二度目の田植えは不要だから低労働で増収を見込める。温暖化を逆手に取った栽培技術であることも見逃せない。再生二期作で増収を果たすには1作目の「早植え」が必須であるが、近年の温暖化や梅雨明けの早まりが、これを可能にするのだ。
もう1つ、普及が進みつつあるのが「初冬直播き」だ。主な目的は、初冬に播種して春作業を前倒しで行うことで、作業を分散することにある。本来は春に行う作業を農閑期に当たる初冬に行い、種籾を雪の下で越冬させることで、春作業がほぼ無くなる。作業の分散により、少ない人数でより広い作業をこなすことができる、と言い換えることができる。春以降に行う雑草・水管理といった作業については、慣行の乾田直播と同じだから、既に技術は確立されつつある。
筆者が把握しているところでも、取材させていただいた青森県のほか東北・北陸各県で「初冬直播き」の挑戦を始めている農業生産者が増えている。
令和の米騒動、2025年も続く

作付前から米集荷の過当競争が報じられていた2025年。その影響は今も続いている。米の流通円滑化を目的として、政府は初めて備蓄米を放出した。これにより一時的に米価は漸減したが、2025年末時点では再び高止まりしている。外国産米の輸入量増も話題となったが、主食用米の作付けが増えたことで加工用米と酒米の作付けが減少し、川下の加工業者・日本酒メーカーなどを直撃している。
政府は物価高対策として「おこめ券」を選択肢として地方自治体に提示しているが、批判の声は少なくない。特定団体への利益誘導との指摘や、デジタルクーポンなどと比較して使いにくい、手間が掛かる、などという指摘だ。
令和の米騒動のきっかけは「需給バランスが崩れた現状の把握が遅れたため」だ。それを端緒に(誰かが意図したとは思わないが)米の集荷競争が投機的になった。高値で集めた米は安く売れないから、米価が下がるはずがない。
ところが2025年末、いよいよ米のダブつきが話題になっている。米流通の専門家の多くは、企業の2025年度決算期にあたる2026年3月に向けて米価が下がる、と指摘している。
2025年産米価格のソフトランディングと2026年産米価格の安定が実現するかどうかは、後述する農水大臣と農水省のリーダーシップにかかっている。期待したい。
鈴木大臣就任。農業の未来への議論を
2025年10月21日に高市内閣が発足し、備蓄米放出を実施した小泉進次郎前農水大臣から代わって、鈴木憲和氏が農林水産大臣に就任した。鈴木大臣は農水省出身だから、農政への深い理解に基づいた「農政の継続」を重視している。米について言えば「需要に応じた生産」に方針転換し、「米価はマーケットが決めるもの」との基本姿勢を堅持している。鈴木大臣は安定感があり、農業関係団体の側から見ると、意思の疎通がしやすくなった、と言える。
ところが消費者の立場からは、「おこめ券」が象徴だが、「農業界の人」に見えているように思う。鈴木大臣には是非、農業への造詣の深さを発揮して、資材費や燃料代、人件費が高騰していること、それに生産物価格の推移といった農業生産現場を取り巻く現状を広く消費者に伝えて欲しい。そして地域や日本農業をどうしていくのか、国民的議論を巻き起こすような情報発信を願いたい。
バイオスティミュラント(BS)が農水省に定義され普及に向かった1年

2025年5月30日、農水省が「バイオスティミュラントの表示等に係るガイドライン」の策定を発表したことで、遂に日本でも「BSとは何か」が定義された。ご存じのとおり、BSと呼ばれる新たな生産資材の開発・使用が国内外で進んでいるが、「どの資材に効果があるのか分かりづらい」、「表示が明確でないものがある」などの課題があった。それに対応すべく策定されたのが「表示等に係るガイドライン」であり、以下のように定義された。
「バイオスティミュラント」とは、農作物又は土壌に施すことで農作物やその周りの土壌が元々持つ機能を補助する資材であって、バイオスティミュラント自体が持つ栄養成分とは関係なく、土壌中の栄養成分の吸収性、農作物による栄養成分の取込・利用効率及び乾燥・高温・塩害等の非生物的ストレスに対する耐性を改善するものであり、結果として農作物の品質又は収量が向上するものをいう。
一方、農業生産現場を主体とする団体であるEco-LAB(エコラボ)は、それに先立つ2025年4月15日に「バイオスティミュラント資材の適正利用に関する基準(自主規格)第1版」を、また資材メーカーを中心とする業界団体である日本バイオスティミュラント協議会は2025年9月8日に「日本バイオスティミュラント協議会 自主基準」を発表した。
上記はEco-LABに取材して、農業生産現場が主導するBS普及に関して綴った記事だ。興味を持たれた方は是非ご一読いただきたい。産地が主体となり、科学的根拠のあるBSを使い、PDCAを回すEco-LABの取り組みは、2026年以降のBS普及のスタンダードとなる可能性がある。
農水省「バイオスティミュラントの表示等に係るガイドライン」
「バイオスティミュラント資材の適正利用に関する基準(自主規格)第1版」
日本バイオスティミュラント協議会 自主基準
「イネカメムシ」「ヨトウガ」など、病害虫に悩まされた1年に
2025年、水稲に関連して特に話題となった病害虫といえば、「イネカメムシ」だ。埼玉県で越冬個体数が前年の約43倍になるなど各地で爆発的に増加し、経済紙で「60年ぶりの異常事態」と報告された。
また異常な高温と乾燥により、ヨトウガ類による被害も広がった。群馬県では「オオタバコガ」が平年の4~11倍という記録的な発生が確認され、10年ぶりに注意報が発出され話題になった。

左から、トマトキバガの標本・成虫・幼虫。農水省資料「トマトキバガとは」より転載。
2025年、トマト生産者の間で最も警戒された害虫の1つが「トマトキバガ」だ。トマトキバガはトマト・ミニトマトの葉・茎・果実を幼虫が食害する世界的に重要な害虫であり、日本国内で初めて確認されたのは2021年10月のこと。その被害が日本でも広がる恐れが高まったのだ。熊本県では県内全域で多発のおそれがあるとして、注意報が発出された。引き続き警戒し、対策を講じて欲しい。
新しい基本計画がスタート!
2024年に25年ぶりに「食料・農業・農村基本法」が改正された。そして2025年4月、「食料・農業・農村基本計画(以下、基本計画)」が改定された。基本計画とは、日本の食料・農業・農村政策の方向性や具体的な施策を定めた中長期的な国家戦略のこと。基本計画は5年に1度改定されるが、新しくなった基本法に基づく初めての基本計画となった。
主なトピックは「食料安全保障の抜本的強化」「KPI(重要業績評価指標)と検証の導入」「生産コストの情報共有と価格反映の促進」「輸出目標の大幅な引き上げ」・「環境と調和のとれた食料システムの確立」だ。
食料・農業・農村基本法と合わせて、農水省のホームページで全文を読むことができる。農業関係者は必ず一読しておいて欲しい。
農水産物を鉄道で運ぶ「はこビュン」が本格化の兆し!

荷物専用新幹線の走行イメージ。JR東日本プレスリリースより転載
2025年12月にJR東日本が、新幹線や在来線による列車荷物輸送サービスである「はこビュン」の事業拡大を発表した。2026年3月23日より、盛岡新幹線車両センターと東京新幹線車両センター間にて、E3系新幹線1編成の全号車を改造した荷物専用車両による運行を開始する。
JR東日本では、2025年4月から臨時列車の一部客室を使用した大口輸送サービスを開始しており、現在は毎週金曜日に最大200箱程度の輸送が可能な体制を整えているが、ユーザーからは「より多量の荷物を高頻度で輸送してほしい」という声があがっていた。車内電源を活用した冷温管理機器(業務用クーラーボックスなど)による冷蔵品の輸送や、今後は仙台エリアや新潟エリアへの輸送を目指すとしている。
「はこビュン」の拡大・普及は、モーダルシフトの推進そのものであり、トラック輸送能力を補完する機能を果たす。地域から都市部への生鮮品や特産品などの輸送を高速かつ大量に行うことが可能になる。また、例えば、朝収穫した農作物を午後の航空便で輸出する、ということが可能になるから、輸出産地の拡大に寄与する可能性もある。
国内未利用資源の肥料活用が「事業化」と「制度化」で進化した
2025年10月31日、JA全農は2025(令和7)肥料年度春肥(11~翌5月)の価格を公表した。前期(秋肥)から平均で4.3%の値上げであり、値上げは2期連続となる。値上げとなった主因は、他国の需要が旺盛であることによる肥料原料の高騰にあるが、円安も影響したはずだ。
この逆境に耐えるべく、2025年に国内未利用資源(家畜ふん尿、下水汚泥、食品残渣など)の肥料利用の「事業化・制度化」が進んだ。国内未利用資源の肥料利用の本格活用が始まる転換点とも言える1年となった。
これに寄与したのが、農水省の支援事業と「国内肥料資源利用拡大アワード」だ。国内肥料資源の利用拡大に向けた全国推進協議会の会員増、農水省の補正予算(令和7年度)での公募開始(12月)など、具体的な事例(事業化)のみならず、制度の面で拡大が見られた。
マイナビ農業では、地域の未利用資源の肥料化(事業化)として、山形県鶴岡市の「つるおかコンポスト」を記事にしている。食料安全保障と地域と農業の持続可能性の観点からも、今後も国内未利用資源の肥料活用は定着が進むはずだ。
農業労働力不足が「経営判断の前提条件」になった年

最後のトピックは、やや主観的だが、労働力不足について。2025年は農業労働力不足が「工夫や努力で何とかなる課題」ではなくなった年であったと思う。
農業従事者の高齢化と減少の同時進行により、繁忙期に必要な人手を確保できないことが常態化した。特に露地野菜や果樹を中心に「作りたくても作れない」という声を聞くことが多かった。問題は単なる人手不足ではなく、それが経営判断の前提条件になった点にあるように思う。
作付面積を維持するのか、縮小するのか。労働集約的な作目を続けるのか、他の作目に切り替えるのか。機械化・自動化に投資するのか、撤退を選ぶのか。2025年にこうした判断を迫られた農業生産者が、少なくないのではないだろうか。
外国人材の活用や省力化技術の導入も進んだが、それらを「使える経営」と「使えない経営」の分岐も鮮明になった。2025年は「人がいないことを前提に農業を組み立て直す段階に入った」と思う。






















