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実需者が再生二期作に挑戦! 需要に応じた米生産と収量増の両立に挑む

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実需者が再生二期作に挑戦! 需要に応じた米生産と収量増の両立に挑む

一般消費者にとって、米に関する最近の話題といえば「米不足」と「米価高騰」だが、流通業者や加工業者にとっても、加工用米や酒米の不足と価格高騰は悩みの種だ。そんな中脚光を浴びているのが、収穫後の切株から発生するひこばえを栽培・収穫する「再生二期作」である。二期作目の育苗や移植が不要とあって、生産コストの削減が期待でき、二期作目の収穫はほぼ丸々プラスの増収として見込むことができる。この再生二期作技術を多収品種「にじのきらめき」と組み合わせて開発している研究者が、農研機構中日本農業研究センター研究推進部技術適用研究チーム主席研究員の中野洋(なかの・ひろしさん)。そして、実需者の立場から農研機構と協力して再生二期作を始めたのが、加工米の製造・販売を手掛ける関東穀粉株式会社だ。

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一度収穫したイネの株を再生させて収穫する再生二期作

再生二期作とは、一度収穫したイネの株(ひこばえ)をそのまま再生させ、二度目の収穫を行う栽培技術である。通常の二期作が「二度目の育苗・移植」を伴うのに対し、再生二期作では株の再生力を活用するため、省力化が可能となる。イネは多年生植物であり、気温さえ確保できれば再び芽を出す。この特性を利用することで、低コストで二期作目を収穫でき、その分だけ増収を実現できる。中野さんが教えてくれた。

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「二期作目の収量は品種や管理方法により変動しますが、条件さえ整えてあげれば、通常作の1.5倍程度の収穫を得ることができます。私達が再生二期作で主に使用している多収品種『にじのきらめき』は、二期作目でも安定した収量が確保しやすいです。『北陸193号』を早生化した超多収実験系統では1.5トンもの収量を得た事例もあります。今後、栽培技術をブラッシュアップし品種改良の進展と組み合わせることで、将来的には通常作の3倍の収量も夢ではありません」

再生二期作の成否のカギを握るのは、「でんぷん」と「葉」である、という。初回の収穫時に株に十分な炭水化物を残し、葉を多く保持させることで、二期作目の芽出しと生育を安定させるのだ。留意すべきは、一期作目の移植時期と刈高(40cm)であるという。

「一期作目を4月に植える早期移植にすると、株が大きく育ち、体内にでんぷんを多く蓄えるため、二期作目の生育に有利です。5月植えでは株が小さく、再生力が弱いため、二期作目の収量増を見込みにくいのです」(中野さん)

「一期作目を40cm程度に高刈すると、二期作目で良い結果が得られます。高刈することで、株に「でんぷん」と「葉」が多く残り、再生する力が高まるのです」(中野さん)

「高刈には、普通型コンバインの使用がおすすめです。自脱型コンバインでは、高刈といっても30cmが限界です。また自脱型コンバインでは、桿長が55cm以下だと収穫ロスが多くなってしまいます。一方、普通型コンバインであれば40cm程度まで高刈できますし、稈長55cm以下でも収穫ロスがありません」(中野さん)

特許許諾パートナーとして再生二期作に挑戦。産地との連携により共同試験へ

農研機構による研究成果をいち早く生産現場に導入しているのが、茨城県行方市に本社を置く関東穀粉。同社は従業員約35名を擁し、精米・加工・営業米倉庫など多角的に事業を展開している。業務用米や加工用米を含め幅広く米穀を取り扱い、加工米飯や醸造用、米菓向けの原料供給も手がけるなど、加工実需者との結びつきが強い。同社品質保証室次長の坂本聖一(さかもと・せいいち)さんが、再生二期作に取り組んだ背景を以下のように説明した。

写真左は関東穀粉の味噌、醸造用米、おせんべいなど米菓用の原料を製造する加工用米ライン。さまざまな顧客のニーズに応えて精米加工を行う

「弊社代表取締役の大嶋衛(おおしま・まもる)が再生二期作に注目した背景には、安定しない原料米の調達難があります。近年の温暖化により原料米の確保が難しくなり、価格も高騰し、加工実需者に米を安定供給することが難しくなっていました。再生二期作により安定して原料米を確保できれば、加工実需者にとって救世主となりうると考えたのです」

同社の取り組みは、単なる技術試験ではないと、坂本さんは言葉を続ける。「再生二期作は加工事業者と生産者とをつなぐ原料米の安定供給を成功に導く可能性を秘めており、加工業界のニーズに応えることができると考えています」(坂本さん)

関東穀粉は2023年から中野さんと連携し、各産地で再生二期作試験をスタートした。農研機構は再生二期作関連の特許を取得しており、再生二期作の栽培技術を生産者に提供するにあたっては、関東穀粉が農研機構との利用許諾契約に基づいて産地と共同で情報連携を行い、チームを構築している。

関東穀粉と農研機構は協力して、再生二期作に適した条件を探っており、「4月植え」と「5月植え」、「高刈」と「低刈」の組み合わせを試している。写真上は一期作目の5月植えを収穫した直後の8月中旬の様子。写真下は二期作目の4月植えを収穫する直前の10月下旬の様子

「2023年の試験ではデータ精度が不十分でした。そもそも、どのようなデータを、どのように取得すべきなのかが分かっていませんでした(苦笑)。そこで2024年の試験では中野先生と課題を検討しつつ、早期移植や刈高の調整などの条件を整えてデータ取得を始めました。指導を受けたことで、より明確な道筋が見え、収穫はこれからですが、昨年以上の手応えを感じています」と坂本さんは満足気だ。

もちろん課題もある。二期作目は出穂時期が株により異なるため、収穫適期が分かりにくいのだとか。また、自脱型コンバインでは高刈に限界があり、汎用型コンバインの使用が必須である。

中野さんは「大規模生産者だと両方持っている方も少なくありませんから、一期作目と二期作目でのコンバインの使い分けを検討しています。地域によっては、『にじのきらめき』ではない品種を選定することで、自脱型コンバインと組み合わせて再生二期作を導入できる可能性があります」と展望した。

水資源の確保も大きな課題であるという。地域・圃場ごとに水利用の条件が異なるため、二期作目の終盤まで水を利用できるとは限らない。利水の調整は省庁をまたいだ交渉が必要となるから、あらゆる水田で再生二期作が可能、というわけではないのだ。

再生二期作で作った米は美味しいのか?

ところで、「再生二期作では、味が落ちるのではないか?」と心配する向きもあるかもしれない。しかし、中野さんが実施した食味評価では、総合評価・外観・粘り・硬さのいずれにおいても、通常作との差はほとんど見られなかった。管理次第では十分に主食用として通用する水準に達している、と言って良さそうだ。

「ただし、多収を狙うあまり過度の施肥を行えば食味がやや低下する場合もあるので、施肥設計は重要です。また、二期作目の低温が低くなることで、食味がやや低下する場合もあります。このため、再生二期作を実施する際は移植時期を早め、二期作目の稲が低温に晒されないスケジュールを組めれば、良質米を二度、収穫できます」(中野さん)

新たな栽培技術は、研究者と実需者が連携してこそ普及する

中野さん(後列中央)とともに再生二期作技術の開発に取り組んできた農研機構の研究メンバーの皆さん

「多収品種『にじのきらめき』を早く植えて高く刈ることで、味の良い主食用米を二度収穫する技術を開発しました。しかし、『技術ができました!』と発表しただけでは、普及しません。弊所の立場からすれば、関東穀粉のような実需者と協力することで、生産から加工・流通までを一気通貫で最適化しつつ、技術の普及を進めることができます」と、中野さんは今後の技術普及を展望する。

再生二期作は今や米生産の新たなキーワードとなりつつある。品種改良、機械(汎用型コンバイン)、栽培指導、そして実需の受け皿、といった歯車がかみ合えば、広がる可能性は高い。坂本さんは「再生二期作に挑戦した当初の動機は加工需要向けでしたが、品質が安定すればさらに広い販路を開拓できると考えています。再生二期作を、持続可能な米生産の柱にしたいです。関東圏を中心に各地で広がり始めたこの取り組みは、『チーム中野』として生産者・実需者・研究機関の連携体制へと進化しています」と力強く語ってくれた。

再生二期作は、省力・多収・安定供給を同時に満たす、新しい米づくりの姿を描きつつある。

画像提供:農研機構中日本農業研究センター、関東穀粉株式会社

参考:農研機構「良食味多収水稲品種「にじのきらめき」を活用した 再生二期作による画期的多収生産の実現
取材協力:農研機構、関東穀粉株式会社

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