産地を悩ませる「トマト黄化葉巻病」
全国一のトマト生産量を誇る熊本県。その一大生産地で、近年深刻な問題になっていたのが「トマト黄化葉巻病」です。TYLCV(トマト黄化葉巻ウイルス)によって引き起こされるウイルス病で、トマトの収穫量、および生産者の収益に深刻な被害を与えていました。
感染の流れは次の通り。ウイルスに感染したトマトをコナジラミが吸汁することでウイルスを獲得。その後、別のトマトへ移動して再び吸汁することで新たな感染が広がる、という仕組みです。
つまり、トマトとタバココナジラミの組み合わせで感染が拡大しており、トマトが栽培されていない期間はこのウイルスの伝染環は断ち切ることができます。
しかし、熊本県の玉名や八代などの平坦地では、トマトを8月頃に定植すると翌年4月頃まで収穫が続いており、栽培期間が長期に渡ります。そのため、ウイルスを断ち切りにくいのが大きな課題でした。

トマトのハウス栽培の様子。(撮影:株式会社トマトドリームカンパニー)
さらに問題を深刻にしているのがタバココナジラミの薬剤抵抗性の発達です。全国的な課題ですが、特に九州、熊本では抵抗性の発達が強い傾向にあります。
熊本県農業研究センターで長年病害虫防除に携わる専門家によると、現在主流で使われている薬剤もここ数年で効果が低下しているというデータも出ています。そのため、熊本のトマト生産者の間では新しい作用機作を持つ農薬の登場が待ち望まれていました。
新たな一手「エフィコン®SL」の可能性

こうした中登場したBASFのエフィコンSLは、黄化葉巻病に対する新たな防除手段として大きな期待が寄せられています。
エフィコンSLはアクサリオン®(化合物名:ジンプロピリダス)を主成分とした新規殺虫剤で、害虫の弦音器官の機能を阻害する新規作用機作を持つもの。このため新たにIRACグループ:36に初めて分類されました。
既存の薬剤への抵抗性を持つコナジラミ類、アブラムシ類、アザミウマ類、ヨコバイなどの害虫に優れた効果を発揮する一方で、ハチや有用生物への影響は少ないことから、今後のIPMへの活用も可能です。優れた浸透移行性があり、新葉への効果も期待できることから比較的長い残効性も期待できます。

「落ちる害虫、活きる益虫」がキャッチコピーのエフィコンSL
BASFアグロソリューション事業部・開発部の郡嶋浩志さんによると、新規作用機作を発見したのは10年前。
「『害虫は防除し、有用生物は守る』というある種矛盾した条件に加え、農薬規制が厳しいヨーロッパでも、登録取得できる殺虫剤を開発するというのが開発のコンセプトでした」
「今、新規作用機作を持つ農薬の有効成分を見つけ出すのは至難の業です。また20~30年前は世に出すのに約80億円かかっていたものが、今は250~300億円かかるとされています。なので、開発面でも予算面でも新しい剤の開発は大変な作業になっていると感じます」(郡嶋浩志さん)

だからこそ、この薬剤を長く大切に使っていくことが大事だと郡嶋さんをはじめ関係者一同が力説しています。
「一年でも長くこの剤を使うには、使用できる化学農薬に依存しすぎないことが大切です。そのためにも、IPM(総合的防除)への取り組みが今求められています。熊本における天敵を使った栽培の普及率はナス、イチゴで数十パーセントと比較的高いのに対して、トマトでは全体の数パーセントです。これからまだ取り組む余地があります」(熊本県農業研究センターの専門家)

現在、生産者全体で組織を作り、定植や収穫のタイミングを合わせて、トマトがない期間を設ける、また感染源になりやすい野良トマト(捨てたトマトから成長したもの)の除去に取り組むなど、総合的な防除の対策に一丸となって取り組む動きがあります。
「タバココナジラミは入れない、増やさない、出さない、つながないが大切です。薬剤はローテーションを組んで計画的に使うことが大切で、エフィコンSLは特にトマトを定植してから11月中旬までの栽培前半に感染を抑制するタイミングで使用するのが重要だと考えています」(熊本県農業研究センターの専門家)
IPMは総合的にみると「安い」?
一方で、IPMの導入コストはどのように考えればいいでしょうか?
IPMは薬剤のローテーションや天敵との組み合わせなど、緻密なスケジュール調整が必要とされるため、複雑さから導入ハードルの高さを感じている生産者も多くいます。さらに、天敵製剤の購入費用もかかってきます。

「天敵を使った IPMを高いと感じるか、安いと感じるかは、病害虫防除に割く労働力の捉え方で変わります。法人経営に近い形で取り組まれている方は、労働時間の価値というのをシビアに考える傾向にあり、IPMは「安い」と言う方が多いですね」(柿元一樹さん)
そう語るのは、株式会社Field Styled Lab.代表取締役の柿元一樹さん。実際に柿元さんの付き合いがある生産者で、新規就農から4~5年目でピーマンの栽培面積を3倍まで規模拡大した方は「IPM を取り入れたからできた」と語っているのだとか。
適切なIPM導入で労働力を削減することは、経営において重要になってきます。
「コストというのが単純に物品の単価だけで語られるものではなく、総合的に捉える必要があると感じます」(柿元一樹さん)
いち早くエフィコンSLを使用。トマト生産者の声
エフィコンSLをいち早く散布してみたという、熊本県八代市でトップクラスの生産量を誇る生産法人・株式会社トマトドリームカンパニーの宮崎章宏社長に話を伺いました。

「新しい殺虫剤の発売は待ちわびていました。第一印象として、既存の農薬は呼吸に作用するものが多かったので、弦音器官に作用するという点が非常に新しく、効きそうだなと感じました。実際に使ってみて効果を実感しています」(宮崎章宏社長)
さらに、既存の農薬は散布したところしか効かないものが多く、かけ損じがないように散布機の噴口の角度を調整したり、ムラなくかかるよう気を配ったりと細やかな調整が必要でしたが、エフィコンSLは優れた浸透移行性があることを心強く感じているそう。
「散布後に葉っぱの裏を見てみたら、コナジラミが全然いなかったんです。これはかなり効果があるとみているところです」

トマトドリームカンパニーのハウスでは、つややかなトマトがたわわに実り、収穫の時を静かに待っています
この浸透移行性により、作業効率も上がり、散布回数が少なくて済むようになるなど、労働力の削減にも大きな期待を寄せています。
宮崎社長はスマート農業をいち早くから実践。最先端のハウスやICTを使ったデータ農業を導入し、経験や勘だけに頼らない農業で成長を続けてきました。農薬はしっかりしたローテーション散布で既存の剤をうまく活用できていますが、現状維持に留まらず、今後はIPMも含めたあらゆる手段を模索していくいことに意欲的です。
「今回のイベントでも、専門家の先生の発表で既存の殺虫剤が年々効きにくくなっているというお話がありました。自分のところも、抵抗性が出てきて全く効かなくなる不安は常にあります。だからこそ、IPMも含めたあらゆる選択肢を視野に入れていきたいですね」(宮崎章宏社長)

持続可能な未来のために
エフィコンSLを開発したBASFは、世界に25以上の研究開発拠点を持ち、2025年度の研究開発費は10億ユーロ(約1690億円)。研究開発に意欲的に投資し、今後2030年までに8つの有効成分を世界市場へ上市する予定であると発表しました。

BASFが掲げる企業目的は「持続可能な将来のために、化学でいい関係をつくる」こと。
そのために重視しているのは「単にモノを販売することではない」と、アグロソリューション事業部 事業部長の富士宗一郎さんは強調しました。
「生産者の方が今何に悩み、どのような課題を抱えていらっしゃるか。そこに寄り添い、農薬に留まらず、デジタル技術や種子事業なども含めたあらゆるソリューションを提案させていただきたいと考えています」
最近本格始動した野菜種子のビジネスは、耐病性など最新の生産者ニーズを備えた種子の開発・提供でも生産現場のニーズに応えていきたいとのこと。また、『xarvio(ザルビオ)』をはじめとするデジタルツールの開発を通し、経験や勘に頼っていた管理を可視化できるような営農システムの構築も進めています。
昨今の農業は気候変動や規制ルールの変化、労働力不足や人口増加による需要の増加、とあらゆる変化の波が訪れています。
「世界的に見ても、日本は労働人口の減少や高齢化などの進行が顕著で、農業の構造が劇的に変わろうとしています。そんな中、多くの生産者の方が、それぞれの立場で日々の営農と向き合いながら、自社の経営だけでなく、業界や日本の農業全体の未来を強く意識して活動されていると感じております。弊社はそうした多様な生産者の皆さまを広く支え、ともに日本の農業の未来を考えていく存在でありたいと思います」

変わり続ける環境の中で、私たちはどう進んでいくのか。その答えがまだ見えない今こそ、生産者、メーカー、流通など、関わるすべての人が共に模索し続ける姿勢が、これからの農業に求められています。
『エフィコン®SL』製品情報
有効成分: アクサリオン®(ジンプロピリダズ) 10.8%
登録番号: 第25005号
性状: 褐色~暗褐色澄明水溶性液体
毒性: 普通物(毒劇物に該当しないものを指していう通称)
危険物: 三石・Ⅲ・水溶性
有効年限: 3年
包装: 250ml×20本、500ml×20本(地域限定)
®=BASF社の登録商標
















