貸し借りが進まない農地の現状

常総市には、市外や県外から農地を探す相談が寄せられています。住宅地化が進み、農地を確保しにくくなった周辺の自治体から、常総市へ足を運ぶ人もいるといいます。なかには、農家を直接訪ねて「この農地は空いていませんか」と尋ねる人もいるそうです。
背景にあるのは、常総市の立地です。首都圏から約50キロ。圏央道が市内を通り、電車でも1時間あまりで都心に出られます。常総インターチェンジ周辺では、農業を核にした一帯の整備が進み、市外から多くの人が訪れる「道の駅常総」も生まれました。都心に近く、採れた作物を新鮮なまま市場へ届けられる。実際に、朝、車で豊洲市場へ野菜を納品している例もあるそうです。農業に取り組む人にとって、条件のそろった環境です。
行き場をなくす農地
借りたい人がいる一方で、手つかずの農地も増えています。市内では担い手の高齢化が進み、採算の合わない農地は大規模な農家からも返され、「もう自分では管理できない」という地権者からの相談も少なくありません。
常総市の農業経営体数は農林業センサスによると、2560経営体(2010年)から1447経営体(2020年)まで減りました。10年で1000を超える経営体が減った計算です。担い手が決まっていない農地は、いまや全国で31.7%にのぼります。
借りたい人も、貸したい農地もある。それでも両者が結びつきにくい背景には、農地情報が必要な人に届きにくいという課題があります。過去に相談を受けた農地情報が更新されないまま残っていたり、現地の状況が変わっていたりすることもあり、担い手が判断できる「今の情報」として整理しきれていない面がありました。
常総市は、この隔たりに新しい仕組みで向き合おうとしています。
農地情報をWebで開く

この課題に向き合うのが、常総市産業振興部農業政策課の森大輔さんです。森さんは2年前まで、市の都市計画の部署でまちづくりを5年担当していました。
都市計画で得た手応えを農政の現場へ
都市計画の部署にいたころ、森さんは用途地域などの情報をWebで公開する取り組みに関わりました。情報を公開すると、窓口や電話での問い合わせが減り、職員が新しい施策を考える時間を持てるようになったといいます。
農地の情報の多くは、いまも紙の台帳で管理されてきました。これは常総市に限らず、多くの自治体に共通する構造です。だからこそ、農地の情報にも同じ考え方が必要ではないか。農地を守るだけでなく、必要とする担い手に情報を届け、活用につなげる。そのためには、農地情報を閉じたままにせず、見える形にしていく。森さんはそう考えています。
情報が届きづらい構造
常総市が直面していたのは、農地を借りたい人と、貸す側の地権者が互いに見えていない状況でした。
市外の農業法人や農家から「常総で農地を探している」という相談は、年々増えています。共通するのは「どこに農地があるのか分からない。まずは情報が欲しい」という声です。しかし市役所が開くのは平日の日中だけ。規模拡大や就農を考える担い手たちも忙しく、窓口まで足を運びにくいのが実情です。
農地を持つ地権者の側にも、事情があります。相続して初めて、自分に農地があったと知る人も珍しくありません。森さん自身も、お母様が相続する際に農地の一覧を受け取って、その存在に気づいたと言います。所有していること自体が見えにくく、気づいたときには手をつけられなくなっていることもあります。貸す気持ちがないわけではありません。それでも、誰に頼めばよいか分からないまま時間が過ぎていく。
求められていたのは、こうした農地の情報を、必要とする人に届ける仕組みでした。
農地をWebで見える化する選択
そこで常総市が活用するのが、株式会社タカミヤが運営する「MEGADERU農地マッチング支援」(以下、メガデル農地マッチング支援)です。農地情報をWeb上で整理し、農地を探す担い手が情報を確認して応募・相談できる入口をつくる仕組みです。
きっかけは、森さんの前任者からの引き継ぎでした。農地の貸し借りに関わる業務は、市が茨城県から受託しています。森さんは、その枠組みのなかに位置づければ取り組めると考えました。県の支援制度も活用しながら、市が主体となって進める形です。県との調整を経て2026年3月に方針が固まり、市は補正予算を組んで、2026年7月の本格的な運用開始に向けて準備を進めています。
農地情報を安全に担い手に届けたい、人手をかけずに担い手とつなぐ仕組みを探している。そんな自治体の担当者は、「メガデル農地マッチング支援の詳細」をご覧ください。
農地が荒れる前にやるべきこと

森さんが課題の解決を急ぐのには、「今なら間に合う」という思いがあります。農地は、半年、1年で状態が大きく変わります。地図や過去の写真ではきれいに見えても、現地では草が伸び、つるが絡み、トラクターだけでは戻せない状態になっていることも珍しくありません。なかには、重機による抜根から始めなければならない農地もあります。
だからこそ森さんは、まだ作付けに戻せる早い段階で情報を整理し、次の担い手に届けることが重要だと考えています。
市では認定農業者およそ200名への告知に加え、秋の広報誌での特集も準備し、規模拡大を目指す担い手や、Uターン、新規就農を考える人へ情報を届けようとしています。
人手も時間も足りない現場だからこそ
こうした取り組みは、常総市だけのものではありません。農地の貸し借りを支える制度は全国に共通し、人手や業務量の課題を抱える点も、多くの自治体に当てはまります。違いがあるとすれば、その課題の解決に踏み出すかどうかです。
森さんは、新しいことを始める難しさを実感してきました。前例のない取り組みには、庁内での説明や調整が欠かせません。それでも進め方を整理して筋道を示せば、組織は動き出せます。特別な仕組みを一から作る必要はありません。いまある課題に、できるところから向き合う。限られた人手と時間のなかでも前に進める。常総市の歩みは、そのことを示しています。
埋もれた農地を次の担い手へ

常総市が活用する「メガデル農地マッチング支援」では、自治体が農地の情報をWebで見える化し、全国の担い手に届けるサービスで、鍵になるのは会員登録制という仕組みです。
必要な人にきちんと届ける
農地を貸すとき、地権者が抱えるのは「素性の分からない人に任せたくない」という不安です。メガデルでは、農業に取り組む目的の利用者だけが情報を見て応募でき、転用などが目的と分かれば、規約に基づいて利用を停止します。地権者の個人情報は載らず、連絡先を伝えるかどうかも本人が決められます。情報を守りながら、必要な人にだけ届けられる形です。
農地を探す側も、動きやすくなります。これまで窓口でしか得られなかった面積や条件などの情報をWebで探し、地図や写真で現地の様子を確かめて、気になる農地にそのまま応募できます。
その応募を最初に受けるのも、自治体です。現地の調査や地権者との交渉、窓口での申請はこれまでどおり必要ですが、応募までの初期対応をメガデルに置き換えることで、窓口や電話に追われていた業務を減らせます。
メガデル農地マッチング支援についてはこちらをご覧ください。
三方良しの農地マッチングへ
森さんが繰り返すのは、手遅れになる前に動くことの大切さです。そのための一歩が、「メガデル農地マッチング支援」の導入を決めたことでした。
常総市が見据えるのは、農地を守ることだけではありません。新しく農業を始めたい人を迎え入れることも、その視野に入っています。就農の計画がまだ固まっていなくても、まずは相談してほしいと森さんは言います。
「やる気のある方であれば、いつでもウェルカムです」
経営の開始に向けては、市や県の研修制度、専門の相談窓口といった支えもあります。
農地情報の見える化とマッチングは、関わる人それぞれに意味を持ちます。自治体は、問い合わせの入口を整理しながら、農地を守る取り組みを進められます。農地を探す人は、スマートフォンやパソコンから現場に近い情報にたどり着けます。地権者は、誰に相談すればよいか分からない状態から、安心して次の担い手へつなぐきっかけを得られます。
同じ課題を抱える自治体へ
こうした取り組みは、一つの自治体にとどまりません。メガデルを利用する自治体が増えれば、担い手は地域を越えて農地を探せるようになります。
自分たちだけで抱え込まない。その一歩は、小さくてもかまいません。森さんは、自身の実感をこう語ります。
「市役所だけだと対応できないものを、民間の活力で。手遅れになる前に、民間の方の話を聞くだけでも違う」
窓口や電話の対応が減れば、職員が新しい施策を考える時間も生まれる。都市計画の現場で得たその手応えを、森さんはいま、農政でも形にしようとしています。
農地情報の見える化とマッチングが、立場の違う三者の課題に応えていく。常総市が始めようとしているのは、そんな農地との向き合い方です。
常総市のように、農地情報の見える化とマッチングに取り組みたい自治体の方は、「お問い合わせ」からお気軽にご相談ください。
















