農業の未来を良くアイデアを考える、千葉大学×マイファームの集中講座
株式会社マイファームでは、農学部などで学ぶ大学生等を対象に、農業界で自分らしく生き、地域の中核を担う人材として活躍する人材との深い接点を提供し、大学生等が農業の世界に一歩を踏み出すための道筋を示す講義を展開しています。今回ご紹介するのは、マイファームが千葉大学と協同で行った「農業の魅力発信PBL(プロジェクト型学習/実践を交えた課題解決型講義)プログラム」です。全5回の講義では、学生たちが千葉県で農業に関わる人たちと出会い、農業や農業に関連した施設・事業を知り・体験します。その中で感じた農業の魅力を深掘りし、学生ならではの視点で未来の農業を活性化するアイデアを考えて発表するのがゴール。

参加した学生は9名。就農を目指して農学を学ぶ学生だけでなく、教師を志す学生、政治経済や国際教養、情報・データサイエンスを専攻する学生など、専門分野はばらばら。それぞれの専攻の視点から「農業の未来を明るく豊かにするには」について考え、意見を出し、議論しました。
- DAY1 「農業界の可能性と歩き方」
日本の農業の現状について学び、農業界に必要な施策について考える。 - DAY2 「千葉市次世代向け農育講座について」
子どもたちに農業を理解してもらい、将来の農業関係人口を増やすための施策を考える。 - DAY3 「千葉市ニューファーマー育成研修について」
千葉市の新規就農研修について学ぶとともに、新規就農者と意見交換を行う。 - DAY4 「千葉市ふるさと農園について」
「千葉市ふるさと農園」の取り組みを知り、市民の農業理解を促進する施策を考える。 - DAY5 まとめ
講義の振り返りを行い、「千葉市ふるさと農園」活性化の企画案発表を行う。
講義を担当するのは、マイファームの杉原一成さん。

農学部を卒業後、食品メーカーに就職するも、食料廃棄などの問題に関心を持ち、退職してオーストラリアでワーキングホリデーに挑戦。そこで働いたオーガニックファームに衝撃を受け、農業と歩む人生に魅力を感じ、帰国後はマイファームに転職しました。現在はふるさと農園で様々なイベントを企画・開催しつつ、自身も横浜市の認定新規就農者となって兼業農家をしているという経歴の持ち主です。講義では、杉原さんだからこその視点や意見を交え、日本の農業が抱えている課題、そして未来の展望や可能性を解説しています。
DAY1では、戦前には1400万人いた農業就業者が2020年には160万人まで減少したこと、それが全就業人口の3.3%にすぎないという事実や、圧倒的に低い日本の食料自給率などをデータで紹介。そしてマイファームが「自分でつくって、自分で食べる 『自産自消』のできる社会をつくる」を理念に掲げ、農の日常化を目指す事業を行っていること、その一環がこのイベントであるということを解説しました。「だからこそ、これからの未来を担う学生たちの目線で出される農業界の関係人口を拡大させるための企画が楽しみだ」との期待も伝えられました。この講義はこれまでも同大学で実施されており、過去に発表されたアイデアが実際に採用されて実現した企画もあるそうです。講義には千葉市の農政課からも参加があり、学生たちへの期待の高さがうかがえます。
講義では毎回最後にグループワークを実施し、その日学んだことを振り返り、異なる立場から意見や企画を考えて発表を行います。例えばDAY1では「人と農、人と自然を近づけ、農業界の関係人口拡大のために、有効なアクション、アプローチについて考える」がテーマ。参加メンバーは3つのグループに分かれ、それぞれ消費者・生産者・行政の目線で企画を考えました。DAY2では「子どもが農業や自然に興味を持てる講座」を考えるグループワーク。低学年・高学年・中学生向けに講座案を考え発表しました。

その集大成となるのがDAY4と5の2回の講座。学生たちは会場となる「千葉市ふるさと農園」を体験し、その活性化を目的とした企画を考案しました。その様子を詳しくレポートします。
「千葉市ふるさと農園」を五感で体験して知る、農業と地域、企業や行政のつながり
「千葉市ふるさと農園」は、マイファームが管理を行っている公共の施設。市街化区域と市街化調整区域の境界にあるのが特徴。その特徴を活かし、担い手の減少と高齢化が進む千葉市の都市農業を再興するため、「農に関わる機会を創出すること」を目的に開園されました。
田園エリアは、市民の誰でも参加し栽培ができる農園が作られているほか、腐葉土を作る場所なども設けられ、自然豊かなエリアに。一方、都市エリアは、千葉市の農林業を紹介する展示ホール、料理教室や農産加工などサークル活動ができる講習室、図書室などがあり、市民の憩いと交流の場となっています。しかし、開園から年月が経過して施設の老朽化が進むとともに、農業従事者の減少や高齢化など、千葉市の農業を取り巻く環境も大きく変化しています。こうした中、ふるさと農園には、市民が農業への理解を深め、農に関わる人材を育てる拠点として、さらなる活用が求められていました。そこで、数年前にふるさと農園の指定管理者へ応募したのがマイファームです。
採択以来、杉原さんを中心に子どもから大人まで幅広い市民をターゲットにしたイベントを、様々な企業と連携しながら積極的に開催し、ふるさと農園の再興を目指しています。

今回の講義の最後には、学生ならではの視点で、ふるさと農園を盛り上げる企画を考えます。そのために、DAY4ではふるさと農園を五感で体験する活動が行われました。
DAY4のメインは、ピザ作り。小麦粉を混ぜて生地を作り、こねて、発酵させます。9人の学生以外にも、市民の方や千葉市の農政課職員も参加し、協力しながら作業を進めました。

「自分の手でピザを作るのは初めて」
「ひとり暮らしをしているけど、自炊はまだまだ苦手で」
と学生たちはわいわい会話も楽しみながら1時間ほどで生地が完成。発酵で生地が膨らむのを待つ間に、杉原さんのガイドでふるさと農園を見学することになりました。
まずは都市エリアの展示ホールの見学からスタート。千葉市の農林業が紹介されていて、地形や歴史、特産物などを解説するパネルやジオラマなどが設置されています。学生たちは展示に触れたり解説を読み込んだり
「千葉出身だけどこんなに農産物を作っているとは知らなかった」
「大学のすぐ近くでも、エリアによって特徴が違うのは驚き」
と誰もが興味津々の様子。

ただ、杉原さんからは
「情報がアップデートできていないのが実情。この展示方法は本当に魅力的で、来館意欲や好奇心を刺激できるだろうか?」
「もっと良い展示の仕方はないかな?」
と施設の抱える課題についての言及もあり、学生たちは様々に視点を変えながら展示を見つめ、課題を解決できる方法について考えていました。

その後、ふるさと農園で杉原さんが開催しているイベントの紹介も。夏期は流し素麺やスイカのタネ飛ばし大会などがあるそうです。その紹介の合間にも
「イベントのねらいってなんだと思う?」
「DAY1で話した日本の種子の自給率、覚えている?」
と質問を投げかける杉原さん。随所で、学生に農業を自分ごととして考えさせる工夫が垣間見られました。

次は都市エリアから道路をはさんだ向かいにある田園エリアに移動。移動しながら、マイファームがふるさと農園でどんな農業のスタイルを実践しようとしているかといった説明も。それぞれの区画について
「ここは企業とコラボし、タネからトマトを育て、イベントでケチャップを作りました」
「ここは子どもたちが耕すところから始めた畑」
「あそこでホップを育てていて、地元の醸造所とオリジナルのクラフトビールが造れないかなと考えている」
といった話があり、学生たちは取り組みの幅広さや様々な視点から農業関係人口を拡大しようとしているアプローチに驚いていました。

ふるさと農園の畑のほとんどは除草されず、自由に大量の草が茂っている状態です。それについて「有機農法のひとつの手法で、植物が自分の力を発揮して育つんだよ」と解説する杉原さん。

ズッキーニやオクラが伸び伸びと育っている様子には
「元気に育っているのがわかる」
「こんな風に実を付けるんだ」
と驚きの声も。それに対して
「管理は難しいし、育ち具合もバラバラ。均一な品質な野菜を大量に必要とする日本の農業には向かないんだ」
と、理想と現実の両立の難しさも指摘します。会話の端々に日本の農業が抱える課題やそれを解決するヒントを混ぜ込み、学生たちが考えるきっかけを与えているようでした。

「オクラは花も美味しいが、鮮度がすぐに落ちるので流通しにくい」と食べさせてくれる杉原さん。
見学が終わって調理室に戻ると、ピザ生地は夏の暑さでしっかり発酵が進み、予想以上に膨らんだ様子に驚く学生たち。その生地を広げ、農園で栽培したバジルなど好きなトッピングで味付けをしたら、田園エリアのピザ窯に向かいます。
ふるさと農園のピザ窯は「アースオーブン」。杉原さんがイベントで市民の方と作ったものです。農園の土を数メートル掘って採取した粘土に砂や藁を混ぜ、天然資材だけで作った「修理も簡単にでき、最後は自然に還すこともできる窯」だそうです。学生たちは自分で焼き具合を見ながら、ピザを焼成。

生地から自分の手で作ったピザに「おいしい」の声がたくさん聞こえてきました。
見て、歩いて、触れて、ピザを作って食べて、ふるさと農園を全身で体験した学生たち。良い所も、課題も見えてきたようです。最終講義では、いよいよ『千葉市ふるさと農園』を盛り上げる企画を考え、発表します。

学生ならではの斬新なアイデアが光った、講義最終日の企画プレゼン
DAY4から1週間、再度「千葉市ふるさと農園」に集まった学生たち。3班に分かれ、これまでの4回で学んだこと、感じたことを出し合い、企画案を練っていきました。
短い時間の中で、各自の意見をまとめ、発表用のプレゼン資料も作成。3班それぞれ個性的な企画が完成しました。
▶発表内容
1)「子ども主体の農業×食の居場所づくり」

ふるさと農園を、地域の子どもたちが放課後などに気軽に集まれる場所に。幼い頃から農業に触れることで、将来農業に関わりやすくすることを目指す。「子ども食堂」をベースに、単に食事を提供するのではなく、子ども自身が農業や食に主体的に関わる仕組みをつくる。
評価:「ふるさと農園×子どもの居場所×食」という新しい組み合わせと、子どもを単なる参加者ではなく「主体」にした点を高く評価。
2)「SNS映え×農業・自然」

10~30代の若者がメインターゲット。サブターゲットは親子・ファミリー層。ふるさと農園を「写真を撮りたくなる・SNSで発信したくなる場所」にし、農業や自然に興味がない人も訪れるきっかけとする。「農業・自然×アート」「季節のお花畑×体験」「農園×クリスマスマーケット」のイベントを考案。
評価:「興味がある人を集める」のではなく、アート・花・SNS・クリスマスなどを入口とし、農業に関心がない若者や親子を農業へつなげる提案を評価。
3)「ふるさと農園 秘密基地化計画」

市内の小中学生を対象とした工作スペース、交換ノートなどを設置し、放課後やイベントのない土日でも自由に過ごせる「秘密基地」のような場所を作る。イベントの時だけ訪れる場所ではなく、子どもたちが日常的に自然や農業に触れられる“居場所”に。日常的な来園をきっかけに農業への関心を高め、農業関係人口の拡大につなげる。
評価:新しい大規模イベントではなく、既存の農園・自然資源を活用して「日常的に人が来る仕組み」を作ろうとしている点を評価。
杉原さんはじめマイファーム、そして千葉市の農政課も感心する、柔軟な発想から生まれた発表内容となりました。
「講義を通して、日本や千葉市の農業の現状と可能性を知ったうえで、農業の課題を自分たちにも関係する『自分ごと』として考えてもらうことを期待していました。また、農業者側の視点だけで考えるのではなく、消費者・農業者・自治体・企業・教育機関など、様々な立場から『人と農を近づけるために何ができるか』を考えてほしいとも思っていました。発表では、農業を単に『野菜を育てる産業』としてではなく、子どもの居場所づくり、食育、地域交流、農業への入口づくりなど、幅広い視点から捉えてくれていた。特に、子どもが主体となる子ども食堂や、子どもたちが気軽に農業と関われる場所をつくる提案など、『農業に関心のない人にも、どうすれば参加してもらえるか』という視点が盛り込まれていたことが印象に残りました。学生ならではの柔軟な発想で、農業関係者だけで考えていると出てきにくい提案でした。とても良かったと感じています」と杉原さんから感想が伝えられました。
「千葉市ふるさと農園」を「野菜を育てる場所」から、子どもや若者、子育て世代、高齢者など、多様な人が農をきっかけに集まり、交流し、学べる地域拠点へ発展させる、今後に活かせる内容だった、と好評のうちに講義を終了しました。
5日間、多様な人と出会って話を聞き、様々な体験をした学生たちの声を紹介します。







真剣に学んでいた学生たちにとって、今後の人生に活かせる時間となったようです。
すべての人が農業と関わっている。それぞれの立場でできることを考えることが、農業の未来のためになる
今回の講義が終わりではなく、『農業の魅力発信コンソーシアム』では今後も様々なイベントを通して、農業界の関係人口拡大を目指していきます。
「農業が抱える課題は、農業者だけで解決するものではありません。農業には、食料を生産するだけでなく、人と人をつなぎ、子どもたちの学びを生み、地域のコミュニティを育てる力があります。だからこそ、農業者と消費者、自治体や企業、教育機関などが、それぞれの立場や強みを持ち寄ることが重要。農業への関わり方は、必ずしも農家になることだけではありません。直接でなくても、企画、教育、デザイン、IT、福祉、観光など、それぞれの専門性を生かして農業界を盛り上げることができるのです」

今回のような取り組みを一度きりで終わらせず、学生の提案を地域や現場とつなぎ、小さくても実践していく。それが農業を起点に、新しい地域の価値を生み出すために重要、とマイファームは考えているのです。そのために来年度も、また他の地域でも、マイファームは未来を担う大学生たちが「職業としての農業の魅力」を考える機会を積極的に提供していく予定です。ぜひご期待ください。
農業の魅力発信コンソーシアム事業の公式noteもご覧ください。
農業の魅力発信コンソーシアム事業では、株式会社マイファームの事例以外にも、全国の大学等でロールモデル農業者がリアルな声を直接届ける特別講義を実施しています。
ぜひ併せてご覧ください。
















