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【第2話】農業と気象の切れない関係。それでも毎日、野菜がスーパーに並ぶのはなぜ?【いま知っておきたい、これからの”食”の話】

【第2話】農業と気象の切れない関係。それでも毎日、野菜がスーパーに並ぶのはなぜ?【いま知っておきたい、これからの”食”の話】

毎日の食卓には、当たり前のようにお米や野菜が並んでいます。けれど、気象に大きく左右される農業の現場から見れば、その「当たり前」は決して当然ではありません。気象予報士の資格を持ち、農業と気象の両方に通じる宮井俊樹さんに、気象の変化が農産物にどんな影響をおよぼすのか、そしてその変化に備える生産現場の工夫について聞きました。

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【プロフィール】教えてくれた人

宮井俊樹さん
気象予報士(登録第1943号)
三井化学クロップ&ライフソリューション株式会社勤務。農業に関わる仕事をする傍ら、気象予報士の資格を活かして、JAや農業生産法人、流通業界に向けて、気象予報の見方や使い方を伝える講演活動を続けている。

同じ種をまいても、同じようには実らない

みなさん、はじめまして。宮井俊樹といいます。三井化学クロップ&ライフソリューションという農業を支える会社で働きながら、気象予報士としても活動しています。

子どもの頃から天気が大好きで、小学4年生のときには、年に何百枚もの天気図を描く「お天気少年」でした。気象庁の予報官になりたいという夢もありましたが、大学では「農業気象学」を学びたくて農学部へ進みました。ところが3年生のときに、希望していたゼミの先生が退任してしまい、思いは叶いませんでした。

それでも「いつか天気を仕事に活かしたい」という気持ちは変わらず、社会人になってから気象予報士の資格を取りました。今回はみなさんと一緒に天候と農業について考えてみたいと思います。

―― 天気と農業のつながりを、いつ実感されたのですか。

痛感したのは、社会人になった年です。北海道の親戚の畑が春の大雪に見舞われ、植えたばかりのジャガイモやタマネギがすっかりダメになってしまったんです。週間予報を見て植え付けを少し遅らせていれば、防げたかもしれない。そう思ったことが、気象にのめり込むきっかけになりました。

遅霜被害に遭ったジャガイモ

―― 同じ種をまいても、結果が変わるのはなぜですか。

工業製品は材料と手順が同じなら、いつ作っても1+1=2のように同じものができますが、農業は違います。相手が生き物だからです。同じ種をまいても、その年の天気しだいで収量や品質、食味は大きく変わります。ときには、1+1がマイナスになることさえあります。天気の影響が大きく、思い通りにならないこともある。これが農業の難しさです。

作物は天気によってこんなに違う

天候の影響と聞くと、猛暑や冷夏のような「悪いこと」を思い浮かべるかもしれません。でも、天気はいつも作物の敵というわけではありません。

―― 天気は、作物にどんな影響をおよぼすのでしょうか。

適度な高温や雨は作物の生育を助ける味方です。問題は、それが度を越して長く続いたとき。作物が耐えられる範囲を超えると、収量も品質も一気に落ちてしまいます。

たとえば昨年の夏の厳しい暑さでは、稲の実の入りが悪くなり、収穫量が落ちました。同じ年、干ばつも深刻でした。北海道の北見周辺では雨が降らず、ジャガイモやタマネギが大きな被害を受けました。この影響で全国的にタマネギが不足し、九州産の新タマネギが出回る春先まで品薄が続きました。「水をあげればいいのでは?」と思うかもしれませんが、畑は広大で近くに水道があるわけではないので降雨を待つしかありません。

水不足で枯れた作物

―― 夏以外の季節にも、作物は影響を受けるのでしょうか。

はい。たとえば一見おだやかな春にも、また難しさがあります。暖かくなって作物の生育が早まったところに冷え込みが来ると、霜で作物が凍ってしまうことがあります。花が咲いている時に凍った作物は、その後、実がつきません。特に果樹は、野菜のように植え付け時期をずらして逃げられないぶん、影響を受けやすいのです。

やっかいなのは、こうした天候の年ごとの「振れ幅」が大きいことです。昨年は雨の少ない空梅雨になり、各地が水不足に見舞われました。ところが、今年は一転して梅雨前線が活発で、台風も上陸しました。6月には北日本で冷たい北東の風「やませ」が吹き、田植え直後の稲の育ちに影響が出ています。昨年と今年を比べても、こんなに違う。同じ気象条件の年は、二度とないのです。

2026年6月6日~25日 20日平均気温・降水量の平年差(出典:気象庁HP)

害虫を呼ぶ天気とは

天気が作物を痛めるのは、暑さや寒さだけではありません。もうひとつ、やっかいな相手を連れてきます。

―― 害虫や病気の発生にも、天候が関係するのですか。

関係します。ここ数年で目立っているのが、春先の高温です。暖かくなるのが早いと、害虫が動き出すのも早くなります。害虫は世代交代を繰り返して増えていくので、暖かい期間が長いほどその回数が増え、数が一気に膨れ上がります。

とくに暑さに強い害虫は、ほかの虫が弱るような猛暑でも生き残って増えます。葉や実を食べたり、稲穂を吸って斑点をつけたり、見つけたときには手遅れになることもあります。

虫に食べられたキャベツ。高温が続くと害虫の発生が増える場合がある

―― 北海道でも、被害が広がっているそうですね。

はい。これまで北海道ではほとんど見られなかった害虫が多発したり、本州からの飛来が早まり世代交代を繰り返して大量発生するケースが増えています。砂糖の原料になるテンサイや、北海道の特産品であるトウモロコシも被害を受けます。

病害虫は、ある一線を超えると増えるスピードが人の手を上回ってしまいます。だから、週間予報や長期予報などの天気予報をみて予防的に手を打つことが、生産者の腕の見せどころです。

【現場の声】天候の変化に合わせて対策も変わる

千葉県でトマトを栽培する田邉良太さんは、近年、暖かい時期が長くなったことで、作物に被害を与える虫が以前より長く活動するようになったと感じています。そのため、害虫が入りにくい設備を整えたり、発生しやすい時期を予測しながら対策を見直したりしているそうです。天気の変化を見ながら栽培方法を工夫し続けることも、おいしい農産物を安定して届けるための大切な仕事なのです。

収穫は、ゴールじゃない

ここまでは、作物が無事に育つまでの話でした。けれど、農業の難しさは収穫で終わりません。

―― 収穫のあとには、どんな課題があるのでしょうか。

お店に並ぶ野菜や果物には、見た目や大きさなどの基準があります。例えば、凍霜害で傷がついた果実や、高温の影響を受けたお米は、おいしく食べられるものであっても、流通上の基準から店頭に並ぶ機会が少なくなることがあります。生産者は、私たちに安定して農産物を届けるため、病害虫や気象条件に対応しながら栽培に取り組んでいます。

―― 不作になると、私たちの食卓にどんな影響が出るのでしょうか。

産地の不作や病害虫の被害は、そのまま「品薄」や「値上がり」につながります。毎年、同じ量を、同じ品質で、同じような値段で届ける。実はこれ、農業ではかなり難しいことなんです。天候は毎年変わりますし、想定を超える暑さや干ばつが来れば、どんなにがんばっても同じようには作れません。

天気と農業をつなぐ人になる

ここまでの話では、農業は大変なことばかりに思えるかもしれません。でも、みなさんにいちばん伝えたいのは、ここからの話です。

―― 天気に振り回されるのに、なぜ食べ物は安定して並ぶのですか。

その裏には、生産者の工夫があります。たとえばお米なら、水の入れ方を変えて高温をしのいだり、暑さに強い品種を選んだり。こうした対策を、天気予報と組み合わせて先回りして打つことで、天気による損失を最小限に抑えているんです。日本の農作物の品質が世界でも高い水準にあるのは、その積み重ねの結果です。

―― 農業と天気の分野で活躍できる余地はありますか。

大いにあります。農業に役立つ予報は、実はもうあるんです。でも、それを農家に届ける仕組みが育っていない。天気予報の多くは街の暮らし向けで、農業に特化して伝える会社も少ないんです。気象と農業の間には、埋められていない「すきま」がたくさんあります。

現場がほしいのは「明日からの天気に合わせて、今日これをやろう」と行動につながる情報。気象データと病害虫の発生を組み合わせて、「どこでどんな虫が増えそうか」をAIで先読みする挑戦も始まっています。

裏を返せば、切り開ける余地が大きいということ。天気を読む力と作物を育てる知恵をつなぐ仕事は、これから必要とされる分野です。

農業は、知恵と技術で自然に挑む、奥深い産業です。その担い手に、みなさんもなれます。まずは毎日の天気予報を「確率とリスク」として眺めてみてください。世界の見え方が少し変わってくるはずです。

―― 宮井さん、ありがとうございました。次回は、崩れやすいバランスを支えている「食を安定して届ける仕組み」に迫ります。(取材・文=マイナビ農業企画制作部)

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