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ベテラン農家が大暴走! 飲み会で勃発したアルハラ&セクハラの火消しに奔走

ベテラン農家が大暴走! 飲み会で勃発したアルハラ&セクハラの火消しに奔走

異世界のルールに揉まれながらも努力を重ね、ついに地域農家の部会長になった僕・平松ケン。一見すると華々しく聞こえるかもしれないが、実際にはベテランと若手の間に挟まれて気を遣い続ける「農業版・中間管理職」のような日々が待っていた。
部会長に就任以降、新規就農者の獲得に力を入れてきた僕は、研修を終えた若者たちを迎え入れるにあたり、ベテランも交えた新年会を企画。久々の交流の場で親睦を深められる…はずだった。ところが当日、酒席でベテラン農家たちが羽目を外して大暴走。時代錯誤な言動が飛び交い、新人たちの心に大きな不信感を残すことになったのである。

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本記事は筆者の実体験に基づく半分フィクションの物語だ。モデルとなった人々に迷惑をかけないため、文中に登場する人物は全員仮名、エピソードの詳細については多少調整してお届けする。
読者の皆さんには、以上を念頭に読み進めていただければ幸いだ。

前回までのあらすじ

農業知識も経験もゼロの僕・平松ケンが飛び込んだのは、常識が通じない“異世界”のような農村社会だった。しきたりや独自ルールに振り回され、何度も心が折れかけながらも、少しずつ地域に受け入れられ、気づけば地元農家を束ねる部会のリーダーを任されるまでになった。

新規就農者の育成に力を注ぎ、部会を盛り上げようと走り続ける中で、かつての“ラスボス”である、元部会長の徳川さんから「そろそろ潮時かもしれない」という思いがけない弱音を聞く。そこで初めて、ベテランたちが抱える疲れや限界を現実として突きつけられた。

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さらに、部会を支えてきたベテラン農家が一人、また一人と辞めていく事態に直面。地域の農業を未来につなぐには、新人を育てるだけでは足りない。今いる農家が無理なく続けられる環境を整えること――その重要性を、僕は痛感するのだった。

育成塾から2人が新規加入!

僕が部会長に就任してから、特に力を入れてきたのが「担い手育成塾」だ。

地元JAと行政がタッグを組んで次世代の担い手を育てる取り組みで、僕自身も受け入れ側として積極的に関わってきた。

そして今年の秋、ついに2人の若者がこの地域で就農することになった。20代の片桐くんと、30代の小早川さんだ。

片桐くんは最初から「この部会に入りたい」と希望していた。しかも、近くに移住してきて「地元密着でやりたい」と言うくらい、本気度が高かった。

一方の小早川さんも、2年間の研修期間を経て「平松さんのところで頑張りたい」と言ってくれた。研修に力を入れてきた僕にとって、これほどうれしいことはない。

正直、「やっぱり僕が頑張ったからだよな」と少し浮かれもした。だけど同時に思った。ここからは技術よりも、部会の中でうまくやっていける空気をつくらないといけない。

以前は研修旅行や親睦会が定期的に開催され、じっくり顔を合わせて情報交換する場があった。しかしコロナでそれが止まり、集まる機会がほとんどなくなっていた。

「ちょうどいい。来年1月に新年会をやろう!」

そう決めた僕は、関係各所と調整し、部会員全員に案内状を郵送した。

新年会で親睦を深めるつもりが…

迎えた当日。新人2人は、少し緊張した面持ちで会場にやって来た。

「今日はよろしくお願いします」

声を揃える片桐くんと小早川さんに、僕は笑顔を見せながら返した。

「大丈夫。昔に比べたら、みんな丸くなったから。心配しなくていいよ」

定刻になると、座敷には40人ほどが集まっていた。いつも畑で顔を合わせる農家たちはもちろん、農協の職員、資材関係の業者、僕たちの野菜を買ってくれている取引先の顔もある。

僕が挨拶をして乾杯が終わると、会場のあちこちで笑い声が上がり、久しぶりの空気に場が温まっていった。

そんな様子を眺めながら、僕も乗り遅れまいと、先輩農家や取引先の人たちにお酌をして回った。

「いつもありがとうございます」
「久しぶりですね。お元気そうで何よりです」

あっという間に30分ほどが経ち、酔いが回って少し心地よくなってきた頃、ふと、新人2人の様子が気になった。

(そういえばあの2人、上手くやれてるかな?)

そう思って末席の方に目をやると、片桐くんがうつむき加減で黙々と食事をしているのが見えた。

新人2人が「昭和のノリ」の餌食に

「どうしたの?」
僕が近寄ると、片桐くんは申し訳なさそうに笑った。

「すみません。こういう席にあんまり慣れていなくて。会社勤めの時もコロナで宴会がなかったもんですから……。しかも僕、お酒が飲めないんです」

ああ、そういうことか――と僕が頷いた、そのときだった。
僕の姿を見つけた徳川さんが、ずかずかと近づいてきた。かつての“ラスボス=部会長”である。

「おお、ケン!飲んどるか?」
右手にはビール瓶。勢いのまま、今度は片桐くんに向き直る。
「おお!新人君か!ほら、飲んどるか? 無礼講だ、飲め飲め!」

片桐くんが「すみません、お酒が飲めなくて…」と小さく言うと、徳川さんの顔色が変わった。
「なに?俺の酒が飲めないっていうのか!」

(まずい)
僕は反射的に割って入った。
「まあまあ!僕が代わりに飲みますから、注いでくださいよ!」

隣では小早川さんも別の農家に捕まっていた。こちらはお酒は大丈夫そうだったが、話題がよろしくない。
「結婚はまだしてないのか? そりゃ早く嫁さんを見つけた方がいいぞ!」
そう言いながら笑う先輩農家とは対照的に、小早川さんの顔は引きつっていた。

盛り上げたい気持ちは分かる。だけど、これは“親睦”の範囲を明らかに超えている。
本来なら止めるべきだろう。それなのに僕は、その場をただ見守るしかなかった。

思いがけない指摘に絶句……

新年会が大失敗に終わって数日後、畑で片桐くんを見つけた僕は、まず謝った。
「あの時はごめん。部会長として、ちゃんと止められなかった」

片桐くんは「いや、いいです」と言いながら、はっきり続けた。
「ある程度、覚悟はしてましたから。でも、あれは完全にアルハラですし、小早川さんには完全にセクハラでしたよね」

返す言葉がない。僕は改めて頭を下げた。

すると片桐くんは、「それから…」と少し言いにくそうに前置きして、こう言った。

「前から気になっていたんですけど、なんで僕だけ『君付け』なんですか。今は『さん付け』が当たり前ですよね? 親しみを込めているつもりかもしれないけど、何の断りもなく呼び続けられるのは、正直ちょっと嫌です」

片桐くんは、研修の頃から“言うべきことは言う”タイプだった。僕の助言にも、別の農家のやり方を引き合いに出しながら自分の考えを返してくることがあった。

でも、その姿勢を「生意気」と片づけてしまったら、たぶん僕はまた同じことを繰り返す。

――気づけば僕自身も、無自覚にハラスメントを犯し続けてきたのかもしれない。

片桐くんの言葉は、新年会の失敗以上に、僕の心に深く突き刺さった。

レベル33の獲得スキル「今一度、無自覚なハラスメントに注意せよ!」

農業の世界に足を踏み入れてみると、「ここはまだ昭和なのか?」と思うほど、コンプライアンス意識が欠如した“無法地帯”のような場面に遭遇し、愕然とすることが少なくない。若い世代を中心に少しずつ変化は見られるものの、酒席での強要や、私生活に踏み込む言動など、さまざまなハラスメントがいまだに横行しているのが実態だ。

若い世代の新規就農を増やすためには、必要な技術を習得できる環境を整えることが欠かせない。しかし、それと同じくらい重要なのが、受け入れる側―、つまり先輩農家たちが自らの意識を変え、ハラスメントのない環境をつくることである。

「自分は大丈夫」「悪気はない」という感覚こそが、無自覚な加害につながる。だからこそ、今一度立ち止まり、相手との距離感や場の空気のつくり方を“令和仕様”にアップデートしていく必要がある。それが、若い世代の人たちに農業を「魅力的な仕事」と感じてもらうための最初の一歩になるはずだ。

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