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「農業はもうからない」を覆す 証券会社が実践する新しい農業の勝ち筋

「農業はもうからない」を覆す 証券会社が実践する新しい農業の勝ち筋

「金融会社が、なぜ農業をやるのか?」この問いに現場で答え続けているのが、大和証券グループの農業事業だ。
同社は2018年、農業を本業とする大和フード&アグリを設立 した。異業種から農業への参入自体は珍しくない。しかし、大和証券グループが他と一線を画すのは、自ら農園を持ち、高度施設園芸による「生産の現場」に深く踏み込んでいる点にある。
北海道、静岡県、大分県。気候も市場も異なる地域で農業経営に挑みながら、同社が描くのは「金融の視点から、持続可能な農業を実現する」こと。その挑戦は、すでに数字と現場の両面で形になりつつある。

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海外では農業に投資が集まっている

大和証券グループは、なぜ農業に踏み出したのか。
「世界を見渡すと、農業への投資感度は年々高まっています」そう話すのは、大和フード&アグリの上村翔(うえむら・しょう)さん。証券会社として市場と向き合ってきた同グループにとって、農業は“異質”な分野ではなかったという。

証券ビジネスは、市場環境の影響を大きく受ける。だからこそ同社は、長期視点で安定した収益を生む事業の必要性を感じていた。その選択肢の一つが、農業だった。
「海外では、農業の収益を投資家に分配するファンドも珍しくありません。ただ、日本では『農業はもうからない』という固定観念が強い。ならば、自分たちで“もうかる農業”を実践し、その仕組みを証明しようと考えました」
同社は、農業法人を次々とグループに迎え入れた。株式会社みらいの畑から、株式会社スマートアグリカルチャー磐田、株式会社北海道サラダパプリカという子会社は、いずれも圃場(ほじょう)を持ち、生産の最前線に立つ会社だ。

スマートアグリカルチャー磐田

M&Aで事業再生するスタイル

上村さんはスマートアグリカルチャー磐田の副社長、北海道サラダパプリカの代表取締役社長も兼務している。これらを含めた三つの子会社は、いずれも他社が運営していた農園だった。大手企業がスタートさせたものの、採算が合わず、事業として行き詰まっていたケースも少なくない。大和フード&アグリは、そうした農園をM&Aで引き受け、ターンアラウンド(事業再生)に挑んできた。

「投資先として重視したのは、効率性と再現性です。高度施設園芸であれば、気候変動リスクを抑えられますし、培地や環境制御のノウハウを他地域にも横展開しやすい」
だが、高度施設園芸だからといって成功できるというほど簡単ではない。同社としても苦労は重ねてきたという。
「例えば、スマートアグリカルチャー磐田は害虫に苦労させられました。害虫の天敵を取り入れたり、物理防除を施したり。なるべく自然なかたちで対策を取りました。農薬に過度に依存せず、環境と生産性の両立を探る試行錯誤の連続でした」
燃料費の高騰といった外部環境の変化も経営を圧迫する。
そこで同社は、栽培から販売、営業までを一気通貫で内製化。出荷工程には機械を導入し、少しずつだが確実にコスト構造を見直してきた。
また、選果工程においても、品質管理と営業・生産の調整を担い、生産現場と市場をつなぐ役割を果たせる経験者を採用するなど、農業経営に新たな視点を持ち込むことにも力を入れている。

大和フード&アグリの上村翔さん

国産パプリカで“トップクラス”へ

スマートアグリカルチャー磐田の栽培施設は3ヘクタール。グローバルGAP認証を取得し 、パプリカを安定的に生産している。
同じく北海道サラダパプリカでもパプリカを栽培しており、グループ全体としては国産市場でもトップクラスの生産量を誇る存在だ。
なかでも主力となっているのが、オリジナルブランド「プリンセスパプリカ」だ。
ベル型のパプリカは「プリンセスパプリカ」、クサビ形のパプリカは「プリンセスパプリカ極甘」として展開している。
とくに「プリンセスパプリカ極甘」は、機能性だけでなく味覚面でも大きな特徴を持つ。ビタミンCやGABAを豊富に含むことに加え、通年で糖度8以上という高い甘さを実現。糖度8はイチゴに匹敵する水準で、フルーツのような甘みと、リンゴを思わせる爽やかな香りが特徴だ。

人が1日に必要とされるビタミンCは約100mg(厚生労働省調べ)だが、パプリカ1個には約300mgが含まれる。GABAについても、血圧低下が期待される機能性成分として評価され、「プリンセスパプリカ」はパプリカとして国内初のGABA機能性表示食品となっている。まさに「1個で健康をサポートする」優秀な野菜といえる。

ベル型の「プリンセスパプリカ」

通常サイズより大きく甘くてジューシーな「プリンセスパプリカ極甘」

ビタミンCを効率よく摂るには生食がおすすめだが、パプリカは加熱しても栄養が壊れにくいのが特徴だ。炒める、焼く、揚げる、蒸す――調理法を選ばず、日々の食卓に取り入れやすい点も強みとなっている。

Instagramではパプリカを使ったレシピも紹介されている

「北海道サラダパプリカのある釧路市からは、札幌市までも約500キロ。基本は地産地消のほうが最終単価という点でもメリットが大きい。輸送費なども見たうえで、皆がWin-Winになれるようにやっていきたいと考えています」(上村さん)
3社は独立採算を原則としながらも、燃料費や生産量といった共通KPIを週次で共有。地域を越えたナレッジの循環が、経営を下支えしている。

機械化とブランディング その先に目指すもの

大和フード&アグリは、農業生産にとどまらず、加工品の開発・販売、農業経営コンサルティング、投資関連事業へと事業領域を広げている。
今後、特に力を入れるのが「機械化」と「ブランディング」だ。
選果場の自動化や、夏場に40度近くまで上がる施設内作業の省力化など、現場負担を減らす機械化を進める一方で、同社は強固なブランドづくりこそが最大の参入障壁になると考えている。「栄養価や機能性だけでは、いずれ模倣されてしまう。だからこそ、ブランドとして選ばれる存在になることが重要です」(上村さん)
来夏には、クサビ形パプリカを見たときに「クサビ形」ではなく「プリンセスパプリカ」と想起してもらえるよう、パッケージの刷新も予定している。

前会社から引き継いだ選果場。既存の設備を生かしながら改良を続ける

また、生産から保管、販売までを一気通貫で行うことで、選果・検品の質を徹底管理。一定期間保管した果実は全品検査を行った上で出荷するなど、高い品質水準を維持し、消費者の信頼を裏切らない体制を築いている。

さらに、ジョナサン、セブン‐イレブン、地元スーパーの遠鉄ストア、帝国ホテルの洋菓子店などとコラボレーションし、「プリンセスパプリカ」の名を冠した商品開発にも取り組む。こうした外食・小売との連携を通じて、ブランド認知の拡大を図っている。
「現場を改善し、人を育て、ブランドを磨きながら安定的に収益を上げる。そのすべてを同時に進めることが重要だと考えています」(上村さん)
金融の論理だけではなく、農業の現実に向き合い続ける。その積み重ねが、大和フード&アグリの描く「持続可能な農業」を、少しずつ現実のものにしている。

(編集協力:三坂輝プロダクション)

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