困り圃場が“収益源”に変わる——セロリという選択

株式会社やさいの樹 代表 塚本桂子さん(左)と休耕田だった圃場一面に広がるセロリ
「水はけが悪い」「日陰で色が上がらない」。
こうした“困った圃場”を抱えながら、野菜への転作の決め手が見つからない生産者は少なくありません。排水性や定植のタイミングは品目選びの難所でもあります。
静岡県菊川市の「やさいの樹」さんも、もとはレタスを中心に栽培していましたが、水田の圃場では品質が安定せず悩んでいました。そこで導入したのがセロリです。試験栽培からスタートし、現在は2.5ヘクタールの規模で本格栽培<を実現。畑一面に青々と茂るセロリの姿は、圃場の適性と品目を見直すことで生まれた成果でした。
セロリは、際立った低温作物で、温暖化が進む中、地域や時期によっては管理が難しくなる場面もありますが、圃場の環境をよく調べ、自分の圃場にマッチした適切な作型や栽培方法を見つけることで無理のない導入計画が立てやすくなります。
湿地原産の力——セロリの基礎知識
セロリはヨーロッパの湿地帯原産で、生育適温は 15〜22℃。乾燥に弱く、水持ちのよい圃場を好む性質を持っています。根は細く広く分布し、有機物に富む土壌で健全に育ちます。また、播種から収穫までは 150〜180日 と長期間を要するため、時間をかけてじっくり育てる作物です。
セロリには大きく分けてイエロー系(コーネル系)とグリーン系(ユタ系)の二つのタイプがあります。
イエロー系(コーネル系)
・淡い色でわき芽が多い
・環境変化に敏感で、生育は遅い
・繊維がしっかりしていて香りはマイルド
グリーン系(ユタ系)
・濃緑色でわき芽が少ない
・病気に強く、生育が早い
・繊維は少なく、食感がよい
イエロー系のコーネルは、ジベレリン処理によって3kg近くまで大きくなることもあります。
一方グリーン系は従来のイエロー系より小さい、1~1.5kgほどの重さを目標に収穫するため、「ミニセロリ」と呼ばれています。
特に転作で“初めてセロリに挑戦する”場面では、品質が安定しやすいグリーン系を採用する生産者が多い傾向にあります。
また、セロリは光の飽和点がそれほど高くなく、ほかの葉物野菜に比べて日陰の影響を受けにくい点も特徴。影ができやすい圃場でも光を拾いやすく、一定の生育を確保しやすい作物といえます。
水はけが悪い圃場でこそ生きる理由
ほとんどの作物にとって「水はけの悪さ=マイナス要素」です。しかしセロリは湿地原産で、水持ちのよい圃場と相性がよい野菜。むしろ十分な水がないと育たないという特性を持っています。
もちろん、湛水(たんすい)は厳禁。軽く溝を切る、通路へ水を逃がす、必要なら高畝にする——といった最低限の排水対策は必要です。ただし特別な設備や大掛かりな工事は不要。雨後の見回りで“水がたまりやすい場所”を把握し、その部分だけ対策すれば十分です。
また、立性で上に伸びるセロリは、日陰の影響を受けにくく、葉全体に光を必要とする作物に比べて栽培の許容範囲が広いともいえます。これが、やさいの樹さんの事例における「レタスでは厳しい圃場でセロリが育つ」という結果につながる理由のひとつです。
水の動きを理解し、水がたまらない工夫さえできれば、“他の野菜への転作が難しい圃場”が“セロリの適地”へと変わります。

セロリの作型図
品種選びで変わる収量と“作業のしやすさ”
セロリの品種選びは、収量だけでなく作業効率にも大きく影響します。
やさいの樹さんでは、「ミツバリアン」と「グリーンムカイ」を並べて試作しており、2品種の違いが一目でわかる状況でした。
「ミツバリアン」はスッと立ち上がる姿が美しく、「グリーンムカイ」は株張りがよくボリュームのある姿——同じ条件で並べると、用途別のイメージが鮮明に浮かび上がります。
「ミツバリアン」
立性が強く、わき芽が少ないため調整がしやすい品種です。
第1節間が長く、暑さが残る季節でも姿が乱れにくい点が魅力。
スティック用途にも適しており、7cmカットを3本そろえるために必要な“21cmの長さ”が確保しやすいことが特徴です。袴(はかま)が締まってまっすぐ立ちやすい草姿のため、スティックの形もきれいにそろえやすく、作業性のよさにも直結します。
こうした理由から、
✔スティックが取りやすい
✔丸茎できれい
✔より密植できる
という三つの強みが、ミツバリアンを“現場で使いやすいセロリ”として際立たせています。
「グリーンムカイ」
「グリーンムカイ」は、株張りがよくボリュームのある草姿が特徴の品種です。
低温期に向かうにつれて株張りがより強くなり、ゆっくり育つ分だけ重量がしっかりのる点が大きな魅力です。
また、食味がマイルドで香りのクセが出にくいため、
“セロリが苦手な方の入門品種”としても使われることが多い品種です。
こうした理由から、「グリーンムカイ」は
✔ 1株重をしっかり大きくしたい
✔ 低温期にじっくり作り込みたい
✔ マイルドな風味で、幅広い用途に対応したい
という生産者に特におすすめしたい品種です。
そして、やさいの樹さんが強く評価していたのが、
「1本ずつの出荷がしやすいほどサイズがそろう」 という点。
中心だけはどうしても差が出ますが、それ以外はほとんど同じサイズ感でまとまるため、
・サイズ別の仕分けがほぼ不要
・選別作業が極端に減る
・作業スピードが上がる
結果として、ロスが出にくく収益性が高いセロリとして高く評価されています。

中心部を除き、1本ずつのサイズがほぼそろっている「グリーンムカイ」
「ミツバリアン」と並べて栽培した圃場では、「どちらもよいが、狙う方向性が違う」というのが一目でわかるほど差がはっきりしていたのが印象的でした。
使い分けの考え方
「ミツバリアン」は暑さが残る季節
「グリーンムカイ」は涼しい季節
に品質を発揮しやすい特徴があります。
単一品種でも成果は出せますが、気温に合わせて使い分けることで、より品質と収量を安定させることができます。
「まずは単品種で小規模に試す」「慣れた段階で使い分けへ移行する」という段階的な導入も現実的な方法です。

暑い季節は「ミツバリアン」、涼しい季節は「グリーンムカイ」の使い分けがおすすめ
導入のコツ(すぐ使える3ステップ)
1.小さく始める
数アールなど、小規模からスタートして栽培特性をつかむ。
2.水を逃がす習慣
雨後の見回りで圃場の傾斜や“水がたまる場所”を把握し、溝切りや通路への誘導など簡単な排水を実施。
3.季節で品種を変える
夏は「ミツバリアン」、冬は「グリーンムカイ」。
気温適性に合わせることで品質と収量が安定する。
まとめ
水はけに悩む圃場でも、セロリなら生かせます。
湿地原産という特性を持つセロリは、一般的な葉菜とは異なる“適地の幅広さ”を持っています。
水が残りやすい圃場でも、湛水(たんすい)さえ避ければ適性がある。
立性で日陰に強く、作業動線も組みやすい。
品種選びと導入の3ステップで成功率が上がる。
圃場に眠った可能性をもう一度引き出したい生産者の皆さんへ。
「ミツバリアン」と「グリーンムカイ」という新しい選択肢が、収益化への第1歩になるかもしれません。
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