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20店舗→3店舗への大リストラ。どん底の「旬八青果店」が売上3倍・粗利率42%に大化けした理由

鈴木 雄人

ライター:

20店舗→3店舗への大リストラ。どん底の「旬八青果店」が売上3倍・粗利率42%に大化けした理由

アパレル業界のSPAモデル(※)を食の分野に応用した「SPF」モデルを掲げ、急成長を遂げた会社をご存じだろうか。都市型八百屋「旬八青果店」などを手がける株式会社アグリゲートだ。今でこそ業界平均を圧倒する高収益企業として知られる同社だが、その道中では「(店舗を)拡大するほど赤字が膨らむ」という事態に直面していた。最大20店舗から3店舗への大幅な事業縮小という、痛みを伴う決断から数年。いかにして、強固な収益基盤を再構築したのか。データ活用による徹底した「仕組み化」について、代表取締役の左今克憲(さこん・よしのり)さんに話を伺った。
※商品の企画・開発・製造から物流、販売までを一貫して自社で手掛ける垂直統合型モデル

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27歳で起業し、中目黒の1号店を皮切りに都心に9店舗の「旬八(しゅんぱち)青果店」を運営する株式会社アグリゲート代表の左今さん。自社農場も展開しながら、都市と農家をつなぐ八百屋を目指し、おいしい野菜を適正価格で消費者に届け…

独自のSPFモデルで「三方よし」の実現を目指す

株式会社アグリゲートは、「未来に“おいしい”をつなぐインフラの創造」をミッションに掲げる食農スタートアップです。同社の核となる強みは、アパレル業界のSPA(製造小売業)を食の分野に応用した独自の「SPFモデル」にあります。

これは企画・仕入れから販売までを一貫して自社で行うモデルのこと。バイヤーが全国の産地を巡り、さまざまな農産物を買い付けます。その中で特徴的なのは、味は良くても規格外とされる青果物に価値を見出し、生産者・販売者・消費者の3者が納得の適正価格で買い付けられている事です。流通コストを削り生産者の収益を上げつつ、消費者には新鮮な食を届ける。この「三方よし」の仕組みを、以下の4事業を柱に展開しています。

小売事業:「旬八青果店」「旬八弁当店」の運営
PR事業:産地やメーカーの魅力を発信
HR事業:食農業界の人材育成を行う「旬八大学」
卸・通販事業:独自の流通網を活用した青果卸・オンライン販売

旬八青果店 大崎広小路駅前店(雲仙市コラボ店)

急成長の裏で直面した「構造的な欠陥」と「痛みを伴う決断」

独自のSPFモデルを掲げたアグリゲートは、2013年に「旬八青果店」1号店をオープンして以降、徐々に店舗数を拡大。メディアにも頻繁に取り上げられ、2016年頃には農場運営や弁当製造、卸売、小売などサプライチェーンの全プロセスに同時に取り組み、2018年頃には店舗数を計20店舗にまで急拡大しました。

しかし、その裏では深刻な課題に直面していました。

「当時は、各拠点の利益が本社コストを上回れば黒字化するというロジックを描いていました。しかし現実には、店舗が増えるほど赤字が膨らむばかり。1店舗あたりの収益性が低すぎる上に、本社側も筋肉質な運営体制を作れていないという課題がありました」(左今さん)

当時の平均月商は400万円台、客単価は500〜600円程度にとどまっていたと左今さん。投資家からも「オペレーションやマネジメントの弱さ」を指摘され、2019年に「筋肉質な組織への改造」という決断を下します。

農場や製造事業から撤退し、店舗を次々と閉店。1店舗当たりの利益率を高めるために、20あった店舗をわずか3店舗にまで縮小させました。規模縮小に伴い、従業員に辞めてもらう時が、経営者として最も苦しい時期だったと語ります。

「当時から掲げているミッションやビジョンに共感し、ここなら何かを成せると思って入社してきたメンバーからすると、完全に裏切りのようなものだったと思います。ですが、このまま売上規模を伸ばしても、店舗の収益性が低く本社のマネジメント体制も整っていないため、いつ店舗の利益の合計が本社コストを乗り越えて黒字化するのかが見えず、資金調達していたお金が尽きれば倒産するだけでした。そのため、このままだといずれ沈んでゆく船に何も手を加えずに黙って一緒に乗せておくのではなく、罵倒されようが正直に現状を謝罪し、将来的に『あの会社には自分がいたんだ!当時は酷かったけどね』と笑い話で語ってもらえるくらいになれるように、一度立ち止まって、仕組みをゼロから再構築する必要があると決意しました」

痛みを伴ったリストラと事業縮小。しかし、この「立ち止まる」決断こそが、アグリゲートを現在の高収益企業へと生まれ変わらせる最大の転機となりました。

旬八青果店の青果売り場

「失敗」から生まれた成長戦略。業界平均を圧倒する数字の裏側

一度立ち止まり、事業を「小売店舗の運営」に集中させたことで、アグリゲートは利益率を確保する「仕組み化」に成功。業績がV字回復した現在は、旬八青果店を8店舗、旬八弁当店を4店舗(2026年3月6日時点)まで再び拡大しています。

どうやって利益率を改善してきたのでしょうか。具体的な中身を見ていきましょう。

まず特筆すべきなのが、青果粗利率42.2%という数字です。これは一般的なスーパーの23.2%と比較して約2倍近い水準。さらに、狭小店舗を高回転させる戦略により、1平米あたりの年間売上は486万円に達し、一般的なスーパーの125.3万円を大きく引き離しています。

かつて月商400万円台だった1店舗あたりの売上は、現在では約1300万円へと3倍以上に成長。そのV字回復を支えたのは、主に以下の3つの改革でした。

外部との連携も活用

「以前はSPFモデルの完成形態に固執し、農場から弁当製造まで全てを自社で抱えようとしていました。しかし、こうした多角化はマネジメントの負荷を増大させ、赤字の原因になっていました」(左今さん)

現在は「自社でやるべきこと」と「外部に頼るべきこと」を明確に仕分け。自社農場からは撤退し、生産者や市場からの仕入れを強化。お弁当の製造工程も外部パートナーと連携することで、本部コストの削減とクオリティの安定を両立させました。

旬八青果店のお弁当

人材育成の可視化と「接客」が生み出す高い客単価

元々、「旬八大学」といった人材育成にも取り組んでいた同社。しかし、当時は数字に繋がる仕組みになっておらず、感覚的な教育にとどまっていたといいます。

そこで現在進めているのが、成績を出している店舗スタッフのスキルを要素分解し、現場へ落とし込む教育改革です。現場のスタッフが行う作業的なタスクをできる限り減らし、「考えること」や「伝えること」といった、より付加価値の高い業務に集中してスキルを伸ばせるよう環境を整備。その具体的な施策として現在、袋詰め作業の外部化なども進めているといいます。

徹底した業務の効率化によって、ゆくゆくはスタッフ全員が商品のストーリーを届ける「伝達者」として活躍できる体制を目指し、育成に力を入れています。こうした教育への取り組みと時給評価を連動させた結果、スタッフのモチベーションが向上し、客単価は500円前後から1,000円前後へと倍増しました。

商品ラインナップの最適化とデータ活用

それまで、「八百屋+弁当」を扱っていた旬八青果店。初期投資はかかるが、店舗の箱を従来より大きくし、牛乳や納豆などの「日配品」を加えた500〜600SKUの構成に拡大することで、日常使いできるインフラへと進化。POPや店員の接客を駆使することで、「ついで買い」を誘発し、客数も倍以上に増加しました。

その他、セミセルフレジ、独自の発注・在庫管理システムの開発などいわゆるDX化を推進。また、ポイントカードを活用し会員の購買動向をサブスクECが行うPUやARPPUという軸で分析しました。今後はLINEと連携させてポイントカードもデジタル化していくそうです。

日配品は株主でもあるオイシックス・ラ・大地株式会社と連携

これからの旬八青果店が担う役割

自らの事業で急拡大と縮小という「天国と地獄」を見た左今さんは、今後の小売業界に起こる「二極化」を見据えています。

スーパーマーケットの「画一的な売り場」化

スーパーマーケット業界では、生き残りをかけたM&A(合併・買収)が加速。企業規模が大きくなればなるほど、仕入れや物流の「効率」が最優先されます。

集中購買の弊害:何百店舗分もの商品を一括で仕入れるため、扱う商品は「大量かつ安定的に供給できるもの」に限られます。その結果、地域の小さな農家が作る珍しい野菜や、旬の短い希少な果物は、物流システムに乗せることができず、棚から消えていきます。

物流の合理化による地域性の喪失:配送コストを下げるために巨大な物流センターを経由させると、どの地域の店舗にも同じセンターから同じ商品が届くようになります。「地方の店舗なのに、商品は都心のセンターから届く」といった状況が生まれ、土地ごとの個性や季節感が失われ、どこを切っても同じ顔の「つまらない売り場」になってしまうのです。

個店経営の八百屋に立ちはだかる「3店舗の壁」

だからこそ、特定の地域で愛される、こだわりを持った個人の八百屋が求められるでしょう。しかし、それらが多店舗展開しようとすると、必ずと言っていいほど「3店舗の壁」にぶつかります。

属人化からの脱却不能:1〜2店舗までは、店主一人の「目利き」や「カリスマ性」で経営が成り立ちます。しかし、3店舗を超えると、店主が全店舗に目を光らせることは物理的に不可能になります。

マネジメントの不在:多くの個人店は、教育や運営が「背中を見て覚えろ」という感覚的なものになりがちです。仕組み(マニュアルやITシステム)がないまま店舗だけを増やすと、接客の質が落ち、在庫管理が乱れ、利益率が急激に悪化します。

「拡大=劣化」のジレンマ:結局、拡大しようとすればするほど、店主のこだわりが薄まり、経営が不安定になるため、多くの志ある個人店が小規模なまま留まらざるを得ないのが実情です。

「だからこそ私たちの役割は、効率化された量販店にはない『発見や楽しさ』を、ITと仕組みによって多店舗展開すること。いわば『都心にある道の駅』『食のセレクトショップ』のような存在を目指します」

取材当時、イチゴだけでも6種の産地も生産者違うものが並んでいた

2029年IPO、そして2032年海外進出へ

強固な収益基盤を築いたアグリゲートは、再びアクセルを踏みます。

直近の計画は以下の通り。

2026年:五反田TOCビルへの再出店を含む4つの新店舗展開
2028年:60店舗体制を目標
2029年:IPO(上場)を見据えた100店舗体制へ

新店舗:旬八青果店 五反田TOCビル店

さらに、これまでの30坪モデルに加え、月商5,000万円を叩き出す100坪クラスの大型店開発も構想中。その先には、東南アジアを中心とした海外展開も視野に入れているといいます。

「このまま事業を展開していったとしても、日本国内だけではいつか限界が来ます。また、東南アジアの都市部でも効率化が進み、日本と同じような食の課題が生まれています。だからこそ、その課題を解決するためにも私たちが作り上げた『旬八』というシステムそのものを輸出したいと考えています」

一度は急拡大の波に飲まれ、苦渋の決断で事業を縮小したアグリゲート。しかし、その「失敗」で終わらせず、痛みを伴いながら作り上げた「仕組み」こそが、現在の圧倒的な利益率と成長の源泉となっています。

自らの価値を高め、規模の拡大と経営安定を目指すすべての生産者・事業者にとって、同社のV字回復の軌跡は、未来を生き抜くための確かな羅針盤となるはずです。

取材協力

株式会社アグリゲート

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