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地方と都市を野菜でつなぐ。アグリベンチャーの挑戦

地方と都市を野菜でつなぐ。アグリベンチャーの挑戦

27歳で起業し、中目黒の1号店を皮切りに都心に9店舗の「旬八(しゅんぱち)青果店」を運営する株式会社アグリゲート代表の左今さん。自社農場も展開しながら、都市と農家をつなぐ八百屋を目指し、おいしい野菜を適正価格で消費者に届けることに日々努めています。農業ビジネスで成長を続ける、左今さんの極意とは何なのでしょうか。

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生産者と左今さん(右)

三田、大崎、赤坂など、都心に9店舗を展開するレトロな八百屋「旬八(しゅんぱち)青果店」。運営元の株式会社アグリゲートは、「地方で作るおいしい野菜を都市部に適正な価格で届ける」ことをコンセプトに業績を伸ばしています。その秘密は、生産者・販売者・消費者の三者ともに利益を得ることができる仕組みにあるようです。株式会社アグリゲート代表の左今克憲(さこんよしのり)さんに農業ビジネスで成長を続ける極意をお聞きしました。

起業のきっかけは、日本縦断の旅で気づいた「地域活性化」が原点

左今さんは、東京農工大学農学部の学生時代、バイクで日本縦断の旅に出ました。そこで地方の農家と知り合い、一次産業が地域に及ぼす影響を知りました。

「農家からいろいろな話を聞く中で、地域経済の基盤は農業や漁業だと痛感しました。農業が盛んだと、それを活かして加工品を作る二次産業が発展し、携わる方たちが買い物や飲食などをする三次産業も潤っていく。反対に一次産業の人口が減るということは、地域全体が衰退するということがわかってきました」

地域全体を活性化させるためには、まず農業を盛り上げなければならない。しかし農家は高齢化が進んでおり、若い人がまったくいない。農業なら自分たちでゼロから取り組めると思い、左今さんは起業を考えます。

「農業の話を聞きたくて、農学部の教授や農業の現場に何度も足を運びました。しかし、断片的な話しか聞けず農業全体を把握しきれない。そんな状態で起業するのはリスクが高いと思い、一度人材派遣会社に就職して営業などを担当しました。サラリーマンとしてがむしゃらに働く経験もしてみたかったし、どこの業界にどんな人材が流れていくのかを見たかったのです」

人材派遣会社の目線で農業を見ると、稼ぎがよくないという理由で就農が敬遠されていることがわかったといいます。

「若い世代が就農から遠ざかると、高齢化が進み農業人口は減少していきます。しかし、業績のいい農業法人も少なからずあって、その仕組みについて考えるようになりました。でも、外側から農業を眺めてもわかることは少ない。それならばもう起業しようと思ったのです。それが平成21年、27歳のときです」

起業の始まりは生産者と販売者をつなぐ営業代行業からスタート

左今さんが起業して最初に始めた仕事は、農業生産法人の営業代行でした。
「前職の経験を活かし、資料を作って農作物の販売先に営業や商談に行きました。この農業生産法人が行っていたのは営業だけではなく、米や野菜の生産から加工・販売まで。田植えや稲刈りを含め、農業のプロセスを一通り経験できたこともありがたかったです。そこから他の農家との付き合いも始まり、営業代行の仕事が増えていったのです」

営業代行の仕事は、各農家の主力作物を知り、どこで販売すれば売れるのか戦略を立てることから始まります。営業先はデパートや飲食店などで、そこでの反応を農家にフィードバックし、改善を促すことを繰り返します。

「営業先から『これはうちでは売れない』と言われた農作物を見て、『なんでダメなのだろう、絶対に売れるのに』と思うこともしばしばありました。農家に営業先の意見をフィードバックしても『それは対応できない』と言われ、『なぜできないのだろう』と疑問に思ったり」

そんなことが重なり、左今さんは「それならば生産も販売も自分でやって、やればできることを周りに見せたほうが早い」と考えるようになったといいます。

八百屋をやってみる手ごたえと決意

自分の手で生産も販売も手掛けようと思っていた矢先、大手スーパーから「野菜を販売してみないか」と声がかかりました。

「以前にもイベントで野菜を販売した経験があって、そのときと同じように来場者にそれぞれの野菜がおいしい理由やおすすめの食べ方など、積極的に話しかけました。そうすると、驚くほどたくさん買ってもらえたのです」

それは、お客さんとコミュニケーションを取りながら販売するスタイルが求められていると実感した出来事でした。そして左今さんは自身の八百屋を立ち上げる決意をします。

地方の新鮮な野菜を適正な価格で都心に届ける

左今さん自身、大学生やサラリーマン時代には、コンビニやファーストフードの食事で済ます食生活を繰り返していたそうです。一方、地方には自分で作ったおいしい野菜で豊かな食生活を送っている農家がいます。「でも彼らは、『都市に対して何を作って、どう売ればいいかわからない』と行き詰まりも感じています。都市と農家をつなぐ八百屋でありたいと思いました」

また左今さんは、規格に外れる野菜を農家が有料で廃棄している現実も見逃しませんでした。
「規格外品は、見かけは不格好かもしれませんが、味や品質は正規品と一緒です。それを自分の八百屋で販売することで、農家も消費者も喜ぶのではないかと考えました。野菜の美味しさをきちんと伝えれば消費者は買ってくれると確信していましたし、さらには適正な価格でおいしい野菜を消費者に食べてもらうことができます」

都市にいながら、地方で手に入るような新鮮な野菜を適正な価格で販売する。これが左今さんの八百屋のコンセプトとなりました。

旬八青果店の出店場所に中目黒を選んだ理由

平成25年10月、左今さんは「旬八青果店」1号店を中目黒にオープンしました。オフィス街と高級住宅地を有するこのエリアに、あえて八百屋を出店したのです。

「食への関心は高いのに、健康的で満足感のある食事をすることができない方が多くいるエリアを意識しました。2店舗目以降もそのような観点で出店場所を選んでいます。また、全店舗を都心に集中させています。そうすることで野菜を運ぶ手間や時間が省かれ、物流コストの削減や野菜の鮮度も保たれます」

鮮度と適正な価格を追求し続ける旬八青果店。新鮮かつおいしい野菜を求める都心で人気が出るのも当然のことかもしれません。

自社農場への挑戦

「自らの手で生産も販売も手掛ける」と決意していた左今さんは、「旬八農場」という自社農場の運営も行っています。

「自社農場を立ち上げる際は、まわりの農家に学ぶところが多かったですね。うまくいっている農家は、地域の方やJA(農業協同組合)と上手に付き合っています。地域内での有用な情報共有、JAでの肥料購入や金融機関の利用など、良好な関係性を築くことが大切です」

地域や農家との付き合いを通じて、左今さんは日本各地の農家と直接契約を結んでいます。自社農場と合わせて、おいしい野菜が安定的に旬八青果店に届けられるのは、こんな理由があるからです。

アグリゲートと農業のこれから

旬八青果店と自社農園、販売も生産も一手に担う左今さんのミッションは、アグリゲートが基盤になることだそう。

「農家をもっと増やすことが必要不可欠です。農家も我々も収入に魅力を感じることができなければ、農業を未来につないでいくことができないと思っています」

「スローライフというよりも、農業で生計を立てるという意識をもって取り組む方が増えています。だからこそ、未経験の方が農業をやるなら、まずは一度生産法人などで働いてみたほうがいいのではないでしょうか。長く続けるためには、どの業界でもまずは経験を積んで学ぶこと。農業も同じだと思います」

旬八青果店を通じて、生産者、販売者、消費者の三者が納得する仕組みを作った左今さん。平成33年を目途に上場も目指していて「これからのことを見据えると、まだまだ発展途上です」と言います。都心に出現したレトロな八百屋は、今後も地方の農業とともに成長を続けます。

※写真提供:株式会社アグリゲート

株式会社アグリゲート

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