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配管の詰まりが未利用資源活用のヒントに! 神戸市が挑む「再生リン」肥料化による資源循環

kawashima_reijiro

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配管の詰まりが未利用資源活用のヒントに! 神戸市が挑む「再生リン」肥料化による資源循環

下水汚泥の肥料への活用法は、自治体の規模や下水処理方式によって異なる。中小規模の自治体では、過去に紹介した山形県鶴岡市の「鶴岡コンポスト」のように、コンポスト(堆肥化)が適している。一方、今回ご紹介するのは大規模な地方自治体、兵庫県神戸市の取り組みだ。神戸市では下水汚泥からリンを抽出して肥料原料として再資源化し、その肥料を地域の農業生産者が使用。採れた農作物が市民の食卓にのぼる、理想的な資源循環モデルを大都市で構築している。

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配管閉塞への対策から始まった挑戦

港町として知られる兵庫県神戸市。人口約150万人を抱える大都市でありながら、市内の耕地面積は4,320haあり、そのうち2,100haが水田。約310haでは酒米「山田錦」が栽培されている。六甲山系を背に、都市近郊の立地を生かした葉物野菜や施設園芸、「神戸ビーフ」の畜産業や観光農園も盛んである。販売農家の割合は全国平均を10ポイント以上上回り、都市型農業が息づいている。そんな神戸で今、下水から回収したリンが肥料となり、地域農家に供給され、そこで育った野菜や米が市民の食卓にのぼる……そんな資源循環の輪が形になっている。

清水武俊さん

その取り組みの名は「こうべ再生リン」プロジェクト。2011年度に始まった、下水汚泥からのリン回収事業だ。神戸市は市内に6つの下水処理場を持ち、下水道整備率は98.7%に達する。六甲山より南側の都市部に人口が集中しており、区域ごとに処理場を設置。発生した汚泥はスラッジセンターに運ばれ、焼却処理されている。「こうべ再生リン」プロジェクトについて教えてくれたのは、神戸市建設局下水道部計画課係長の清水武俊(しみず・たけとし)さんだ。

下水処理は大きく「水をきれいにする工程」と「汚泥を処理する工程」に分かれる。汚泥は消化タンク内で約40℃、およそ1ヵ月かけて微生物により分解される。この消化汚泥にはリンが高濃度で含まれている。

赤い矢印で示しているのが結晶化したリン。

「ここで問題が起きていました。リンが自然に結晶化して、配管を詰まらせていたのです。定期的な高圧洗浄が必要となり、維持管理の負担は小さくありませんでした。『結晶化する前にリンを取り出せないか』という発想が、プロジェクトの出発点でした」(清水さん)

MAP法によるリン回収の仕組み

プロジェクトが始まった翌年となる2012年、神戸市は国土交通省のB-DASH事業(下水道革新的技術実証事業)に応募し採択され、東灘処理場で実証を開始した。この事業の目的は「下水の消化汚泥からリンを高純度に精製して取り出し、肥料として農地に還元する」ことだった。

「リン回収の方法は、MAP法(マグネシウム・アンモニウム・リン酸塩法)と呼ばれるものです。消化汚泥に水酸化マグネシウムを添加すると、リン、マグネシウム、アンモニアが反応してリン酸マグネシウムアンモニウムの結晶が生成します。ロケット型の反応タンク内で結晶化させて比重差により分離。回収した結晶を洗浄・乾燥させると、白色のパウダー状のリン資材ができあがります。これがリン結晶であり、肥料原料として利用するのです」

神戸市は再びB-DASHに採択され、2025年、新たに西区の玉津処理場にも新設備を導入した。この玉津処理場では、どのような技術が認められて採択されたのだろう?

新たに運転を始めた玉津処理場。

「青色のタンクは底部が丸く設計されており、従来より効率的に結晶を生成できる構造となっています。また、これまでは結晶生成のタイミングの見極めに熟練を要していましたが、ここに新たな制御技術を導入することで、経験に頼らず安定して高効率な運転が可能になります」と清水さん。これにより玉津処理場では、東灘処理場と比べて1.3~1.5倍の効率が得られているという。

現在は2拠点体制で、1基あたり年間約100t、計200t規模のリンを回収する能力を有しており、さらに3基目を建設中。「この新たな処理場は2026年度末に完成し、2027年度の本格稼働を予定しており、将来的には年間300t体制を目指しています」と胸を張った。

「こうべハーベスト肥料」に再生リンを利用

神戸市は、回収した再生リンを東灘処理場のB-DASHプロジェクトから共に歩んできた水ingエンジニアリング株式会社(肥料メーカー)に販売している。この再生リンと窒素(N)、カリ(K)、有機物などを配合し、「こうべハーベスト肥料」として製品化。JA兵庫六甲を通じて市内農家に販売されている。「こうべハーベスト」のラインナップは2026年現在、4種類ある。

「水稲用(学校給食米向け)、酒米「山田錦」用、葉物野菜などハウス栽培向け、そして家庭菜園用です。家庭菜園用は小分けパッケージとして『SDGs肥料』と名付けて販売しています。

当初『こうべハーベスト』は農家向けの資材として出発しましたが、この取り組みを市民に広く知ってもらうことが重要との考えから、広報的役割も担う商品として『SDGs肥料』を販売しているんですよ」

生産者の評価 ――「普通に効く」ことの価値

利用農家の声は実直だ。「普通肥料だから、普通に効く」、である。「こうべハーベスト」は特別な肥効をうたっていない。成分を含めて肥効は一般的な化成肥料と同等である。施肥設計も従来通り可能である。「こうべハーベスト」を販売しているJA兵庫六甲の声の担当者は次のように話す。

「『こうべハーベスト』を取り入れることに決めたのは、食べ物だけの地産地消ではなく、地域資源を循環していくことの大切さも感じていたからです。神戸市からの提案を受けて、試験的にやってみることにしました。とはいえ、農家は変えることを嫌いますから、JAでも安全性を根気強く説明したり、学校給食に関しては栄養士さんとの交流や出前授業を何度も行ったりして、ようやく実現したという感じです」

利用したキャベツ生産者は「どの肥料も価格が高騰しています。そのなかで神戸市が購入費の助成をしてくれたことで、試してみるいい機会になりました。使ってみないことには、わからないですから」と語った。

神戸市では重金属等を含めた検査を定期的に実施しており、その安全性についてもJAや農業生産者に丁寧に説明を重ねてきた。

「当初は「下水由来」というイメージへの抵抗感が強かったように思います。しかし、再生リンは汚泥そのものではなく純粋なリン結晶であることを理解してもらうことに努めました。それが実って徐々に利用が広がってきた形です」(清水さん)

「こうべハーベスト」が評価されているのは、品質だけではない。入手しやすさと価格の安定性だ。肥料原料の多くを輸入に頼る日本では、国際情勢や為替の影響で価格が大きく変動する。近年の資材高騰は離農増加の一因とも言われる。そうした中、市内資源から生まれる肥料は、供給の見通しが立ちやすく、価格変動リスクを抑えられる可能性がある。

こうして「こうべハーベスト」を使用して生産された農作物を「BE KOBE」農作物としてブランド化して、消費促進を実施している点にも注目したい。BE KOBE農産物とは、化学肥料の使用を通常よりも減らし、あわせて下水から回収したリンを配合した肥料やたい肥など地域資源を利用して栽培された神戸産の農産物のこと。

下水汚泥から回収したリンが、「BE KOBE」農作物として市民の食卓に上がる資源循環サイクルの和は、こうして完結する。

「地元の資源を使う」ことへの共感を広げる


子どもたちにも、循環の輪が広げている点も見逃せない。神戸市は、小学4年生を対象に「神戸っ子SDGsプログラム」を実施している。下水道の仕組みや資源循環について学ぶ出前授業と、再生リン肥料で育てたスイートコーンの収穫体験をセットにした取り組みだ。

「教室で再生リンを実際に見せて、匂いを確かめてもらいます。そして後日、畑で収穫を体験するのです。下水と食卓が再生リンを介して結ばれていることを学んでもらっています。未来を担う子どもたちに、こうした取り組みを知ってもらうことが大切です」と清水さんは語った。

課題と展望

プロジェクト開始から15年。中国によるリン輸出規制以降、「こうべハーベスト」への需要は着実に高まっているというが、依然として課題は残っているのだとか。

最大の壁は、下水由来肥料への漠然としたネガティブイメージだ。「理解促進とPRは引き続き不可欠です」と清水さんは語る。リン回収は収益事業ではなく政策的取り組みであるが、維持管理コスト低減や支援制度の充実も求められる。

「日本の食料自給率が低いことは周知の事実ですが、そもそも作物を作るための肥料そのものが自給できておらず、しかも国際情勢の影響を大きく受けていることを知る人が極めて少ないのが現実です。今後、いかに国産の肥料を広げていくかが重要な課題です」(清水さん)

同市の取り組みは、単に肥料の原料としてリンを供給するだけでなく、「市民の食卓に上るまで、教育に活用されるまでの循環」を肥料メーカーや農業関係者、学校関係者など、さまざまなステークホルダーと一緒になって構築したことが特徴と言える。「今後、再生リンを市外にも供給すると同時に、取り組みを行う仲間を増やしていければと考えております」。清水さんはこう課題を認識しつつ、将来を前向きに展望してくれた。

江戸時代までは当たり前だったし尿の肥料活用。それを現代の技術で安全に再構築する。神戸は、リンの供給だけでなく、「回収から食卓まで、教育を含めて」循環モデルを構築した。2026年度末に3基体制が整えば、リン供給量は年間300t規模へ拡大する。こうなれば「こうべハーベスト」の供給先は市内にとどまらず全国への展開も視野に入る。

下水は「廃棄物」ではなく、都市が抱える貴重な資源だ。その資源を掘り起こし、農地へ還し、市民の食卓へ戻す。神戸で回り始めたこの循環は、日本の食料安全保障を支える一つのモデルケースとなり得る。

取材協力・図写真提供:神戸市建設局下水道部

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