・場所:長野県
・輸出先:台湾・タイ
長野県(みなみ信州農業協同組合/市田柿)について
担い手不足と生産量維持の限界

市田柿

羽根さん
この地域は、りんごや梨を中心とする果樹産地です。しかし、全国に競合が多く、価格競争になってしまいます。さらに、キロ単価が低迷した時期があり、一生懸命作っても儲けが少ないという現実にも直面。その結果、後継者が育たず、高齢の生産者が栽培をやめると、そのまま耕作放棄地になってしまうというケースが増えていました。
そこで注目されたのが市田柿です。市田柿には他の果樹にはない大きなアドバンテージがあります。第1に、限定された地域でしか名乗れないブランドです。市田柿を名乗れるのは、飯田市、下伊那郡及び上伊那郡飯島町、中川村で作られたもののみです。GI登録により、この地域以外では国内外で「市田柿」という名称は使えません。
第2に、干し柿の中でも市田柿の輸出量がトップということです。日本国内の干し柿全体の約3割を市田柿が占めていますが、輸出においては約7割を占めています。(R4農林水産省特産果樹生産動態調査 参考)
「日本の干し柿といえば市田柿」と、すでにブランド柿として認知されています。
そして第3に、この地域の気候と伝統が生み出す品質の高さです。市田柿の特徴である白い粉は、柿自身の糖分が結晶化したもので、砂糖や小麦粉を使ったものではありません。この独特な仕上がりは、気候条件と長年にわたる職人技によって生み出されているのです。
こうした背景から、耕作放棄地となったりんご等の果樹園を、市田柿の栽培地に転換。減少する国内需要に対して、これまで以上に本格的な輸出体制を整備していく方向で大規模輸出産地モデル形成等支援事業を活用し動き始めました。

長野県(みなみ信州農業協同組合/市田柿)実施体制
長野県(みなみ信州農業協同組合/市田柿)の取組について
農家の所得安定が最大の目的

伊藤さん
ただ、みなみ信州農業協同組合の輸出に対する考え方は、他の多くの輸出事業者が利益を追求するのとは違い、複数の販路を持つことで、農家の所得安定確保が最大の目的です
今回の大規模輸出産地モデル形成等支援事業(以下「本事業」)では、3つの取組を柱として展開しています。
1.生産面積の拡大

施工前の圃場
高森町と松川町の2地域で、高森町ではりんご園だった約640㎡を、松川町ではプルーン園だった約3,000㎡を、新たに市田柿の生産地とするべく、本事業を活用して園地整備を実施。いずれも、木を切ってそのまま放置されている耕作放棄地だったため、まずバックホーなどの重機で根を完全に除去し、まっさらな状態にしてから新たに柿の苗木を植えました。2025年末には、高森町では苗木の植付けまで完了。

園地整備後に植えた苗木
市田柿の収穫までには数年かかりますが、何年後かの先を見据えた中での園地整備として、将来の生産量確保に向けた重要な一歩となっています。さらに、みなみ信州農業協同組合では「市田柿工房」という、柿を仕入れて加工する工場も運営し、個々の農家だけでは難しい規模での生産拡大を実現しています。

市田柿工房
2.新たな輸出方式の確立
これまで、台湾や香港、マレーシアなど東南アジア各国へ輸出してきましたが、従来は国内市場と海外市場を分けず、まず国内市場に出荷し、それを輸出事業者が梱包して海外にコンテナで送るという方式をとっていました。
しかし、この方式では輸出事業者の負担が大きいことと、一定数の海外用の荷が集まるまで滞留期間が発生するために賞味期限が短くなり、販売可能な期間が短くなってしまいます。
そこで、本事業を利用して輸出量に一定の実績のある台湾に向けて、産地で直接輸出用の梱包を行う「産地パッキング」という新たな方式を試みました。産地で台湾向けの表示シールを貼り、パレットに輸出専用の荷積みを行いそのまま指定市場へ送り、冷蔵コンテナに入れて出荷する方式です。現地販売までのリードタイムが確実に短縮され、販売期間も伸びました。

産地での荷造りの様子

伊藤さん
3.海外市場調査と販促活動
東南アジア各国への輸出経験から、タイを台湾、香港に次ぐ国に位置付けています。その一方で、タイでの需要に関しては、まだ調査が足りておらず、競合商品を含めて現地調査が必要です。そこで本事業を活用し伊藤さんは、バンコクに行き、現地の大手の小売店と卸事業者との2件の商談を実施し、市田柿の売込みを図りました。さらに、複数の小売店や現地卸売市場を訪問し、何が売られているのか、どのようなニーズがあるのか、価格帯などの調査も行いました。

タイ市場調査の様子

羽根さん

現地販売の様子
また、現地での販促活動も予定しています。台湾で輸出量が大きく伸びたことの要因の一つに、継続的な販促活動がありました。継続することで信頼関係が構築できたからです。
タイでも、同じように今後、継続的にイベントなどの販促活動も行っていくことで、輸出事業者からの評価にもつなげていきたいと伊藤さんは語ります。
長野県(みなみ信州農業協同組合/市田柿)の今後について
国内と海外輸出のバランスを大事に
みなみ信州農業協同組合が本格的に市田柿の輸出に力を入れ始めてから10年。着実に成果を上げており、2016年の開始時は、年間25トンだったのが、本事業を活用前の2024年には102トンと、約4倍に増えています。JA全体で市田柿の取り扱いが1,200トンあり、輸出の割合はおよそ1割。こうした数字を踏まえた、今後の長期的な目標も明確です。

伊藤さん
海外向けに、これまで多くの事業を手掛け輸出専用資材の作成などに取り組んできましたが、“海外専用パッケージ”で販売しても、結局は日本らしさがないと現地でも言われてきました。日本のものを日本から輸出しているという付加価値をつけるためにも、産地でパッケージした日本で販売する商品と同じもので輸出してきたと思っています
まずは台湾をはじめとした東南アジアの市場をしっかり足固めしてから、その先には欧州も見据えています。イタリア料理ではすでに市田柿を使ったレシピ開発にも試験的に取り組み、相性が良いと言われています。特に欧州では、GIに対する認知度が高く、GI登録されている市田柿との親和性も強い。現地では、チーズのGIがかなり進んでおり、市田柿とチーズの相性の良さも評判です。

伊藤さん








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