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現実となった、神明HDトップの「警告」。銘柄米の店頭価格3000円台前半への回帰と、令和8年産米に待ち受ける“大暴落”の可能性

現実となった、神明HDトップの「警告」。銘柄米の店頭価格3000円台前半への回帰と、令和8年産米に待ち受ける“大暴落”の可能性

「コメの適正価格は5キロ3500円」――。未曾有の米不足と価格高騰に沸いた「令和の米騒動」を経て、米卸最大手の株式会社神明ホールディングス(HD)代表取締役社長の藤尾益雄さんが放ったこの言葉は、今まさに現実のものとなった。2026年3月中旬現在、首都圏の量販店を覗けば、かつて4000円台半ばで売られていた5キロ袋の銘柄米に3500円を下回るポップが掲げられていることは珍しくない。コメ価格はなぜ、“予言”通りに着地したのか。価格下落の裏側と、令和8年産米の展望を聞いた。

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「高すぎるコメ」が招いたコメ離れの現実

「コメの価格は5キロ3500円が消費者の許容できる限界ライン」。この言葉が飛び出したのは2025年末、新潟県でのコメ生産者大会で講演した際のことだ。令和6年産米の深刻な品薄に端を発した「令和の米騒動」により、同年産の相対取引価格はかつてない水準まで高騰。令和7年産米の概算金も1俵あたり3万円を超え、平均相対取引価格は1俵あたり3万6451円を記録。スーパーの店頭では5キロ袋が4000円台後半の価格が付けられることも珍しくなかった。

相対取引価格の推移(令和3年産~令和7年産)引用:農林水産省

藤尾さんは生産者の再生産価格の実現が重要と考える一方で、高すぎる米価は消費者の「コメ離れ」を引き起こしたと語る。「需要減は、中食産業であるコンビニの店頭を見ても明らかです。値上がりが続くおにぎりは販売が鈍く、どんどん売り場が狭まってきている。これまで安定需要があったパックご飯も今や1食当たり200円以上が当たり前になり、消費者心理として『それならパンやカップ麺を買う』という状態でしょう」

外食産業に目を向ければ、より深刻な状況も生み出した。外国産米の輸入である。「特に外食店は、さまざまな原価が上昇している中、低価格のニーズが高いです。そうした中、昨年ごろから民間貿易による輸入が急増しました」
従来、コメには1キロ当たり341円の高額な関税がかかり輸入されにくい構造だったが、国産米の高止まりを受け、2025年に前年同期比95.4倍の96834トンが民間貿易により輸入されるなど急拡大。国産需要がより減退する可能性を残しました」

不安感が増す令和8年産米の価格

それから数カ月が経過した2026年3月中旬現在。店頭の小売価格は5キロ3500円を下回る水準に落ち着きつつあるが、藤尾さんの表情は決して明るくない。「正直なところ、想像以上に価格下落のスピードが早く、下落幅も広かった』からだ。年が明けて以降、市場価格が下落の一途をたどっていたことを受け、「何とか1俵あたり2万6000円程度で下落を食い止めようと、5キロ3500円の販売を呼びかけたものの、現在は銘柄によっては1俵あたり2万円台前半のものも。ここまで下がってしまうと、当然ながら令和8年産米の価格にも大きく影響します」

ここまで短期間で価格の下落が起こった要因の一つとして、2026年1月末に農林水産省が発表した民間在庫量(※)のデータが市場の不安を煽り、価格の乱高下に大きく影響したと藤尾さんは指摘する。「2024年12月と2025年12月の民間在庫量を比較すると85万トン増えており、相場の変動に拍車をかけました」
※卸売業者や全農が保有している在庫量

民間在庫の推移(引用:農林水産省)

最も恐れているのは、このまま民間在庫量が積みあがっていった先に待つ「大暴落」というシナリオだ。「今年6月末時点の民間在庫は215~229万トンに達する試算。過去20年程を遡っても6月末民間在庫量が最高だったのは226万トン(平成27年6月月末、農水省公表値)であったことを考えれば、それすらも上回る可能性がある異常事態です。そうなれば、令和8年産米の価格は間違いなく大暴落し、一気に離農者も増えるでしょう」。農家のリタイアが先行すれば、再び需給バランスが大きく崩れる可能性もあると警鐘を鳴らした。

安心してコメを作り続けられる環境をどう構築

生産者・消費者双方にウィンウィンな価格を維持しつつ、農家が安心してコメを作り続けられる環境をどう構築するか。その解の一つとして、神明HDグループは生産者と直接結びつく新たな契約モデルを検討している。特徴的なのは、豊作や不作にかかわらず、買い取り価格に下限と上限を設ける複数年契約の仕組みだ。

「どれだけ豊作で市場価格が暴落しても最低売上が保証されて赤字を回避できるので、生産現場にとって大きなリスクヘッジとなります。我々コメ卸としてもこうした取り組みを進めるべく、生産者との連携を図っています。現在の平均的な再生産価格は1俵あたり1万6000円ほどと試算していますが、機械化の減価償却や雇用コストを乗せても十分に発展していけるルートを作りたい」と力を込める。

農業の持続可能性を考える上で課題となっている「労働力の確保」についても、新たな兆しが見え始めている。象徴的なのが、農業法人あぐりーど玉野などが進めている「立毛間播種(りつもうかんはしゅ)」の栽培技術である。これは、麦の収穫1週間前にドローンを使って稲の種をまき、同じ圃場で麦と稲を栽培する技術。令和7年産では、稲の収量をわずかな低下に抑えつつ、1つの農地の収入を向上させることを目指す。

「稲作だけでは特定の時期しか仕事がないために、人を雇用することが困難でした。しかし、麦などと二毛作する技術が確立すれば、通年雇用が可能になる」と藤尾さんは手応えを口にする。人が定着し、年間を通じて安定した収入を得られる農業への転換が現実味を帯びてきた。

食料安保をより真剣に考える

人口減少や食の多様化が進む中、2040年には国内のコメが年間130万トン不足することが予測されている。基幹的農業従事者の高齢化と減少に歯止めがかからない現状を放置すれば、生産基盤の崩壊は免れない。
そうした中、現在の農業政策は農作物の価格下落や高騰を防ぐための「需要に応じた生産」に重きが置かれることが多い。しかし、藤尾社長の視点は異なる。

「値段を維持したいという考えは理解できますが、我々としては食料安全保障をより真剣に考えるべきだと思います。世界情勢が変容し、食糧の奪い合いが始まったときに唯一食料自給率100%を維持しているコメが国民を救う。いかにして生産基盤を維持していくかを議論しなければならない」

市場価格が乱高下し、コメ余りの現実に直面し、多くの農家が将来への不安を抱える中、神明HDはコメ卸の枠を超え、農業のプラットフォーマーとして、生産をつかさどる川上分野へ経営資源を集中して課題解決策を提案・提供することを通じて、農業を成長産業へと導くことを目指している。
同社の挑戦の模様は、今夏発刊予定の「AGRI+(アグリプラス)」にて詳しく紹介する。

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