そもそもIPMとは
IPMとは、総合的病害虫・雑草管理(Integrated Pest Management)の略称で、農作物に被害を与える病害虫や雑草に対して、予防的措置・判断・防除の3つの段階において、利用可能なすべての技術を組み合わせて、発生や増加を抑えるための適切な手段を総合的に講じる考え方のことです。
IPMの大きな特徴は、化学農薬だけに頼るのではなく、耕種的防除、物理的防除、生物的防除、化学的防除を総合的に用いながら、経済性や効果、人や環境への影響を考慮して防除を行う点にあります。平成17年9⽉に農林水産省が「総合的病害⾍防除・雑草管理(IPM)実践指針」を策定して以降、IPMの考え方の浸透や実践例は全国に広まりつつあります。

総合防除の実践体系(農林水産省「総合防除実践ガイドライン」より引用)
なぜIPMが求められるのか
現在、日本の農業現場では、薬剤抵抗性を獲得した害虫の増加により、既存の殺虫剤だけでは十分な防除が難しくなるケースが見られています。このため、特定の薬剤に依存せず、多様な防除手段を組み合わせた体系的な防除が欠かせない状況となっています。
さらに、消費者の食の安全・安心への関心の高まりに応えるべく、環境に配慮した農業の推進が以前にも増して求められており、化学農薬の使用削減や天敵の保全、生態系への影響を抑えた持続的な生産が重要視されています。
こうした背景から、令和3年公表の「みどりの食料システム戦略」に明記されるなど、IPM(総合的病害虫・雑草管理)を推進する動きは年々高まっています。
IPMにおける薬剤ローテーション設計
IPMにおけるローテーション防除は、農薬による防除を独立した対策とせず、天敵昆虫や防除資材の活用を含む総合的病害虫防除の一要素として位置づけられています。このアプローチにより薬剤抵抗性の発達リスクを低減した安定的な病害虫防除や環境への配慮、コスト削減も実現でき、より持続可能な農業が可能となります。
設計のポイントは3つあります。
同じ作用機作を続けて使わない、使い過ぎない
作用機作とは、殺虫剤が生体へどのように作用し、どのような過程で害虫が死に至るのかという仕組みを意味します。作用機作は昆虫の神経系に作用するタイプや、エネルギー代謝を阻害するタイプ、脱皮や変態を阻害するタイプなど、さまざまあります。
同じ作用機作を持つ薬剤を連続して散布していると、害虫の中から抵抗性をもった個体が選ばれやすくなり、やがてこれまで効いていた登録濃度・薬量で防除できなくなる状態に陥る恐れがあります。これを避けるため、薬剤を作用機作ごとに整理し、類似の作用機作の薬剤を連続して使わない、もしくは独自の作用機作をもつ薬剤を選ぶなど、防除体系を細かく分けることが求められています。

ある作用機作に対する感受性が低い害虫(赤色)は、その作用機作を持つ製品を繰り返し使用すると、感受性の高い害虫(青色)よりも生き残りやすくなる。その結果、時間の経過とともに感受性の低い(抵抗性を持つ)害虫が個体群の多くを占めるようになり、同じ作用機構の薬剤では防除が非常に困難になる
設計の際は、作用機作を示した「IRAC※コード」を参考にします。「IRACコード」は数字、アルファベット、または数字とアルファベットを組み合わせた記号で表され、製品ラベルや技術資料、チラシ等に記載されています。
たとえば有機リン系の殺虫剤は[1B]、ネオニコチノイド系は[4A]と表されます。「殺虫剤分類 1A、14」とIRACコードが2つ記載されているときは、有効成分が2つ混合されていることを表しています。
[4A]と[4C]など、数字が一緒でアルファベットが異なるコードの場合、これらは有効成分の構造が異なるものの同じ作用機作を持つことを表します。
※IRAC(殺虫剤抵抗性対策委員会)

ローテーション散布のNG/OK例

2026年3月上市のBASF「エフィコン®SL」。IRACグループで36に分類されている唯一の薬剤(2026年3月時点)
非化学的防除法との組み合わせに注意する
先ほど述べたように、IPMにおけるローテーション設計は、天敵昆虫や各種防除資材の活用を含む総合的病害虫防除の一要素です。設計の際は、薬剤散布以外の防除方法にも目を向ける必要があります。
特に天敵昆虫を導入する際には、それらに対して影響が少ない農薬を選択することが不可欠です。
また、寒冷紗や防虫ネットなど、防虫効果のある資材をハウスの開口部に設置し、害虫が侵入しにくい環境を整えるなど、害虫が発生しにくい環境を整えるための物理的防除手法を積極的に組み合わせて予防的管理を行うことが求められます。
さらに、そのうえで適切な時期に薬剤散布を行えるよう、事前に計画的な散布スケジュールを立てることが重要です。
ローテーション設計は固定ではない
IPMにおけるローテーション設計では、病害虫の発生状況や環境条件の変化、現場でのコストの最適化などに合わせて計画を柔軟に見直すことが大切です。
特に最近では高温化、突発的な降雨、また海外からの飛来害虫の影響など、従来通りの防除では対応が難しい栽培環境になりつつあります。
毎年同じ計画で続けるのではなく、年ごとの病害虫の発生傾向や気候変動、天敵昆虫や防除資材の活用状況などを常にチェックし、圃場ごとに最適な設計になるよう更新していきましょう。
IPM視点での薬剤ローテーション設計のポイント
IPMでは防除段階ごとに薬剤のローテーションの方法や注意点が異なります。初期から終期まで段階ごとに設計のコツを押さえることが大切です。
初期防除
発生初期は、害虫の個体数がまだ少なく、防除効果が出やすいタイミングです。一方で、防除の適切なタイミングを逃すと一気に害虫が増殖し、害虫密度を下げるのが非常に難しくなり、結果的に農薬のコストが高くなることがあります。
定期的な圃場のモニタリング(目視・トラップ等)で初期発生を捉え、必要な場合に早めに薬剤散布することが特に重要なポイントです。この段階で、強い選抜圧をかけすぎると初期から抵抗性発達のリスクが高まるため、同じ作用機作の連続散布に注意しましょう。
果菜類では比較的早い時期での天敵導入が有効とされていますので、それらに影響の少ない農薬と組み合わせることで、密度を低く抑えることが期待できます。
初期防除では、薬剤防除のみに偏らず、防除資材の活用も効果的なので、環境配慮や薬剤抵抗性対策を意識したバランスのよい防除体系を心がけましょう。

トマトの施設栽培における防除資材の例※栃木県施設トマトIPM実践マニュアルを参考にマイナビ作成
中期以降の防除
中期以降は害虫の個体数が増え、防除回数も多くなります。また収穫時期に差し掛かると農薬の収穫前日数が影響し、使える農薬の選択肢も限られてくるので、この段階でも引き続き作用機作が重複しないよう注意深く管理することが、抵抗性リスク回避につながります。
天敵を導入している場合は、それらに影響が少ない農薬を選択してローテーション防除してください。
- タイリクヒメハナカメムシ
- スワルスキーカブリダニ
- ククメリスカブリダニ
- ミヤコカブリダニ
- チリカブリダニ
- リモニカスカブリダニ
- コレマンアブラバチ
- ナミテントウ
- オンシツツヤコバチ
- ハモグリミドリヒメコバチ
- オオメカメムシ
- タバコカスミカメ
※千葉県 天敵利用を中心とした施設園芸におけるIPM指導マニュアルより抜粋
IPMにおける薬剤ローテーションの配置例
ここではIPMにおける薬剤ローテーションの防除例を、実際の取り組み事例をもとに紹介します。害虫の発生消長や特性を考慮した例で、実践的な防除体系を設計できます。
トマトの施設栽培における防除例(中部)
静岡県農林技術研究所と農研機構中央農業研究センターでは、施設トマト栽培における重要害虫であるタバココナジラミの防除を念頭に置いた新しい防除体系を開発しました。ここでは、主に大玉品種の養液栽培における利用方法を紹介します。
●体系の全体像

静岡県農林技術研究所 ・ 農研機構中央農業研究センター「天敵の利用を核とした 施設トマトの新たな 害虫防除体系マニュアル -中部地方版-」P3を参考にマイナビ作成
●体系のポイント
ハウス外からのタバココナジラミ飛び込み量が多く、害虫や黄化葉巻ウイルスが増殖しやすい時期は農薬による防除を徹底し、飛び込み量が減少してくる時期から天敵昆虫タバコカスミカメを活用した防除体系に切り替えます。
タバコカスミカメの効果が最も発揮されるのは、5月以降、気温の上昇とともにタバココナジラミの急激な増殖が始まる時期です。タバコカスミカメ放飼時には、直前に使用した農薬の影響日数に注意し、放飼後は天敵に影響の少ない農薬をローテーション散布します。

静岡県農林技術研究所 ・ 農研機構中央農業研究センター「天敵の利用を核とした 施設トマトの新たな 害虫防除体系マニュアル -中部地方版-」P4を参考にマイナビ作成(2026年3月時点)
参考:静岡県農林技術研究所 ・ 農研機構中央農業研究センター「天敵の利用を核とした 施設トマトの新たな 害虫防除体系マニュアル -中部地方版-」
キュウリの施設栽培における防除例(熊本県)
熊本県では、施設キュウリ栽培における重要害虫であるタバココナジラミおよびアザミウマ類に対し、カブリダニ類の天敵昆虫2種を利用した防除暦の実証実験を進めています。天敵を使用することで害虫密度の抑制、ウイルス病発病の遅延が可能になることがわかってきました。

熊本県県央広域本部 宇城地域振興局 農業普及・振興課「キュウリ栽培におけるIPM防除体系」を参考にマイナビ作成
●体系のポイント
試験を通して、熊本県では以下の5つを注意すべきポイントとして挙げています。
・天敵放飼前に害虫に対して薬剤散布を徹底することで、害虫密度を極力減らす
・天敵の増殖を促すため、できる限り天敵に影響の少ない農薬を散布する
・ハウス側面、谷部に0.4mm目合いの防虫ネットの展張と粘着シートの設置を徹底する
・天敵の増殖を促すためにハウス内の相対湿度を70%以上にする
・摘葉した葉は株元に、芽かきした芽は葉上に残す
参考:熊本県県央広域本部 宇城地域振興局 農業普及・振興課「キュウリ栽培におけるIPM防除体系」
IPMのローテーション散布に最適。天敵を活かす『エフィコン®SL』とは

2026年3月より、新規の作用機作を持つ殺虫剤『エフィコン®SL』が新たに販売開始となりました。
BASF社が開発した新しい有効成分「アクサリオン®(一般名:ジンプロピリダズ)」を用いた本製品は、昆虫に特異的な弦音器官の新たな部位に作用し、IRACグループ36に分類される唯一の殺虫剤です。

弦音器官に働きかける
既存の薬剤にない新しい作用機作を持つ『エフィコン®SL』は、既存の薬剤に抵抗性を獲得したアブラムシ類やコナジラミ類などの吸汁性害虫にも防除効果を示すので、薬剤抵抗性の発達リスクを低減するためのローテーション防除に最適です。

既存の殺虫剤に抵抗性を示す個体にも高い効果
花粉媒介昆虫や天敵類への影響も比較的低く抑えられるため、IPMのローテーション設計も組みやすいのが特長です。
まとめ
この記事ではIPMの観点から農薬のローテーション設計の考え方や具体的なコツ、特に薬剤抵抗性管理と天敵昆虫の効果的な活用についてポイントを解説しました。 IPMに適切な天敵生物に安全性の高い農薬を選択しながら、ローテーション防除で抵抗性管理を行い、地域全体で持続的な病害虫防除を目指しましょう。
『エフィコン®SL』製品情報
有効成分: アクサリオン®(ジンプロピリダズ) 10.8%
登録番号: 第25005号
性状: 褐色~暗褐色澄明水溶性液体
毒性: 普通物(毒劇物に該当しないものを指していう通称)
危険物: 三石・Ⅲ・水溶性
有効年限: 3年
包装: 250ml×20本、500ml×20本(地域限定)
®=BASF社の登録商標
















