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父78歳、継承までのカウントダウン~拡大しない、兼業農家という選択肢 ~

父78歳、継承までのカウントダウン~拡大しない、兼業農家という選択肢 ~

山梨県・南アルプス市。桃やサクランボ、ブドウの名産地として知られるこの地で、三代目として果樹園を支えながら、アナウンサーとしても活躍する女性がいる。浅利そのみさんだ。かつては「農家の娘」であることにコンプレックスを抱き県外へ飛び出した彼女が、いま再び農業に向き合う理由とは何か。

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「農家の娘」が嫌だった少女時代

浅利さんの実家は、祖父の代から続く農家。現在は父が中心となり、サクランボ、桃、ブドウの3品目を栽培している。祖父の代は養蚕が中心で、果樹に規模を広げたのは父の代だ。
しかし、幼い頃の浅利さんにとって農業は「誇り」ではなかった。「完全にネガティブでした。農家の娘であることが恥ずかしくて、山梨を出たいと思っていました」
小学校1年生からの夢はアナウンサー。大学卒業後、地元のラジオ局に就職し、その後は東京へ。刺激的な仕事に恵まれ、キャリアを重ねた。
だが、外に出たからこそ気づいたことがある。山に囲まれ、土に触れて育った原風景の価値だった。実家の果物を東京の知人に渡すと、想像以上の反応が返ってくる。「こんなにおいしいものを作っていたのか」と、親の仕事を誇らしく思えるようになった。

「農業1本に絞らない」父が教えてくれた生き方

結婚を機に山梨へ戻り、出産。その後、自身の病気や家族の入院が重なった。家族で支え合わなければならない状況の中で、農業は「手伝い」から「自分の役割」へと変わっていく。
現在、父は78歳。県の農業系職員として長く勤め、病害虫の専門家でもあった。農業一本に絞るのではなく、好きな仕事と畑を両立してきた人物だ。
「好きなことを複数持つ人生のほうが楽しいぞ、と父は言ってきました。だから私も、アナウンサーをやめて農業一本にするつもりはありません」
継承は視野に入っている。ただし、規模拡大ありきではない。若い世代が農地を集約し、大規模化を進める流れの中で、浅利さんは「守る」選択を見据える。
「小さくてもいい。持続可能な形で続ける。それも一つの農業の姿だと思っています」
夫も別の仕事を持ち、休日に畑を手伝う。兼業という形が、リスクの高い時代の農業を支えている。

感覚型経営からの脱却

転機となったのが、JAバンク山梨が主催する農業経営を学ぶ塾への参加だった。それまで家族経営は“感覚型”。売上の内訳や品目ごとの収益性を厳密に検証することは少なかった。「逃げてきた数字と向き合いました。農業の中で、どれだけ稼ぎたいのかを初めて具体的に考えました」
特に議論になったのがサクランボだ。近年の高温で着果が不安定になり、辞める農家も出ている。仲間の中には伐採を決断した人もいる。それでも浅利家は続ける道を選んだ。
「サクランボはシーズン最初の果物。地域のスタートを告げる存在です。単体で赤字でも、3品目全体で黒字にできればいい。売り方を工夫すればいいと家族で話し合えました」経営を“家族で議論する”こと自体が、大きな前進だった。

マイクで届ける農業現場

もう一つの柱が、アナウンサーとしての発信だ。生放送のレギュラーではなく、自ら企画した農業番組を立ち上げた。スポンサーを探し、自らプレゼンも行う。「作ることは得意でも、自分たちの思いを外に出すのが苦手な農家さんは多い。その声を、私が届けたい」
取材では“アナウンサー目線”よりも“農家目線”が先に立つ。だからこそ、言葉に重みが宿る。
食育イベントでは、野菜嫌いの子どもが自分で収穫した野菜を口にする姿に出会う。土に触れる体験が、将来の進路選択の記憶になるかもしれない。
「子どもの職業欄に、いつか“農家”が当たり前に並ぶようになってほしい」コメ価格や資材高騰が話題になる中、消費者と生産者の間にはまだ距離がある。だからこそ、両方の立場を知る浅利さんの存在は貴重だ。「発信し続けること。それが私の使命だと思っています」
土に立ち、マイクを握る。拡大ではなく継続を選び、家族と議論し、地域と向き合う。
農業の未来は、必ずしも一つの正解ではない。浅利そのみさんの歩みは、多様な農業の形があっていいという、静かな証明でもある。

FM-FUJI(甲府83.0&80.5MHz・東京78.6MHz)
「Farmer’s CHAT」
木曜12:05~ 金曜6:00~再放送

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