課題を抱えるりんご産業の未来…高密植栽培で現状を打開できるか

トレーニングファームに出かけるのが楽しいという葛西社長
弘果総合研究開発株式会社(以下、弘果総研)は、農業関連のサービス業務や農業課題に対応した試験研究、商品開発等を行っています。りんごの栽培から販売まで幅広く関わる弘果グループの特性を活かし、農業の課題解決に取り組んでいるシンクタンクです。
青森県のりんご産業は、生産者の高齢化や担い手不足、温暖化等により、栽培面積や農業従事者が減少しています。将来的な生産量の減少が懸念されるなか、弘果総研では令和元年から単位面積当たりの収量増加と早期多収が期待できる「りんご高密植わい化栽培」の調査・実証に取り組んできました。
葛西社長はりんご産地としての危機感と取り組みをこう話します。
「青森県のりんご畑はこの10年間で1,700haも減少しています。今後も減少が続くと、おのずと生産量も減っていきます。地域経営としてりんご産業を守っていかなければいけない。しかも、ビジネスとして成り立つようなりんご園でなければいけない。この想いから、高密植栽培を新規就農者の確保・育成につなげるための『未来へつなぐ青森りんご産地育成プロジェクト』を立ち上げ、トレーニングファームを開設しました。園地開設にあたっては地元の農事組合法人しみずと連携し、弘前市小沢地区で水田を大豆畑転作していた5haの農地を高密植栽培のりんご畑に転換し、りんご栽培を推進しています」。

トレーニングファーム全体図。奥行きがある土地に、高密植栽培のりんご畑が広がる。
この事業では、研修生は2年間の研修終了後に独立用園地0.5ヘクタールを継承して独立就農でき、独立後も弘果総研が生産面・販売面を継続してサポートする新たな取り組みです。令和6年から3年間で7名の研修生を受け入れ、今春には第1期生2名が園地継承者として独立しました。
新規就農のハードルを下げる手厚い支援と、一緒に学べる仲間がいる心強さが魅力

令和8年4月採用・第3期研修生の安田祐太さん。
研修生として令和8年4月からトレーニングファームで研修を受けている安田祐太さんは、サラリーマン時代と比べて充実した日々を送っていると語ります。
「もともと祖父がりんご農家をしていました。農家が大変だというのは祖父の姿を見て分かっていたので、農家にはならないと思い関東へ上京して働いていたんです。15年ほど働いていた運送業の仕事は、自分が働いたことに対する結果が見えづらい職業。年齢を重ねれば体力的にも厳しくなることもあり、今の仕事のままでいいのかなと考えるようになりました。
何か新しい仕事をするにしても、新しい知識や技術をいちから一人で身につけるのは大変だと思っていたときに、今はりんご栽培にさまざまな栽培方法があること、そして契約社員として農作業を学びながらりんご農家を目指せるトレーニングファームの存在を知ったんです。これなら新しい技術を身につけて農家になれるかもしれないと思いました」。
家族を連れてUターンし、トレーニングファームでりんご栽培を学び始めた安田さん。実際にやってみて、手をかければかけるほどりんごの出来に影響があることに面白さを感じているそうです。
「りんごは身近ではあったけれど、りんご栽培、とくに高密植栽培は知らないことばかり。改めて、りんご栽培の奥深さに驚きました。この年になってこんなに勉強するとは思いませんでしたね(笑)。でも学びに新鮮さや面白さもあって、今はとにかく楽しいという思いが強いです」。

研修生仲間との横のつながりができるのも、安田さんが研修に参加した理由のひとつ。写真提供:弘果総研
「就農を考えた時、不安なことがたくさんあると思いますが、トレーニングファームでは就農するにあたって必要な栽培技術はもちろん、新規就農者として認定されるためのポイントや、独立後の経営についても学べる環境があります。新規就農で農業を始めるのはハードルが高い印象ですが、そのハードルをぐっと下げて挑戦しやすい環境が整っているので、選択肢のひとつとしてぜひ検討してみてほしいです」。
収穫時期を迎えるりんご畑を前に、今はまず、トレーニングファームでの初めての収穫を楽しみたいと話す安田さん。
「今後は、法人化を目指して園地を拡張していきたいですね。自分が高密植栽培で早期多収を実現することで、農業未経験からでもりんご農家になれるんだと、栽培の良さを伝えていく役割ができればと思います」。
【研修生の声】栽培方法から市場出荷まで。りんご以外の果実栽培についても学べる、盛りだくさんな研修内容

トレーニングファーム研修生のみなさん
研修生のみなさんから、2年間の研修でどのようなことに取り組んでいるのか伺いました。
研修1年目の4月にまず行うのは、研修生が将来持つことになる園地へのりんごの定植作業。ふじをはじめ主力5品種のりんごを定植し、研修期間である2年間かけて苗木からりんごを収穫できるようになるまで育てていきます。

高所作業車から見えるトレーニングファームの風景。約400mの直線ラインは見ごたえ充分。
研修生「一人ひとりに与えられる面積は約0.5ヘクタールで、そこにりんごの苗木を植えていきます。春に植えた苗木はさっそく花を咲かせますが、定植した最初の年は樹を育てることにエネルギーを注力するため、花は全て摘み、結実させないようにするんです」。
従来のりんご栽培の主流であったマルバ栽培では、定植してから10年ほどかけてじっくりと樹を育て、樹を大きくしてからりんごを実らせるため、りんごの樹が育つまでの期間の収穫量に不安がありますが、高密植栽培では栽培2年目から収穫が可能。さらに、10アールあたりの収量を比較しても、高密植栽培はマルバ栽培の約2.5倍の収量が期待でき、早期多収での成園化が望めます。

収穫シーズンを迎え、鮮やかに色づくりんご 写真提供:弘果総研
研修生「自分の園地で成園化に向けた作業をしつつ、トレーニングファーム内で摘花・摘果、収穫作業など一連の作業を行い、年間を通して高密植栽培を学びます。高密植栽培のりんご園は樹の高さや幅がきれいに揃っていて、園地に整然と樹が並んでいるのが特長。高所作業では梯子を横にずらすだけで作業がしやすく効率的で安全です。
高密植栽培ならではの作業として、7~8月に下垂誘引という作業が必要ですが、熟練の見極めが必要な冬の剪定作業と比べると初心者でも比較的覚えやすいです。ファーム内に定植した年の違うりんご園地があるため、2年目、3年目には自分の園地がこんな風に成長するんだという栽培のイメージがしやすいのもありがたいですね」。
年間を通してりんご樹と向き合うことで、凍霜害対策や冬の園地管理など、季節ごとに起こるさまざまな課題と対策方法を学べるのは、トレーニングファームならではです。

ハウスではシャインマスカット以外にも、皮ごと食べられるぶどうの試験栽培を行っている
また、ファーム内にあるハウスではシャインマスカット、黒系の大粒ぶどう、イチジク、シュガープルーンなど、りんご以外の果実の栽培方法も学べます。「今後の温暖化に対処できる果実も含めて、これからの有望作物の栽培方法を学べるのは、農業未経験者にとっては大きなメリット」だと話す研修生たち。園地を所有して独立することを視野に入れているからこそ、リスクマネジメントとしてもりんご以外の作物を第二の選択肢として検討できるのは強みだと言えます。
研修生「独立後の面積を増やす意欲的な取り組みにもサポートしてもらえることも将来性を感じています」。
研修生「果樹以外にも、市場出荷に必要な知識やスキルを学んだり、弘前市が実施している講習会に参加して農家同士の横のつながりを作る機会もあります。トレーニングファームがある小沢地区のお祭りを通して地域住民と交流することもあり、充実した研修内容です」。収入を得ながら実践的に学べて、研修終了と同時に園地を継承し独立就農を目指せる。それこそがこの研修プログラムの一番の魅力だと研修生たちは熱を込めます。
研修生「気軽に農業体験もできるので、何度か季節を変えて弘前の園地を訪問して、どんな作業をするのか実際に確かめてから、研修への参加を決めました。画面上でイメージを膨らませるより、まずは一度トレーニングファームを訪れて、その場所の空気を肌で感じてみてほしいです」。
農業未経験者でも挑戦しやすい環境が整っており、研修生のなかには安田さんのようなUターン移住者やIターンで弘前に移住してきた方もいてバックグラウンドはさまざまです。
りんご農家として働きたいと思える経営モデルが不可欠。りんご産業の持続的な発展を目指す

ビジネスとしてりんご栽培に参入してほしいと語る葛西社長
今後は高密植栽培と担い手育成をさらに発展させ、より多様なりんご農家の経営モデルを提示していきたいと語る葛西社長。「気候変動や労働力不足といった課題に対応するため、省力化技術やスマート農業の導入、データに基づく栽培管理の高度化にも積極的に取り組み、総合的なサポート体制を構築することで、新規就農者が長く安定して経営を続けられる環境づくりを目指します。そのことが、青森県の産業としてりんごを育てていくことにつながります」。
楽しいと思える農業。儲かると思えるりんご園。地域に根差した暮らし――。
日本一のりんご生産地で、人生の将来像を描けるようなビジネスモデルを提案することで、そこで暮らす人みんなが幸せになれる社会を目指す。弘果総研は、りんご産地の持続的な発展につながる仕組みづくりに挑戦し続けています。

「農業をやってみたい」というあなたの一歩が、青森りんごの未来につながります。皆さんの思いを、弘果総研でかたちにしてみませんか。
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