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ランドセルづくりの精神を農業へ。鞄工房山本が挑む「昔ながらのトマト」栽培

湯川真理子

ライター:

ランドセルづくりの精神を農業へ。鞄工房山本が挑む「昔ながらのトマト」栽培

奈良県橿原(かしはら)市に本社を持つ鞄工房山本は、1949年創業のランドセルを中心に革製品の製造販売を手がける会社である。業界で製造工程の簡素化が進む中、手間と時間を惜しまず自社工房で職人が丁寧に製造している。特徴的なのが、これまで無縁だった農業に2022年から参入している点だ。農作業を中心的に行っているのは、鞄工房山本の社員である。トマトハウスの責任者である上谷大介(うえたに・だいすけ)さんに話を伺った。

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ランドセル職人からトマトハウスの長へ

藤原京菜園(ふじわらきょうさいえん)部門 トマトハウス長の上谷大介さん

鞄工房山本の農園「藤原京菜園」は、奈良県の明日香村の隣に位置する。この地域は、かつて奈良・橿原の地に存在した都「藤原京」にちなんで名付けられた。ここで栽培されているトマトは、「藤原京トマト」として販売されている。
トマトハウス長を務める上谷さんは、10年間にわたりランドセル製造に携わった後、2025年に農園部門へ異動した。現在は上谷さんを含む社員2名と、20代から60代まで幅広い年齢層のパート職員10名の計12名で、1,800平方メートル(3棟)のトマトハウスを切り盛りしている。藤原京菜園勤務の社員も鞄工房山本の社員も、業種は異なっても待遇は同一である。
「うちのランドセルは革で作っています。世の中的には革より軽いものへシフトする動きもありますが、お子さんが自転車とぶつかって倒れた際にも、しっかりした革のランドセルがクッションになってお子さんを守ります。そのためにも、我々は丈夫な革のランドセルを作り続けることを守り続けています。トマトの販売先では『鞄屋さんがなぜ農業なのですか?』とよく聞かれますが、農業もランドセルも作り手としての気持ちは同じです」と上谷さんは語る。
農業参入を決意したのは、1949年創業の鞄工房山本・二代目社長(現在は会長)の山本一彦さんである。少子化による子どもの減少が予測される中、新たな事業展開を模索していた。そこで、ランドセル作りの目的でもある「子どもと家族を笑顔にする」ことにつながる産業として選んだのが、ものづくりの枠を超えた農業事業であった。農園名は地元を大切にしたいという思いから「藤原京菜園」とした。

スタッフの八十島好永(やそじまよしえ)さん、上谷さん。鞄工房山本のランドセル職人が藤原京菜園のスタッフのために製作した贈り物はトマトランドセル

最新技術×伝統の土耕栽培で育む「昔ながらのトマト」

トマトの収穫作業

農業参入にあたり、まずは農地探しからスタートした。本社から社員が通える範囲内で借りられる農地を求め、地元の農業委員会へ相談して紹介を得ることができた。
未経験からの参入で即利益につなげるのは難しいと考え、企業の農業参入をサポートするコンサルティング会社から栽培技術や農業経営の指導を受けながら事業の形を整えていった。
建設した3棟のハウスは、温度・湿度・二酸化炭素量などが自動制御される「太陽光利用環境制御型ハウス」を採用。農業経験が少なくても失敗しにくい仕組みを整えた。こうした環境制御システムでは水耕栽培が一般的であるが、同農園ではあえて「土耕栽培」を選択。土の中の微生物の働きを促進させる「プロバイオシス農法」を取り入れている。

ハウス内 株は2メートルくらいまで伸ばし続ける

栽培品目は、子どもや家族に毎日食べてもらおうと、中玉・大玉トマトに決めた。「単に甘さを追求するのではなく、子どもの頃にまるごと頬張ったような酸味と甘み、旨みのある昔ながらのトマトを作りたい」という山本さんの思いがあったからだ。

中玉では甘さと酸味のバランスがいいと言われる「シンディースイート」、大玉では食べ応えとコクのある味わいが特徴の「りんか409(よんまるきゅう)」を選んだ。9月1日に定植したトマトは、翌年の7月末まで株を伸ばし続け、約9か月収穫ができるそうだ。

自社ブランドのパッケージ

一方で、土耕栽培であるがゆえの大変さもある。「プロバイオシス農法」では微生物環境を常に最適に保つため、毎年新しい栄養豊富な土を用意し、前年の土と入れ替える必要がある。この土入れ替え作業が行われる8月後半の猛暑期はかなりの重労働となるため、この時期ばかりは本社のスタッフも応援に駆けつけてくれるという。

品質を守りながら年間40トン目指す

藤原京菜園内で販売されているトマト100%のストレートジュース、トマトケチャップ

現在は加工品の販売も行っている。「藤原京トマト」のみを使用した100%ストレートジュースや、無着色・無添加のトマトケチャップをラインナップ。特にトマトケチャップは社内にもファンが多い逸品だ。
今後の目標について、上谷さんは「栽培面積を増やすのではなく、クオリティーを下げずに収穫量を増やすこと」と掲げる。
「ハウス周辺は草が多いため、草刈りをしてハウスと草生地域の距離を離したところ、害虫の付着が減りました。計算上では収穫量をあと10トン増やせる見込みです。現在は年間30トンですが、今後は年間40トンを目指しています」(上谷さん)
新たな事業展開としてスタートした農業は、今や鞄工房山本にとってなくてはならない事業へと成長した。今後は同様のシステムを活用したイチゴ栽培もスタートする予定である。手間暇を惜しまない鞄づくりへの姿勢と情熱は、しっかりと農業の現場にも息づいている。

写真協力:藤原京菜園

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