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早期退職で未経験の3人が農業にチャレンジ【家族説得編】

早期退職で未経験の3人が農業にチャレンジ【家族説得編】

55歳で早期退職した男性3人が立ち上げたのが、農業法人「アーバンファーム八王子」。代表の続橋さんは、はじめの10年間は無収入を覚悟して就農に踏み切ったといいます。家族のこと、お金のことはどのように乗り越えたのでしょうか? その取り組みに迫ります。

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早期退職で未経験の3人が農業にチャレンジ【家族説得編】

大手企業を早期退職した3人の男性たちが、農業法人「アーバンファーム八王子」を立ち上げました。第二の人生として農業を始めるとなると、土地、設備、販売先など、さまざまなハードルがあります。中でも、最大のハードルは、お金の問題を含めた家族の理解です。

そこで今回は、経済面を含めた家族の説得に焦点をあて、同法人代表の続橋昌志(つづきばしまさし)さんにお話をおうかがいしました。大手企業を辞めて農業の世界に飛び込むという決断をどのように実現したのでしょうか。

元大手企業の同期3人が55歳で早期退職して就農

元大手企業の同期3人が55歳で早期退職して就農

農業法人「アーバンファーム八王子」のメンバーは、代表で営業、渉外を担当する続橋さんのほか、CFO(最高財務責任者)で広報を担当する泉政之(いずみまさゆき)さん、CIO(最高情報責任者)で技術、生産管理を担当する水野聡(みずのさとし)さんの3人。3人とも1960年(昭和35年)生まれで、元々は大手企業の同期です。

平成27年3月に、55歳という年齢で会社を早期退職し、アーバンファーム八王子を同年12月に立ち上げました。泉さんが八王子在住であった縁で、“第二の人生”の舞台は東京都・八王子市に決まりました。現在、続橋さん、水野さんは八王子に単身赴任しているそうです。

「設立から1年半が経過して、現状の自己評価としては順調です。しかし、農作業の失敗はとても多く “後手後手”になることが続いています。この状況は、あと数年は続くと考えています。農業の世界はとても奥が深く、新規就農者の我々がそう簡単に克服できるものではないと痛感しています」

続橋さんが“後手後手”と言うのは、研修を受け、作業の予定を立てていても実際にはわからないことが多く、種まきも収穫も周りの様子を見ながら始め、作業に時間がかかっている現状があるからです。自分たちのスキル不足、農業機械・資材等の装備が十分ではないこと、天候、市場状況の変化など、さまざまな問題をクリアすることは「とても難しい」課題だと語ってくれました。

10年近くは「無収入」を覚悟、1反で100万円の売上の壁は厳しい

10年近くは「無収入」を覚悟、1反で100万円の売上の壁は厳しい

アーバンファーム八王子を立ち上げたのは、3人が55歳の時。現状について順調と続橋さんは言いますが、収入面では、ビジネスマンとしてポジションも収入も得ていた時代に比べると、順調という訳ではありません。

「順調というのは、あくまでも“覚悟したレベル”から見た話です。サラリーマン時代からすると、年収は10分の1以下です。しかし、これまでの貯えを切り崩しながらやっていくことは想定済み。意外と収入面でのきつさは感じていません。ライフスタイルの変化でいくらでも充実感は得られるものだと実感していますし、地域の方々との交流や農業を通じた地域活性化、社会貢献の活動などが人生をとても充実させてくれています」

会社を立ち上げて新しいビジネスにチャレンジ、と聞くと20代、30代の話のように思えますが、ビジネスマンとしての経験や、多くの人生経験を積んできた50代だからこそ、起業に最適という意見もあります。

「農業で利益を出すのは大変だということと、都内では借りられる農地が少ないことも、退職前からわかっていました。なので、年金の支給が始まるまでの10年近くは無収入でも生きていけるかどうかが、新規就農に踏み切る判断基準でした。現在、私たちは5反(約5,000平方メートル)程の農地を借りていますが、1反あたりの売り上げを年間100万円まで持っていくのは至難の業です。もしそれが実現できても500万円の売り上げにしかなりません。それを3人で割ると、さらに少なくなります。一方、1人で5反を管理するのはとても難しい。もちろん、売り上げが上がる作物、例えばコマツナだけを栽培すれば、100万円を達成することは可能かもしれません。しかし、私たちは利益を得るためだけに新規就農したわけではありません。あまり売り上げが上がらない、トウモロコシやジャガイモなども栽培して農業の楽しさを優先しています」

「10年間5,000万円で生活してほしい」家族の説得と理解は?

「10年間5,000万円で生活してほしい」家族の説得と理解は?

農業という新しい世界へのチャレンジに本人たちはポジティブに取り組み、そのプロセスを楽しんでいる様子。しかし気になるのは、家族のことです。ご家族は現状に納得しているのでしょうか? そもそも会社を辞め、農業を始めることを反対しなかったのでしょうか。

続橋さんは、アーバンファーム八王子を立ち上げる前の2年間、農業を学ぶために毎週土曜日、住まいのある千葉県から、東京都の南町田、翌年は立川の農園に通いました。往復4、5時間かかる距離で、朝6時に家を出て20時過ぎに帰る日々だったそうです。「あんなに虫が苦手で、土など触ったこともなかった私が、朝早くから夜まで、毎週、疲れ果てても通い続けている姿を見て、家族は“どうしちゃったの?”という思いとともに“本気だ!”と思ったはずです」

「私自身は農業収入で生活していくこと、家族には最初の10年間を私の退職金と早期退職支援金、それと妻の収入で生活してもらうことを説明しました。10年間を何とか乗り切れたら、それ以降は農業収入がプラスアルファになり、そこからは少し楽になると説明しました。具体的には、“これから10年間を5,000万円で生きてほしい”と家族にお願いしました」

こうした続橋さんの決断に一番反対したのが、続橋さんの父親。「家族の生活を保証できるのか、自分の思いのために家族を路頭に迷わせかねないことはするな」と何度も言われたそうです。一方で2人のお子さんたちは、「うちのパパはちょっと変わってるみたい」と面白がってくれていたとか。そして奥さんは、続橋さんの決断に異を唱えることなく、しっかりと支えてくれたそうです。サラリーマン時代からの周到な準備としっかりとした生活設計、そして日頃の家族との密接なコミュニケーションがあったからこそ、父親の反対があったものの、家族の理解を得て新規就農が可能だったのでしょう。

50代が新規就農するには、「金銭面の計算を緻密に行うことが必須」と続橋さん。50代での挑戦は、失敗というリスクをできるだけ少なくするため、より現実的な計画をすることが大切です。

早期退職で未経験の3人が農業にチャレンジ【やりがい編】」では現状の取り組みや、新規就農に際してのコストについておうかがいします。

アーバンファーム八王子
住所:東京都八王子市小比企町2602-2
http://ufh.tokyo
※写真提供:アーバンファーム八王子

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